【読書感想】井上荒野『ホットプレートと震度四』
2024年2月に出版されたばかりの短編集。
食にまつわる道具の話だ。それぞれの物語に登場する物たちが、まったく違う働きをしていたのが面白かった。家族をつないだり、現実逃避をする先になったり、切なくてほろ苦い思い出になったり。温かくも冷たくもある。
収録されている9編のなかで私が好きだったのは、「あのときの鉄鍋」と「さよなら、アクリルたわし」だ。鉄鍋はほろ苦い思い出の話。思い出は思い出として形がずっと変わらずに残るけれど、後からその意味が変わることもある。あの時の行動は、そういうことだったんだと気づくこともあるし、一生気づかないこともある。それが人生だよな。
アクリルたわしのほうは、これぞ、井上荒野さん!という感じ。ラストシーンがとても印象的だった。アクリルたわしというと軽くて、カラフルなイメージがある。それが重たくて目を背けたい現実から逃げる先になっていて、最後にはまた軽やかになる。物語のなかでイメージが変わっていくのが面白かった。
道具は物だ。物だけど、そこには思いが宿る。物語がある。誰かの生活を色濃く見た。