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『セレクトオブリージュ』 総括感想


☆シナリオ(25/50)

☆キャラ(24/40)

☆その他(7/10)

☆総括(56/100)

 プレイ時間は約15時間。推奨攻略順がトウリ→くくる→イヴ→奏命。まどそふと様の作品というよりは、「kuwa games」様の処女作という側面が極めて強い。ゆえに、原画の柚子奈ひよ先生の美麗なイラストによってカモフラージュされた作品だと認識しております。
 正直、舞台設定の広げ方、ヒロインの魅力の引き出し方、作品としての総合力すべてにおいて、さらにやりようがあったのではないかと言いたくなる程度には不満がある作品です。イラストが気に入ったのなら購入価値はありますが、私個人が「好き」な作品ではありませんでした。

〈注意 この先ネタバレを含みます〉


☆作品紹介

 2016年発売の『ワガママハイスペック』シリーズや、2020年発売の『ハミダシクリエイティブ』シリーズで人気を博したまどそふと様の期待の新作。しかし、まどそふと様の本ラインとは別制作ということで、原画も宇都宮つみれ先生ではなく、柚子奈ひよ先生にバトンタッチ。加えて、本作は美少女ゲーム制作集団「kuwa games」様の処女作です。いくら18禁ノベルゲームの大御所であるまどそふと様とはいえ、手を出せることには限界があったと見られます。
 思えば、発売前からスタッフ陣が発表された時点で、正直不安がありました。理由は私の批評空間に遊びに来て下さった方なら明確でしょう。私は『ワガママハイスペック』51点、『ラズベリーキューブ』52点です。はっきり言って、『ハミダシクリエイティブ』の方が異常なのです。しかも、その『ハミダシクリエイティブ』ですら78点。決して高過ぎるわけではありません。『ハミクリ』は甲木順之助先生という素晴らしいシナリオライターさんがいらっしゃったからこその出来だと認識しております。その『ハミクリ』ですら、諸要素の影響で80点に届いていません。よって、そこまで期待していない状態で購入しました。未知のシナリオライターさんに希望を持つことは大切だと考えているからです。
 さて、本作をどう考え、どう商品価値を見出したのか。じっくり考えていきましょう。

☆シナリオ(25/50)

 設定もキャラも活かしきれず、何もかもが中途半端。

〇体験版や共通√の範囲がまずおかしい

 本作の体験版をプレイして、まず第一の違和感を抱きました。それは体験版では、メインヒロインである奏命とトウリの個性が全く見えてこなかったのです。主人公、凪のスラム(珠賀良区)出身設定とワン・ズ・ギフトの説明、そして本作の敵役である風紀委員長、龍司との対立にばかり描写が向いていました。
 メインヒロインのうち、イヴと、かろうじて、くくるのみ個性らしさを感じることができる体験版ではありながら、その全容、メインヒロイン4人の可愛らしさをアピールするにはまるで不足している体験版でした。しかも、その体験版で最も活躍していた女子が、攻略ヒロインですらないファイブだと私は思うのです。これは正直、問題です。せっかくの体験版。ヒロインの魅力を早期にアピールしなければ、昨今の消費速度にはとても適わないと思います。さりとて本作は、文章も、近未来を感じさせつつも特徴らしき特徴はありません。よって、改善案があるのであれば、せめて『一人の孤児』までは体験版に収録することで、凪と珠賀良区の関係を開示しておく必要があったと主張したいです。
 さて、本来であれば全く関係のない体験版の感想をなぜこんなにも長々と記述しているのか。それは、私が体験版と製品版の共通√で同様の違和感を抱いたからです。昨今、分岐後はヒロインとのイチャイチャに終始する作品が増えつつあります。まどそふと様の作品も、はっきり言って全く例外ではありません。ゆえに、共通√で、どれだけ物語の地盤を固めることができるのかが問われているのです。ですが、残念ながら、本作の共通√はその地盤づくりに失敗したと言えるでしょう。というのも、共通√終盤の奏命とイヴが凪を助けに来る件が予想の範疇でしかなく、驚くことができなかった点。そして、敵役の龍司と汚職に関与した警察官が小物過ぎて、カタルシスを感じず、物語としての爽快感が不足している点。上記の点から、共通√は大変中途半端な出来、かつ、設定の掘り下げ不足だとプレイヤーが思うのです。

〇設定を生かし切れていないがゆえに、キャラの魅力を引き出し切れていない

 次に本作の設定です。本作は公式サイトに記載されているように、「身分違いの恋」、「カタルシス」が売りの、所謂「成り上がりモノ」です。『暁の護衛』や『グリザイア』シリーズに代表される、18禁ノベルゲームで比較的ポピュラーな分野と言えます。
 そして、本作です。正直に言います。本作で「カタルシス(不安や不快感などを浄化すること)」を感じる機会がありましたか?私はないと思います。というのも、結局、味方である桜元学園の学生会のメンバー達が優秀過ぎるのに対し、敵である龍司が小物過ぎます。パワーバランスが釣り合っておらず、せっかくのヴァルハラの、設定の深掘の余地がなくなっている印象を強く受けました。
 そもそも、今時、学園モノと、所謂「成り上がりモノ」を両立し、18禁ノベルゲームを制作するのはかなり困難であることは想像に難くありません。理由は、プレイヤー側が舞台設定を完全に活かしていると認識するまでは、前述した作品群を通して分かるように、かなり長い尺を用意しなければならないから。そして、「学園」という舞台設定自体があまり成り上がり、カタルシスモノと相性が良くないため、シナリオライターさんに負担を強いるから。これが代表的な理由です。
 前述した理由で、シナリオライターの先生に負荷が過分に掛かってしまい、ただでさえ危うい企画全体が倒れてしまった作品。それが『セレクトオブリージュ』なのだと見ています。

〇主人公、凪の回りにも不満が

 さて、今の時点で色々言ってしまいましたが、本作の欠点はまだあります。まず、凪自身の設定に疑問を持ちます。ワン・ズ・ギフトの当選者にして、珠賀良区出身ということですが、戦闘(運動)能力に特筆したものがあまりないです。無論、一般人と比べれば強いのですがね。また、これはトウリもなのですが、地頭が良いことを時々周りから言われていました。ですので、頭脳派の方向で攻めてくるのかと思いきや、結局、個別√でもそのような描写はなく、最低限、物語に置いて行かれない程度の知能しかないような設定でした。正直、凪には同情しましたね。これで、どう凪に好感を持てというのか、と。思うに、これは主人公や舞台設定を「学園」という極めて狭い舞台で描こうとしたがために起こった設定事故でしかありません。そうなのです。本作は「学園」という設定にこだわり過ぎたあまり「成り上がりモノ」として必要であった、カタルシス要素を大きく手離しています。本来、感想でこのような言葉を使うのはルール違反なのですが、設定に由来する説得力がないと言い変えても良いでしょう。
 そもそも、まどそふと様に問いたい。この作品は果たして主人公や登場人物達が学生である意味、さらに言うと舞台が「学園」である意味があったのか、と。学園設定が足を大きく引っ張っています。例えば、主人公を教師やスパイ等に設定しておき、相応の強さ(頭脳、武力、両面からです)を付与することで、珠賀良区出身の荒くれ者である設定に説得力を見出す等工夫の仕様はあったはずです。そうでなければ、この短いプレイ時間の中で全てを描き切ろうなどできようはずもありません。まして、ファイブ、花、空、汐莉、七といったサブキャラクターも活かそうと思ったら、予算、尺がいくらあっても足りません。
 本作の舞台設定は明らかに予算、作品規模を超えるものでした。その結果が、ヒロインの心理描写の不足。そして、作品全体の完成度の低さに繫がったと私は分析します。

 続いて、個別√やHシーンについて簡単に振り返っていきます。私の所感では、個別√の出来は奏命>くくる>トウリ>イヴだと認識しております。

〇トウリ√

©まどそふと

 トウリの秘密もそこそこに、展開されるのはまさかの龍司、帝雄のトラブルという共通√の延長線でした。そもそも、本作は前述した通り、龍司はじめ敵役に魅力を見出そうという作りをしていません。ただでさえ尺がかなり短いのです。敵役の出番や物語は共通√で片付けておくべきでした。
 それを踏まえて、良い点があるとすれば、選択肢が機能していた点でしょう。共通√の、「トウリをなだめる」or「凪は逃げ出した!」の選択肢で前者を選択しなければ、トウリ√に入ることは構造上出来ません。こういった形で、選択肢によって、未来を掴み取る感覚は、本作の数少ないアピールポイントと言えるでしょう。
 そして、肝心のトウリの魅力はどうだったのか?というと、極めて残念ながら、尺不足でかなりあっけない終わり方と言わざるを得ません。トウリも、妹キャラである必然性が薄いと感じます。その理由は、恐らくピーチ・フィールズ(孤児院)の掘り下げがかなり曖昧であり、尺もほぼ割かれていなかった点にあるかなと思います。さらにピーチ・フィールズ内部、あるいは奏命√で明かされる暗部の情報に、トウリ√でタッチすれば、疑似家族の愛情も、より強固になったと考えます。総じて、非常に勿体ないエンドだなと感じます。
 最後に、シナリオライターの若葉先生はトウリ√で「地頭が良い=空気が読める」という意図の発言をイヴにさせていましたが、これはかなり大きな間違いであると言いたいです。ノベルゲームに限った話ではなく、現実でもそうなのですが、真に地頭が良い人間、が剽軽なキャラクターを演じるというのはよくあり、イヴのこの発言はかなり「言わされている」感がありました。

©まどそふと

〇くくる√

©まどそふと

 恋愛要素という点で私はくくる√はかなり好きです。自身のオートマタ研究に執着し、性交渉に対して危うい価値観を持っていたくくる。彼女に対して、凪が取った行動は、攻めの姿勢。玉砕覚悟。デートや研究補佐でくくるとの距離を縮めるという正攻法でした。しかし、天才科学者であるくくるが、凪の魅力に染まっていく描写は純粋に面白く、興味深かったです。特にくくるの自慰行為ですね。これが全てもっていきました。私はヒロインが自慰行為を通して主人公への恋愛感情を認識する展開が大変好きなので、くくる√もその例に漏れず、ときめきを感じました。また、序盤から性交渉をくくるの方から要求してくるにかかわらず、肝心の性交渉まで時間が掛かっているのも大変高評価です。性交渉までの過程を重視するプレイヤーも満足したことでしょう。
 一方、√全体通して、オートマタ、AI関係の設定は残念ながら、中途半端になってしまったと言えるでしょう。物語の着地点はファイブのデザイナーチャイルドがくくるという件から、モンステラをオートマタ化するということなのです。しかしEDからエピローグまでの、一番見たかったシーンが省略されており、とても残念な思いをしました。改善案を出すのであれば、ファイブの恋愛感情、愛情の掘り下げもさらに行い、くくるとファイブの3Pに発展させるなどはいかがでしょうか?ファイブが宙ぶらりんになっている問題も解決できると思うのですが、恐らくFDへのネタに温存しているのでしょうね。この出し惜しみ商法は本当に作品の品位を下げるので止めてほしかったです。
 総じて、くくるとの恋愛描写には概ね満足がいったものの、ファイブ関連を物語に組み込んでいる以上、さらに設定面で掘り下げてほしかった要素があるといった印象でしょうか。

〇イヴ√

©まどそふと

 問題のイヴ√です。はっきり言います。設定が宙ぶらりん状態、物語が破綻寸前です。まず、本√で敵対するのが飴川紫乃さん演じる汐莉なのですが、彼女を悪者として描き過ぎているように強く感じます。というのも、汐莉が言う、「イヴが恋愛に現を抜かして、鍛錬を怠った」というのはある意味もっともなのですよ。そして、この恋愛中毒状態に陥っているという状態に説得力を持たせるためにはイヴをさらに堕とさなければならなかった。そう感じます。せっかく秋野花さんという極上の声優さんが演じておられるのです。汐莉の言に説得力を付与するためにも、現役警察官であるにもかかわらず、使命を疎かにし、恋愛に墜ちていく。そんなイヴが見たかったです。というか、イヴ√は、汐莉が言うほど、イヴが不真面目になっていないのですよ。イヴが真面目過ぎるのですね。ゆえに汐莉が「下手な悪役」になってしまっているのです。
 では一番重要なイヴのキャラクター的な魅力を存分に発揮できていたかと問われれば、非常に残念ですが、否であると考えています。いくら何でも、お利巧過ぎます。葛藤がないまま終わってしまいました。打倒汐莉のためになしたことと言えば、結局精神的ケアと鍛錬の再開に過ぎず、主人公である凪が介在する要素も少ないまま終わってしまいました。ここでも凪のキャラクター性の弱さに繋がるのです。凪がイヴ以上に強ければ、それこそ努力と経験の化身であったならば、凪自らがイヴに活を入れる等、やりようは複数あったはずです。しかし、本√はせっかくの主人公の活躍場所をも放棄し、最終的にイヴと汐莉の父親の不倫問題という問題に帰結させていました。これでは、プレイヤーは置いてけぼりを食らう。キャラクターの掘り下げは出来ない。何もかも台無しです。
 総じて、非常に強い違和感を覚えました。イヴと汐莉という可愛らしいキャラの和解という重要なテーマを描いている以上、その和解に至るまでに主人公がさらに介入する必要が、物語上あった。そう認識しております。

〇奏命√

©まどそふと

 私が最も評価している√です。奏命√には恋愛が一応、ありました。その恋愛過程を装飾すがごとく、終盤で明かされる凪の生殖能力の低さ問題も鍵になっていましたね。婚約者になる過程も共通√からのくだりで比較的すんなり受け入れることができましたし、何より奏命が格好良すぎます。ついでに言うと、一番えっちだったのは奏命√でした。これは私の好みもそうですが、くくる同様、奏命も凪との性交渉に大変積極的で、しかもくくると異なり、最初のHシーンまで比較的早いです。「抱かれるのではなく、抱く」という価値観も王者の貫禄を感じることができました。私個人の好みとは異なりますが、好きな方は今のトレンドを考えると多いでしょうね。満足しました。
 ですが、不満点もいくつかありまして、危うい橋を渡っているなとも感じる√でした。まず、設定面なのですが、奏命の権限が学生の割に強過ぎて、カタルシスというかピンチがなかったのです。ストレスがないとも言い換えることができます。ただ、ここまで一ヒロインに権限を付与するのであれば、上述したように、凪をはじめ登場人物は「学生」という立場でない方が作品として面白かったでしょうね。はっきり言って、学生にあれだけの権力があるのは緻密な設定でもない限り、説得力がありません。
 次に凪の生殖能力の欠陥について。これも具体的な解決策を描かずに、ある種気合で妊娠してやるぜエンドでした。これがかなり不満でした。せめて凪への具体的な治療方法を提示するなり、ヴァルハラの最新技術を活用して、凪と奏命の遺伝子を持ったAI、オートマタを開発する等の論理的な解決法を提示して欲しかったです。
 ついでに言うと、エピローグで奏命の妊娠が公表されていましたが、この展開なら子どもが生まれてから、大家族で過ごす、まさに凪が本編で語ったエンドの方が、収まりが良いように考えるのは私だけでしょうか。総じて、恋愛描写がイヴ、トウリよりしっかりしていたので、かなりマシに映りましたが、結局設定面の瑕疵が足を引っ張っているように見えます。

〇Hシーン

 Hシーンは良かったです。これはシナリオというか、声優さんや原画家の先生による実力によるところが大きいです。特に好きなのはくくるの自慰行為と、トウリの手コキ、イヴのコスプレHですね。特にイヴはアナルHもあってやや挑戦的に感じました。こうした試みは大変男性の心を刺激しますね。
 また、H後に妊娠を示唆する発言が多かったのも嬉しいポイントです。結局、奏命√以外では凪の生殖能力の低さという秘密は明かされないのが悔しい点ではありますが、幸せ家族エンドor妊娠エンド大好きマンとしてはこのサービスは大変褒め称えたくなるポイントでした。

 総合的に見て、不満点が多々ありました。特にイヴ、トウリは正直、残念過ぎる要素が多過ぎて困りましたね。一方、不満点はあれど、くくる、奏命√の出来はそこそこ良いので、25点を点けています。
 結局、成り上がり系のシナリオを構成するのならば、さらに尺が必要でした。また、設定面も学生にできる範囲は限界があります。その点を、制作者サイドは理解する必要があります。加えて、ファイブや花、空等の魅力的なサブキャラクターを攻略できない、Hシーンがないというのも大幅に足を引っ張っています。これがFD商法だとしたら、まどそふと様の印象は最悪と言わざるを得ません。商売に貪欲とは言え、もう少々ユーザーフレンドリーな作りを求めます。

☆キャラ(24/40)

 キャラクター部門ですが、普通にいっていたら30点を超える出来だったでしょうね。それがなぜ24点なのかというと、偏にキャラクターの魅力、個性をほぼ活かせていなかったからです
 私のキャラの好みで言えば、イヴ>トウリ>くくる>奏命です。発売前と変わりません。これは声優である秋野花さんと七種結花さんによる影響が大きいです。しかしですね、前述したシナリオ部門の出来を考慮するととてもこの2キャラクターを盲目的に好きになること等できませんでした。
 奏命は前作『ハミダシクリエイティブ』シリーズの鎌倉詩桜味を感じるヒロインであり、男らしさ感じます。奏命√終盤で「(10人)子どもを産んでみせる」という宣言は、それだけ凪のことを考えての発言です。ゆえに格好良いキャラ路線でいきました。そこの一貫性は評価します。しかし、私の好みに入るかと言えば、残念ながら、全く興味がなかったです。恐らく一定数いると思うのですが、私にとって18禁ノベルゲームに求めている女性キャラクター像は「母性を感じ、守ってあげたくなるようなか弱さを持っている」なのです。よって、奏命は、キャラ自体は一貫しているけれど、私の好みではなかったと認識しております。
 次にくくるですが、このキャラも残念ながら私の好みではなかった+キャラ付けがまた記号的に感じたことが要因です。結局、シナリオライターの若葉先生が、こうしておけば可愛いだろうな、と考えて設計した感は否めません。変に男性受けする要素ばかりで違和感を抱きました。強いて言えばハンバーグや甘いもの好きという設定は、トウリとの関係も構築出来ていてよかったのではないでしょうか。また、自慰行為を行い、自らの恋愛感情を自覚する展開も王道ながら、キュートです。ですが、オートマタ研究家としてはこれも表裏一体に感じました。くくるからは「凄み」を感じません。一代で財力、科学力を形成したという設定に対して、その天才性を文章で表現できていないように感じました。好み、好みではないは置いておくと、設定の裏付けが奏命ほどはなされていないと感じました。
 次にトウリ。孤児院出身ということで、母性も非常に深い、妹系ヒロインです。ただですね、後述するイヴにも言えるのですが、シナリオの影響で大分損をしているヒロインだとも感じています。ピーチ・フィールズにおける生活も、結局そこまで明かされませんでした。何よりヴァルハラの生活が主では、他ヒロインと比べて没個性になってしまう。というか実際なっていました。トウリのキャラクターを全面に押し出すならば、トウリの最初のHシーンのように蠱惑的で女性主導のキャラを貫いて欲しかったというのは我儘でしょうかね。
 最後にイヴ。小悪魔系ヒロインで、秋野花さん。しかも眼鏡!これは私の好み直球のキャラでした。ですが、肝心のイヴシナリオの影響で、イヴの魅力である、凛々しさ、努力の天才という方向性はかなり減衰されてしまっていました。まず、イヴの努力というのが本編で描写されている箇所が少な過ぎて、努力家と言われても?という印象を持ってしまいます。詳細はシナリオの項目で記述しましたが、イヴ√は汐莉関連のことを描写するにしろ、一度敗北する流れだけではなく、イヴ本体を押し出す形にした方が良かったように強く感じます。もっとも、それでイヴの魅力が全て無くなるかと言われると、違います。私はイヴが、最も本作で気に入ったキャラでした。ですから、是非、イヴの誘惑をさらに受けたかったです。
 また、大切な話なのですが、結局、奏命とイヴが凪に惚れる理由とは明確に描写されていたでしょうか?私には説得力がないように感じられて、割と説明不足感を抱きましたね。同時にあんなにも凛々しかったイヴが何故、個別√で弱々しい態度(勿論、汐莉に敗北して、自信を喪失したという年相応の悩みはあったのでしょうが)になってしまったのかと疑問も抱きました。
 加えて、本作はファイブ、花、空、汐莉、七という(キャラデザは)魅力的なサブヒロインが複数いるのです。彼女達はFD要因なのでしょうか?大変消化不良で、印象を大幅に落としています。特にファイブについてはくくる√で掘り下げの余地が多分にあったにも関わらず、Hシーンの一つもないという始末です。非常に残念です。
 総じて、活かしたい、活かしてほしい場所でキャラクターの魅力を活かすことに失敗し過ぎています。一度、二度の失敗ならば何も問題ないのです。ただ、ここまでキャラクター方面の瑕疵、違和感が続くと評価も低くなることを制作陣も知る必要があるでしょう。よって、厳しいかもしれませんが、キャラは24点です。

☆その他(7/10)

 サウンドは流石の一言です。一応、まどそふと様から出ている作品だけあり、ボーカル曲も全5曲。特にOPテーマ『Path to glory 』は成り上がりモノに相応しいアップテンポな曲で、格好良く感じます。正直、『ハミダシクリエイティブ』よりOPは好みです。一方、ED曲は歌詞まで考えると、どちらかと言うと、作品に寄り添うタイプではなく、独自のサウンドとして売り出す方針のようです。つまり、歌唱は必ずしも作品に準拠したものではなく、独自の作品となっていました。よって、キャラに寄り添うタイプではないようです。奏命√ED『Genuine World』、イヴ√ED『I will…キミがいるから』のように気に入ったキャラクターEDはありましたが、残念ながら『ハミダシクリエイティブ』のようにEDが心に残る類のものではありませんでした。
 次に世界観。これは今まで散々お伝えしてきましたが、これは失敗しています。発売前から風呂敷を広げ切っており、本当に大丈夫か?と疑問を持っていましたが、案の定、畳み切れていませんでした。シナリオの項目でもお伝えしましたが、凪の設定ももう少し捻る余地はあったと思うのです。しかし、それが許されなかったのは恐らく、企画が無茶だったのだと睨んでいます。結局、近未来、成り上がりモノで学園という狭い範囲が舞台。これでプレイ時間約15時間。この尺で収めろという方が無理です。これはシナリオライターの若葉先生の責任ではありませんよ。先生には悪いですが、同情してしまいます。
 最後にシステム。これはもう満点ですね。流石にまどそふと様だけあり、バックログ関連。お気に入りボイス登録機能。いずれも標準装備。間違いなく一級品のシステムです。
 総じて、システム最高。サウンド凡。世界観、雰囲気、不可。という具合で、総合的に見て、7点です。商業トップクラスの制作会社様だけあって、その他に類する点はかなり押さえられていましたが、如何せん世界観、及び設定回りが足を引っ張っていました。

☆総括(56/100)

 総合的には凡作(D)認定です。思えば、本作には過度に期待をかけ過ぎているプレイヤーが多い印象を受けます。4年ぶりのまどそふと様の作品です。無理からぬことでしょう。しかし、現実的に本作は、凡作の域を全く出ていない。キャラゲーとして見ても、中途半端な作品。そう感じます。一方、私は今までのまどそふと様の作品を比較的、低く評価しております。その意味では、本作はある意味期待通り。面白かったと言えば、感想記事を執筆する過程込みで興味深かったと言えます。それに、イヴという秋野花さんの新境地も見ることができました。ある意味、感無量です。イヴのキャラには救われています(シナリオは未熟な部分が多々ありますが)。
 本作は有名会社「まどそふと様」の名義で出された、事実上の「kuwa games」様の処女作であることを忘れないでいただきたい。そう思います。私も、本作を通して、設定の開示やキャラの掘り下げが不足するとこうなるのだなあ、と新たな知見を得ることができました。その点でスタッフ陣の皆様にはお礼申し上げます。また、ここまで長大な感想を読んで下さった皆様にも心からお礼申し上げます。ありがとうございました。


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