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喪失感新婚旅行 [16-2] 上田 真っ直ぐに語りたい男


石井ちゃんと待ち合わせをして、石井ちゃんおすすめの居酒屋さんに入った。

「ここの豚しじみ鍋がすごく美味しいんです!ニンニクの剥き方が凄くて…ニンニクの塊が浮いてるんですよ〜」

ニンニクの塊が、浮いている…?

石井ちゃんがニコニコと豚しじみ鍋の魅力について語ってくれているのだけど、ニンニクの塊とは…と想像がつかなかったのだが、テーブルに運ばれてきた鍋を見て驚いた。
本当にニンニクの塊がプカプカ浮いてる…!
プカプカと可愛く浮いているので、そのニンニクがなんだか愛くるしかった。


スタミナ満点の豚しじみ鍋の味は、意外にもあっさり。あっさりの中にニンニクのパンチ力が効きまくりで、病みつきになりそうなくらい美味しかった。
鍋を突きながら、近況報告をし合い、なんの話の流れかは忘れたのだが、北の国からの話を夫が始めた。
こうなってしまうと長いのだ。
この語りたい、お勧めしたいモードに入った夫に、いくらストップと言っても止まることはない。
話を遮ることがあっても、続ける。演説とか弁論大会とか、すごく向いてると思う。いや、今はそういうことではないのだが。
石井ちゃんはニコニコと夫の北の国から話を聞いてくれているのだが、大丈夫だろうか。
何時間、話をしただろう。お会計をし、駐車場までの時間もずっと北の国からの話をしていた。気持ちが良いくらい語っている。
石井ちゃんと別れ、私たちはゲストハウスに帰った。
奥さんの言っていた通り、今日は私たちしかいないゲストハウス。玄関のドアを開けると真っ暗で、慣れない手つきで明かりをつける。ただいまと言いたくなるこの感じ。まるで家に帰ってきたかのようで、とても良かった。

奥さんが言っていた、フカフカのマットレスが想像以上にフカフカと体を包み込んでくれ、布団に入ってすぐ、眠ることができた。
朝、ゲストハウスのラウンジに行って温かいコーヒーを飲もうとしたら、奥さんが帰ってきていて、外で猫に餌をあげていた。
もう、好き。ここで暮らしたい…そう思った。

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