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パラグライダーで上空420mを飛んだ日

空を飛んでみたいという夢を、みんな一度は抱いたことがあると思う。ドラえもんの秘密道具のように、自由に空を飛ぶ感覚を味わってみたい。
鉄は熱いうちに打て。やりたいことはやったもんがち。叶えてやりましょう私の小さい頃からの夢。

というわけで、先日人生で初めてのパラグライダーを体験してきた。

空を飛ぶ道具は、飛行機やヘリコプター、熱気球などいろいろあるけれど、動力なしで一番手軽に飛べるのがパラグライダーだという。
今回は北海道に足を運び、タンデムフライト(インストラクターさんと二人乗り)を体験することに。


振り返ってみると、まだ高校生だった5年前から、手帳の後ろの方のページのやりたいことリストには「空を飛ぶ」の文字が躍っていた。気づけばその文字が消えないまま、大学4回生になっていた。いかんいかん。このままではずっと毎年空を飛ぶことを手帳に記すことになってしまう。

偶然にも友人が北海道に行く連れを探していたので名乗りをあげ、滞在2日目にパラグライダーに行くことが決定。予定を立てたその日に予約を入れた。このスピード感大好きだ。

当日はバスと電車とタクシーを乗り継ぎ、日没前の16時ごろに目的地に到着した。すすきがあたり一面にひろがり、風に振られてゆさゆさと草の音を鳴らしている。
挨拶した後かんたんに説明を受け、申込書にサインをした。今回私たちは2名で参加申し込みをしたが、同行できるパイロットさんがお一人のためフライトは1名ずつ交代で行うとのこと。パラグライダーはその時の風の影響を強く受けるので、片方だけが飛べたり、飛べなかったりする場合もあるようだ。協議の結果、友人が先攻でフライトに挑戦することになった。

青空の中1番に飛行する友人

先に私だけ着陸地点に残り、友人が離陸場所まで移動するのを見送った。20分ほどあたりを散策していると、トランシーバーからフライト準備の報告が聞こえた。しばらくして、赤いグライダーがふよふよと山頂から降りてくるのが見え、ゆっくり人の形が目視できるくらいまで近づいてくる。予想していたよりも安定した軌道で空を周回しており、とても気持ちがよさそう。着地場所の近くでぶんぶん手を振りながらカメラを回していると、あっという間に着陸してしまった。友人曰く「地面についた時の衝撃がすごい!鉄棒から落ちたときみたい」と、かなり身に覚えのある比喩で説明してくれた。

フライトシミュレーションを終え、いざ離陸地へ。移動中、車の中でスクール生の方におすすめのスープカレー屋さんを教えてもらっていると、急斜面の砂利道に突入。千と千尋の神隠しに出てくる最初の山道のように、車体ごと跳ね上がる。15分後、無事に離陸場所である山頂に到着した。ちょうど夕日が山に沈んでいく時間帯で、空の雲も幻想的な模様を描いている。肌寒さもないちょうどよい気温で、なんとも気持ちがいい。
ただ、友人のフライト時よりも風が弱く、なんなら無風に近い。そのため、しばらく風が起こるのを待たなくてはならなかった。このとき、追い風や強い風であっても危険で、フライトを断念するケースも多々あるらしい。何の根拠もなかったけれど、なんとなく風が吹くんじゃないかという予感があった。空を飛びたい一心で北海道に来て、当日バス酔いをしても諦めなかった私に、どうかお恵みを。

離陸地点から見えた空と夕日

ふと、前から頬にあたる風を感じた。周りの木々がわさわさと揺れ始め、地面の草が風に乗って後ろに流れていく。「これくらいなら飛べるねー」と声をかけてくださり、いよいよフライトの準備へ。後方に力がかかる分だけ前方に進むこと、完全に離陸して合図があるまでは走る足を止めないことなどの注意を受け、グライダーとカメラ付きのヘルメットを装着した。

「いきまーす。3・2・1、スタートです!」

後ろに引っ張られるのに抵抗して、大きく足を踏み出した。だんだん目の前の斜面が下りになっていき、よぼついた足取りが軽くなる。気づけば地面から足が離れ、木々の緑が見渡せるようになっていた。友人のフライトを眺めているときはふわふわした印象だったけれど、実際は揺れている感覚はなく、透明のエレベーターで移動しているような感覚だった。腰かけたシートはとても安定していて、不思議な浮遊感がある。緑と空の広がりに、思わずすごいと言葉が洩れた。

ヘルメット上のカメラより


空を飛ぶ、というよりは空を泳ぐという表現の方が近いのかも知れない。風を感じながらも、風と一体化したような不思議な飛行体験。下に広がる畑や電柱を見ながら、穏やかな風を感じる。緩やかな移動を楽しんだ後、のんびりと着陸地点めざして下降していく。地上に近づくと、一気に周りの空気が肌寒くなった。小学校の時の理科で、空気はあたためられて上に行く、という文言があったことを思い出す。着陸地点のバツ印が見え、再び足を走らせる。足が地面についた瞬間、すべての重力が戻ってきた。ドンっと衝撃がきて、思わず足が曲がる。確かに、最後は鉄棒から落ちたみたいだった。

おかえり、ただいまの声を掛け合って友人と再会した。「すごかったねえ~」「景色めっちゃ綺麗やった」そんな言葉しか出てこない。今振り返っても、初めて空を浮遊していた5分間のことを、うまく文章に残せられない。それでも肌で感じた空気感と高揚感と、あの時間帯が魅せてくれた絶景がとても心に残った。長年あたためていたやりたいことリストに、ようやくチェックを入れられた。

もう一つ、自然の力を借りて空を飛ぶパラグライダーで気づいたことがある。それは、コントロールできない力を操作しようとしないこと、いい風を読んでそれに乗っていくことが大切なのだということ。いい風を待つ、という姿勢には時間も気力も必要で、心に余裕がなければできないなあと思った。それと同時に、いい風をつかめたときの爽快感は何ものにも代えがたいものなんだろうとも。

余暇にふらりと空を飛ぶ、そんな大人になるのもいいかもしれない。








記事を読んでいただきありがとうございます。 みなさまよい一日を。