黒の感情
自分の中にある黒から目を背けなければいい。
それを見てしまって憂鬱になるのは、きれいな自分でありたい願望を自分に押し付けているからだ。
色々な色があってもおかしくないのに、自分の中の黒を認めないのは、自分の一部を否定しているように思えて苦しい。
自分の中の様々な色達が幾重にも重なって、生まれた黒という色。それを嫌って切り取らずに、認めて心の叫びを聞くのも、良いのかもしれない。
私は探し物をしていた。
赤や青、緑やオレンジというカラフルなボールペンなら手元にあるのに、黒のボールペンが見当たらないのだ。
あんなにあったはずなのに、おかしい。
黒ボールペンがないと、始まらない。
この、手元にある大切な書類には、黒ボールペンで文字を書かないといけないのに、赤と青と緑とオレンジしかないのだ。
私はペン立ての中を選別する。
インクが付くか付かないか、白紙に書きなぐって、残す、捨てるを決めていった。
赤、青、緑、オレンジのボールペン。
ピンク、水色、黄色、紫のマーカーペン。
唯一あった黒ボールペンは、インクが残っているのに出てこない。白紙にぐるぐると書きなぐっても、筆圧の跡しか残らないのだ。
おかしい。
インクはあるのに、これ、捨てる側に選別されてしまうのか?
これだけ今の私は、黒ボールペンを欲しているというのに・・・!
黒ボールペンなんて当たり前の色、たくさんあると思っていたのに、なぜいきなりなくなってしまったんだろう・・・。
買ってこなければいけないな。
黒って、大切だよ。
黒も、ないと困る。
特にボールペンの黒は。
でもおかしい。
黒ボールペンは、他にもあったはずだ。
私は家中を探した。
テレビ台の上に、寝室に、子どもの机の上に、そのまま置いてけぼりになっていた黒ボールペンが、寂しげにそこにいた。
私はカラフルな色しか入っていないそのペン立てに、黒色のそれを片付けておいた。
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