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『アンラベル・トリガー』 総括感想

☆シナリオ(34/50)

☆キャラ(35/40)

☆その他(8/10)

☆総括(77/100)

 プレイ時間は約30~32時間。推奨攻略順はレイリ→ソフィア→ミリィです。圧倒的な世界観、気合が入ったキャラクター、強力なスタッフ陣。謎が謎を呼ぶ展開に対し、広げた風呂敷を畳みきるライターさんの実力。そこに敬意を表します。正直、気になった点は多数存在しますが、それを含めても間違いなく一般受けする作品であると言えるでしょう。また今までノベルゲームをどれだけプレイしていたのかの経験値も、本作を楽しめるかどうかに深く関わると思います。ネタバレなし総評としては、「気になるならプレイして損はない、ノベルゲームプレイ経験が浅いほど思い出に残る可能性が高い」作品であると言えます。



〈注意 『創作彼女の恋愛公式』にも関わる重大なネタバレを含みます〉




☆作品紹介

 スタッフ陣的に事実上の前作と言ってよいAino+Linksから『創作彼女の恋愛公式』が発売したのが2021年11月。そこから約2年半経過後に発売されたArchiveの『アンラベル・トリガー』。スタッフ陣は原画の有葉先生を含め強力な布陣です。しかし私は信用できなかった面があります。理由は私の中で『創作彼女の恋愛公式』があまりにも凡作であったことに尽きます。後述しますが、『創作彼女の恋愛公式』は致命的な欠点を抱えている作品でして、スタッフ陣、特に企画・シナリオの工藤啓介先生の実力を信じ切れていなかったのですね。加えて豪華版は約20000円で、豪華版にのみサブキャラクターのHシーンが付属しているという形式の売り方にも疑問を抱いてしまいました。それだけで点数を落とすようなことはしません。しかし、印象は悪くなってしまいますよね。一方、豪華版にのみ付属する特典は流石に相応のものでした。特に設定資料集とサブキャラクターのHシーンには魅力を感じました。前作の例を考えれば、本作の豪華版も高騰するでしょう(実際しています)。そういった情報を考えて、私は賭けに出ました。即ち、本作『アンラベル・トリガー』を信じようと。面白い独自の物語を見せてくれるのだろうと。そう思えば躊躇なく豪華版を予約できたものです。さて、そんな全力の準備をして、スタッフ陣にも希望を見出し、勇気を持って購入した本作。私の持てる全てで見ていこうと思います。




☆シナリオ(34/50)

 世界観の構築、物語の落としどころは流石の一言。しかし、既視感はありました。

〇世界観の構築

 世界観はある種、18禁ビジュアルノベルで典型と言えるものを敷いています。しかし風呂敷を広げ過ぎないように明らかに意識されているようにも感じました。例えば、竜種や鳥人等設定上は存在するものをほぼ掘り下げずにいたことですね。自分の作品で深堀できる範囲を自らで把握して、風呂敷を畳みきれる範囲で描写する姿勢には大変好感が持てます。それだけに本作の世界観について気になった点は後述する重大な点を除きほとんどありません。設定資料集を読んだ今なら、どれだけこの世界観が練りに練られて完成したものなのかが分かります。


〇『創作彼女の恋愛公式』から進化

 さて、本作を語るに当たり、おさらいしなければならない作品がいくつかあります。事実上の前作『創作彼女の恋愛公式』もその一つです。私は『創作彼女の恋愛公式』にシナリオ:20、キャラ:25、その他:7の合計52点を点けています。理由は2つあります。第1に、舞台設定、序盤の物語の運び方が『冴えない彼女の育てかた』に極端に似ている点。第2に、メインヒロインである逢桜の命をあまりに軽く扱っている点です。
 第1の点ですが、これは本作にも言えるのですが、あまりにも『冴えない彼女の育てかた』に似過ぎているのです。これは恐らく多くの方が指摘しているのではないでしょうか。世界観、意図的に作り出せる雰囲気が全体として前述したライトノベルに露骨と言ってよいほど、似ていました。それ自体は仕方ないのですが、作中で他作品を再構築し、一つの新作を生み出すことを暗に肯定していました。ただ、その場合は例えば社会人の物語にする等、類似作品とは根幹設定を変える必要はあるでしょうね。結局、私は、流石にこれはシナリオに高い点数を点けることが出来ないだろうなと確信していました。
 そして第2に、逢桜の命をあまりに軽く扱っている点です。物語終盤、逢桜は命を散らすがごとく作品作りに打ち込みます。しかし主人公である寿季はそんな彼女に性交渉を許します。しかも相当激し目に。作中でも言っていましたが、命を散らすがごとくの性交渉です。その迫力自体は感じ入るものがありましたが、単純に「そうはならないだろ」という感想を抱きました。
 さて、本作の感想に入る前の『創作彼女の恋愛公式』の違和感は概ね言い終わりました。次に本作『アンラベル・トリガー』に話は戻ります。感じたこととしては、本作は『創作彼女の恋愛公式』の違和感を大幅に改善していたと思います。基本的に本作は真の部分は「平和の実現」というテーマを掲げています。それはどの√でも変わりません。そしてそのテーマが確固としていた本作は、前作のようなテーマのブレ、他作品からのアイデアの引用(と言われても仕方ないと思います)のような問題が見られませんでした。また前作の問題点二つ目で語ったような性交渉の違和感も、本作は極力削ぎ落しています。
 これらの点は前作からの明確な進歩と言えるでしょう。つまり、「他作品に極端に似ている点はあれども、その違和感を如何に消すか、自作品にどれだけ独自性を持たせるか」という点で本作『アンラベル・トリガー』は一定の成功を収めたと言ってよいということです。それは前述した世界観設定が上手いから、そして何よりキャラクター設定でしょうね。本作はキャラクターに関しては、かなり扱いが上手い作品であると認識しているので、そこもまた話の上手さに繋がっているのだと思います。

〇展開が予想できる、似ている作品がある点

 一方、全項目で述べたとはいえ、当然気になる点はあります。世界観、雰囲気、設定、そして話の運び方が、『ジュエリー・ハーツ・アカデミア』や『穢翼のユースティア』、『千の刃濤、桃花染の皇姫』等に極めて類似しているのですね。特に『ジュエリー・ハーツ・アカデミア』とは無視できないレベルで似ていました。展開もかなり似通った部分があり、正直様々な描写で既視感を覚えました。そこについて詳しく触れたいところですが、流石に本作の感想でこれ以上他作品のネタバレを記すのもどうなんだと考えていますので、今回は敢えて記述しません。
 さて、では似ていても良いか、という問題があります。近年、ビジュアルノベル界で傑作と謳われている作品では近代の作品の「再構築」に対して肯定的な視点を持っている作品がありました。私も展開がある程度似ているだけなら全く問題ないと考えています。しかし、展開の既視感だけはどうしようもありません。所謂オチが予想できる問題です。本作では残念ながら、オチがかなり予想できるのです。これは流石に問題であると考えています。というのも過程がいくら類似作品に似ていてもオチ、作品の信念までも似せることは如何なものかと私は感じてしまいました。特にミリセント√の紗衣奈の最期は所謂他作品でもよくありがちな構図だと思います。予想できない展開を常に出し続けろとは言いませんが、オチの予想が出来てしまうのは一作品として、明確なマイナスであろう。そう考えた時、私は本作のシナリオを高く評価できなかったのです。勿論、部分的に面白かったシーンもあります。しかしシナリオを評価する上で何を求めると自分に問うた時、私は「予想できない展開」「驚愕の連続」がどうしても欲しかったのです。本作にはそれがない。ゆえにある意味、既存作品の再構築に特化した本作と私の相性は悪かったとも言えます。

〇ポストあかべぇそふと、オーガスト

 とはいえ、本作の作品ポテンシャルは本物です。Archiveの将来については全く分かりませんが、このまま作品を安定して供給して下さるポジションに滑り込めば、「ポストあかべぇそふと」、「ポストオーガスト」等の有名会社と言われることも可能でしょう。しかし現在では上記会社のポスト○○になるためには一歩不足しているとも考えています。例えばあかべぇそふとと比較した場合、シナリオの勢い、目新しさ。オーガストと比較した場合、演出面、声優さんの発掘(設定資料集から声優さんの選定は経歴、人気を考慮しないオーディションによってのものとのことですので、これらは期待できます)等です。
 まとめると、Archive は18禁ビジュアルノベル業界の新時代を担える逸材であると思います。しかし現状では既存の作品の焼き回しになってしまっている。この点は本当に悲しいことです。Archiveの次回作は必ずやオリジナリティに溢れた作品であることを心から祈っております。

 さて、次に軽く個別√を振り返りましょう。私は本作の出来で言えば、ミリィ√≧ソフィア√>レイリ√の順の完成度かなと考えています。

〇共通√

 かなり丁寧であったあと思います。第〇話ごとの引きも謎が謎を呼ぶ展開の一助になっています。キャラクターも大量に投入し、伏線も相当撒いています。ただ、カイの元カノがナトレであることや若葉の正体、ソフィアの足の謎くらいは共通√で明かしても良かったかもしれません。本作は共通√は非常に丁寧なのですが、個別√の謎の明かし方(情報の解禁の仕方)が若干雑であるという特徴を持っています。個別√偏重の頭でっかちな作りになっているのですね。ゆえにもったいぶらずに共通√で、ある程度の情報を解禁しても良かったのかなという印象を持ちます。

〇ソフィア√

 ソフィア自身のヒロイン力が相当光っている√でした。クーデレ気質でしたし、精神的にデレてからの温度差の関係で付き合う前のソフィアの方が好みという方もいらっしゃるかもしれません。しかし個人的には作中で描かれていたデレてからのソフィアの方が好きでしたね。結局、ギャップ萌えに弱いというのもありますが、真にカイのことを信用していたからこそ取れた行動も多々あったので、個人的には展開含めて好きです。
 というかルーラー帝国の独立というかなり大きなテーマを負っているのですから、設定上ではセンターヒロイン級でもおかしくないのですよね。その意味で、本作は一人一人がセンターヒロインとして活躍していると言えるでしょう。架空戦記物としても読み応えがあるなかなかの出来だと思います。既視感も比較的少なかったです。
 また本√では作中唯一、紗衣奈と手を組みます。また紗衣奈はカイに介錯されます。このシーンも作中でかなり好きな部類ですね。紗衣奈もさぞ満足であったことでしょう。
 最後はソフィアの笑顔で締めることができて、本当に良かったと思います。

〇レイリ√

 さて、レイリ√です。レイリの真っ直ぐさ、素直さが丁寧に描かれ恋愛物語としては非常に完成度が高いと思います。主人公のカイは社会人です。ゆえに安心してカイ&レイリのコンビを見ていることが出来ました。告白シーンも非常に印象的で、レイリの掘り下げもかなり丁寧な印象を受けます。
 一方、レイリの復讐がテーマかと思いきや、あっさり解決してしまいました。これは本作全体にも言えるのですが、特にレイリ√では謎が早期にバンバン解決され過ぎなのですよね。その象徴がレイリ√の復讐、つまりヘンリエッタの法的処罰が済んでいたという点です。また、レイリ√ではサブキャラクターに一部雑な扱いのキャラクターがいるとも感じました。それがヘンリエッタ、ナトレ、紗衣奈です。特にナトレは本√で非常に重要な役割でありましたが、本√でもイベントCGもなしに退場してしまいます。流石にCGくらいはないとナトレが可哀そうだと感じましたね。紗衣奈にしても他√で深堀されているからでしょう。あっさり打破されました。その点、紗衣奈も悔しかったのでしょうね。最悪と告げて脱落してしまいます。
 これらの不満点もあり、といったところでレイリ√はレイリ本人に注目していました。最後は合衆国に戻るエンドのわけですが、当然完全な離別というわけではなく、希望を持った締め方でした。個人的には寂しい感覚もありますが、良い締め方だと感じます。

〇ミリセント√

 流石にセンターヒロインだけあり、総括√として、今までの情報、伏線がまとめられていましたね。全てのヒロインが、キャラクターがその全てを賭けて全力で動き出す様は見ていて爽快でした。終わり方も誤魔化しの効かない、ある種綺麗事だけでは通用しない落としどころでした。ゆえに納得感はありました。
 一方、気になった点も相応にあります。ミリィ陣営の物語上の優遇が過ぎる点がその最たる点でしょう。いくら何でもミリィ陣営の被害が戦争の規模に対して少な過ぎると感じました。またミリィ自身も自分の立場(皇位継承順位が高くはないとはいえ、事実上の穏健派としての継承者です)に対して動かし過ぎるという点も気になりました。例えばレイブン等のギャングのアジトに潜入したり、カイがいるとはいえ大使館の形式的には単独行動を意外と行っていたりです。ハインツ皇帝は敢えて黙認していたのでしょうかね。設定資料集からはその思惑が大変感じられました。しかし違和感は消えません。
 一方、グランドエンドらしく、各ヒロイン毎の行動動機がしっかりしているため納得感はあったのです。ソフィアはカイへの信用を真に自覚したシーン、レイリは実父であるパーカー大統領の、人としての最後の防波堤になる場面です。これらのシーンはミリィ√のグランドエンドたる理由です。
 さて、上記のようにグランド√として描かれたミリィ√ですが、描き方にも疑問が。それはミリィ√ではない真グランドエンドも欲しかったという点です。制作陣の意図としては、ミリィを特別な位置に置いておきたいという思惑があるのは理解しています。しかし、ミリィ√に重要情報、重要描写を描き過ぎて、少々、頭でっかちになっている気がありました。代表的なのが紗衣奈の最期です。ミリィ√の紗衣奈は本当に鍵を握るキャラクターであったので、納得は出来るのですが、紗衣奈を掘り下げる真グランド√が欲しかったなと感じてしまいました。ただ、尺の問題や三ヒロインの√で完結させたこと自体を功績と考えることも十分可能です。よって私からこの点について評価をどうこう言うのは差し控えます。
 総評、ミリィ√は多少上手く行き過ぎた点もありましたが、概ね見たいシーンをほぼ見ることが出来る良√でした。


 次に、個別に良かった点に触れていこうと思います。

〇良かった点

☆ミリィと紗衣奈の対比

 ミリィと紗衣奈は作中でもよく分かりやすいように対比されていました。両者とも理想主義者ですが、そこには違いがあります。紗衣奈は孤児院の仲間やナトレを信じられなかった。一方、ミリィは信じる心の化身です。最愛の母を殺害したカイを信じきりました。実際、ミリィは実母のしたことを背負いきる行動もしていましたね。まさに信じる心の違いが最終盤の展開にも表れていました。
 結果的に、紗衣奈はカイのノーブルによって記憶を消されてしまいます。これは紗衣奈にとってはまさに本人が口にした通り、悪魔的な発想であると言えます。記憶が無くなることで第一の死を経験することになるからです。一方のミリィは西ヴィルカールも統治者として力を尽くすことになります。私はこの二人はどうして対比的に見えて仕方ないです。     
 結局、理想主義者でありながら、理想に殉じる終わり方だった(紗衣奈)か、理想は理想、現実は現実として折り合いをつけている(ミリィ)かの違いでしかないように感じたのは私だけでしょうか。というのもですね、結局、根本的に理想家という点で紗衣奈とミリィは本質的に似ているのですよ。ゆえにミリィ√のあの終わり方になるのもある種必然と言えるでしょう。私はミリィ√の紗衣奈関連は情報の出し方が下手に感じましたが、終わり方は大変綺麗に感じました。結局、グランド√(ミリィ√)では紗衣奈は生きて、しかしある意味死んで、一からやり直すエンドです。この対比が意識的になのか、無意識的になのかカイは理解出来ているのですね。だからこそ、本編最後で紗衣奈と深く関わらず、最後はミリィとの関わりを選択したのだと考えます。

☆三ヒロイン毎の物語が綺麗に描かれていた

 ここは高く評価したい点です。私はノベルゲームである以上、マルチエンドに意味を見出しています。つまり、異なる結末を迎える事が出来る点です。本作は情報の出し方こそミリィ√にかなり偏りがあるように感じましたが、それぞれの√毎に個性があるように思いました。ソフィアの皇女としての役割、レイリのパーカー大統領の隠し子設定、ミリィの母親やカイ関連の伏線。これらは個別√を設けたからこそできた手法です。
 と言うのもですね、本作は、有名作品で言えば、『車輪の国、向日葵の少女』や『穢翼のユースティア』のようにヒロインの√を独立させずに、√を一つの物語の中に埋め込むことで全体完成度を高め、整合性の高さを魅力とする所謂「√脱落形式」では、ありません。√脱落形式には全体の統括が容易かつ整合性が高い、熱いシーンを連続で描写できるという強力なメリットがあります。反面、各√で重要情報を明かすことが出来ず、どうしても不遇と言えるヒロインが出てくるところが難点と言えるでしょう。本作はそのような形式を取らず、同スタッフ陣の前作『創作彼女の恋愛公式』のように各個別√が独立したまま物語が進みます。ゆえに「この√ではAの謎を明かし、別の√ではBの謎を描く」といった動きが可能になるのです。
 私は上記の√脱落形式もまた有効活用する余地はあると思います。しかし本作に関して言えば、個別√を設けて良かったなと強く感じますね。

☆ピロートークの存在

 これも大きいですね。最近は18禁ビジュアルノベル界でピロートークを重視する機運の高まりを感じておりますが、本作もその例に漏れていません。各ヒロイン毎に真の意味で
ピロートークできていましたし、そこには意味がありました。個人的にはソフィアのピロートークが好きです。ソフィアの内面を丁寧に描きながら、H後の甘い雰囲気に浸ることが出来ました。

☆設定資料集の出来が良い

 これは豪華版の予約特典の設定資料集についてですね。これを点数に入れるかは微妙ですが、相当踏み込んだ部分まで設定が開示されていました。特に雲、ハインツ、オレグに関しては重要情報が公開されていました。制作陣のインタビューも必見です。総じて、特典として満足できるものでした。

〇気になった点

☆選択肢単純過ぎ問題

 本作は選択肢があまりに簡易過ぎます。名作、傑作級の作品が選択肢の扱いには慎重な傾向にあります。これはなぜかと言うと、選択肢によって物語の方向性が、主人公の意思が明確に決まっていくからです。勿論、選択肢をほとんど機能させていない作品も、特に近年の作品では顕著にあります。しかし本作は世界観の関係で選択肢に必然性というものが全く感じませんでした。これは正直、致命的な問題です。「〇〇のことを思い浮かぶ」。たったこれだけのことで、カイの想いが変わるだけで、世界があそこまで変化するような生ぬるい世界観設定ではないはずです。ゆえに私は選択肢に関しては全く納得できませんでした。『創作彼女の恋愛公式』の弱点をそのまま引き継いだ形です。

☆演出が弱い

 演出面も弱く感じましたね。一枚絵の切り抜きを多用する演出はオーガスト等他企業が多く行っている典型的手法です。しかし本作はその手法を取るのに必要な一枚絵の数が致命的に不足しています。このままではありきたりな演出を多用しているように感じられ、演出面だけで言えば飽きてしまいます。
 同様に、BGMの使い方もありきたりな印象がありました。後述する引きの問題でも同じことが言えるのですが、多様なBGMがある中で、その使い方には工夫が不足しているように感じます。何というか、一言で言えばワンパターンなのですよね。普通、名作級の作品であればBGMの使い方(演出)も凝っていて、例えば終盤になって新規BGMを解放するという手法が取られるものです。しかし本作では最初からエンジン全開。最初から出し惜しみなしと言えば聞こえはいいですが、温存もしていないのですね。ゆえにBGMの使い方が一辺倒に感じるのです。

☆引きがいつも一緒

 正直、これは誰もが感じていたことでしょう。引きが「それは――」「そうだな――」といった具合で、引きの文章がワンパターン過ぎるのです。またこの展開か、と感じます。前述した展開が読めるという問題に滑車を掛けているのがまさにここです。この文章が出た瞬間にああ、これはフェイクなんだな、という予想がつきやすかったです。

〇Hシーン

 Hシーンは全体的に良かったのではないでしょうか。この際、Hシーンが9シーン(豪華版で12シーン)しかないのは仕方ないとしましょう。卑語はなしです。しかしピロートーク含めてキャラクターの可愛らしさを前面に出すようなシーンでした。全員のシーンが好きですが、私の個人的な見解では、ソフィアの幼児体型を気にするようなHがとても可愛らしく、しかしそこにギャップを感じられて、良かったと思います。
 もっとも、Hシーンに関してはミリィ、レイリの一部CGに強烈な違和感を持つものがありました。おっぱいが大き過ぎるのですね。これは若干いただけないポイントでしょうか。

 総じて、シナリオは34点です。結局、展開が読めるという弱点を克服しきれていない部分が致命的でした。はっきり言って、作品としての独自性を持てていないのです。そこを低く見てしまい、面白かったけれど、これくらいの点数が妥当だろうと結論付けました。


☆キャラ(35/40)

 まず、前提としてキャラクターは設定資料集を拝見した限りでも、本編上でも、明らかにしっかりしていました。ここも『創作彼女の恋愛公式』から明確に進化している点です。背景がそれぞれのキャラクターに細かく設定されており、それぞれのキャラクターが各々の信念の名の下に全力でしたね。
 一つ言いたい点があるとすれば、展開、尺の関係で端折られているなと感じるキャラクターも多数みられる点でした。特に紗衣奈、雲、ハインツあたりは描写不足、ぽっと出感がありました。またキャラクター上限の関係もあるのでしょうが、一つのキャラクターにいくつもの役割を持たせ過ぎて、役割飽和(役割過多)を起こしている点も否定できないでしょう。代表的な例で言えば若葉、ナダルです。いずれも実は…という謎が多過ぎて、正直、違和感を覚えました。その他のキャラクターに関してもほぼ同様のことが言えます。以上の点からマイナス5点されています。
 しかし、上記の点以外はほぼ完璧です。私はソフィアが最も好きでした。自分の目的に対して貪欲に突き進む姿勢。策謀を駆け巡らせて挑むその度胸。作中でも言われていましたが、ギャップ萌えの部分も含めて全て好きです。ソファイ√の完成度も高かったですから。
 ミリィ、レイリも勿論好きです。ミリィは理想主義者でありながら、現実を見ている点、レイリは年相応のところがありながら、全体的に考え方が成熟しており、社会人であるカイと恋愛しようと頑張るそのひたむきさが好きですね。
 サブキャラクターも全体的に強力で、言うことなしです。個人的にはパーカー大統領やナダル、ハインツ、オレグも好きですね。おじさんキャラが全力で、物語で、生きている姿を見るのは本当に好きなのですよ。あと雲に関しても大好きです。設定資料集を読む前から好きでしたが、設定資料集を読んだら…もう嫌いになる要素ないではないですか。
 総じてキャラクターの扱い方、散り際にかなり違和感を覚える部分もあったとはいえ、それ以外ほぼ完璧でしたので、35点です。


☆その他(8/10)

 本作の曲は本当に恵まれています。そもそも、第〇話ごとにEDが流れる関係でボーカル曲が5曲と多いのですね。私は全ての楽曲が好きになれました。特に『スノウドロップ』の爽やかだけれど、少しの寂しさを感じる部分もあり、大変良曲だと思います。『Contract Trigger』の格好良さ、疾走感と『Various Sky』の物語の終わりを感じさせる寂寥感も良かったです。ただ、BGMについては前述した通り、使い方が一辺倒に感じたため、マイナス要素ではあると思います。無論、良いBGM揃いであることは認めます。
 続いて世界観ですが、正直、ここは指摘させて下さい。いくら何でも他作品に似過ぎて、新鮮味が全くありません。学園ものに逃げず、過酷な現実を描こうとする姿勢には本当に感心します。しかし世界観設定はありきたりでよくある架空戦記物になっていた感は否めません。本作の弱い点であると思います。
 そして、一番の問題はシステム面です。重すぎませんか?演出面に対して、あまりにも重過ぎるのです。無論、ユーザー側もフルスクリーン設定ではなくする(ウィンドウ設定にする)、演出設定を操作する等の対策を取ることで多少は軽くなります。しかし限界もあります。ここまでの重さに対して演出が伴っていません。そう思ってしまいましたが、皆さんは如何でしょうか?
 総じてその他は楽曲が素晴らしい点を加味しても8点です。あまりにも世界観、システムに欠点があり過ぎます。勿論、素晴らしい作品ではあるのです。ただし、9点の大台を超えるレベルではなく、総合的に見て平凡だなと感じました。


☆総括(77/100)

 総合的には良作(B)認定です。強力なポテンシャルを持つ作品です。ビジュアルノベルに触れて短いプレイヤーの方程、既視感を感じにくく、本作を高く評価できるかもしれません。私も玄人を名乗るつもりは全くありません。しかし出てくる要素要素が一通り「どこかで見たことがある」と感じて、独自性もミリィ√の終盤以外あまり感じられません。そういう意味では、展開が読みやすい点が致命傷でした。
 一方、キャラクターに関しては相当上手く扱えている作品でした。そこに私は光を感じます。『創作彼女の恋愛公式』ではキャラクターですら独自性を確立できておらず、ある種、記号的になっていました。また『創作彼女の恋愛公式』はキャラクターの扱いですらいくつか疑問が浮かぶほどでしたね。しかし本作はキャラクター面を完全に克服できていると言ってよいでしょう。これは世界観が王道の学園物ではないから、好きにキャラクターを活かしきれているという点にも関係しています。
 正直、かなり惜しい作品ではあると思っています。あと二歩、シナリオの展開が異なれば、あるいは真グランドエンドという形で、尺の関係を克服できていれば、そう感じずにはいられません。本作は「名作、傑作入りを逃した作品」なのです。私は本作を他の方がどう評価しているかは今の時点でほとんど分かりません。しかし、予想はつきます。どんな評価が下っても(傑作でも駄作でも)おかしくない作品であるとさえ思います。ただ、作品ポテンシャルは高いので、ビジュアルノベルをプレイして間もない方にはおススメできる作品でしょうね。
 以上、感想でした。本作は究極の熱意の下に制作された作品です。それくらいは分かります。ゆえに制作陣の方々には心からの敬意を。本当にありがとうございました。そして、ここまで感想を読んで下さった方々にも心からの感謝を。付き合っていただき、ありがとうございました。



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