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【復活記事】『乙女理論とその周辺』 総括感想

☆シナリオ(39/50)

☆キャラ(31/40)

☆その他(8/10)

☆総括(78/100)


〈注意 この先ネタバレを含みます〉



☆作品紹介

 女装ものとして有名な『月に寄りそう乙女の作法』(以下『つり乙』)のスピンオフ作品です。私は9周年に限定発売していたコンプリートパックに入っている『アペンドあり』版をプレイ。本作も主人公、朝日(遊星)のボイス(月乃和留都さん)が重要でして、今からプレイする方は是非、朝日のボイスあり版(詳細は批評空間等をご覧ください)を購入することを強くお勧めします。

 さて、本編ですが、『つり乙』時から人気キャラだったりそなに加えて、純粋無垢な修道院育ち、メリル。そしてメリルの作る服のモデルを目指し、女優を志すエッテ等、魅力的な新キャラクターを加えて新しい服飾に関する物語が、本場、パリで幕を開ける。以上がストーリーラインです。私も『つり乙』に魅了された身です。楽しみにしてプレイしました。早速、本編を見ていきましょう。

☆シナリオ(39/50)

 私はメリル→エッテ→ディートリンデ→衣遠&駿河→りそなの順でプレイしました。結果的には良かったと思います。この作品はプレイする順番によって極めて読後感が変化する作品ですので、りそな√を最後にすることを強く推奨し、それ以外の√は概ね自由にプレイすることができると考えます。

 全体的に高いレベルでまとまっているりそな、メリルに加えてエッテ、ディートリンデ、衣遠&駿河がおまけで付属するという印象で、プレイ時間がそれをまさに物語っています。正直、前情報一切なしでプレイし、エッテにはかなり期待していたのですが、エッテ√のあっさり感には拍子抜けしました。勿論、エッテにも後発作品で救済があるらしいのですが、少なくとも『乙女理論とその周辺』では正直サブヒロイン程度の尺しか使われておりません。正直、残念です。

 ですが、私はシナリオを評価する上で、一つの強力な物語(√)さえあれば十分評価できると考えています。本作がまさにその例でして、りそな√はかなり面白かったですし、まとまっており、事実、高評価です。ゆえに私は『乙女理論とその周辺』のシナリオ評価を考える上で、エッテ√他2√がどれだけ未熟に感じても、総合的に見て、良ければ相応の評価を点けたいと思います。

 それを踏まえて簡単に個別√を振り返っていきましょう。

〇エッテ√&ディートリンデエンド&衣遠&駿河エンド

 正直エッテに関しては期待を裏切られた気持ちです。というのも√を全力で描いた上で私(受け手)が面白くないと思うのは勝手です。しかしエッテ√はそのあまりの尺の短さ(2時間~3時間)から分かるように、明らかに制作側が思考の大部分を放棄して制作された√になりますね。そこにがっかりしてしまいました。また√の内部も、実に場当たり的で、Hシーンありでようやく物語として成立していると言って良いでしょう。そもそもエッテの夢である「モデルになる」という行為が殆ど描かれていません。そこが非常に残念でしたし、もっとモデル、女優として努力するエッテが見たかったです。

 同様のことがディートリンデエンドや衣遠&駿河エンドにも言えます。彼女達は本当におまけなので仕方ないと思いますが、やはり尺の短さ、話の引っ張り具合に対する適当さは残念に感じてしまいます。一応、補足しておくとエッテも、ディートリンデも、衣遠、駿河でさえキャラとしては良いキャラでした。また、シナリオについてはとある感想で納得できるものがありました。それは『つり乙』関連作は服飾と大蔵家の騒動を絡めているからこそ光るのだ、という理屈です。その理論で言えば、『つり乙』の湊やエッテの完成度が比較的低くなるのも仕方のない。そう考えれば楽になります。また、今後救済されるキャラもいるとのことですので、機会を待つことにします。


〇メリル√

 意外にもりそな√同様に面白いと感じる√でした。メリルの才能は本物です。そして技術者としての意地も持ち合わせている。努力家の彼女が報われるためには血筋の問題がどうしてもあるわけですが、本作は諸作品の例に漏れず、実は大蔵家の血を引いていたんだよ、と解決策も納得できる分用意している。√の終着点もやや強引さも感じましたが、エッテのかねてからの夢である「メリルの服のモデルになる」が部分的に叶えられた素敵な√であると言えます。

 一方、女装バレに関して朝日(遊星)があまりに危機感を持たず、メリルの反応も薄目でした。ここはかなりがっかりしてしまいましたね。メリルの純粋な目から見て「女装」という行為がどう映るのか、より詳細に知りたかったのですが、「結婚できるのですね」というあっけない反応のまま、√が終わってしまいました。


〇りそな√

 りそなの成長物語としてかなり完成度が高く、『乙女理論とその周辺』の集大成と言える√で、正直完成度としては他√の追随を許さないほどでした。というのもまず、ストーリーラインが綺麗なのですよね。元引きこもりの少女が兄とともに、留学し、文化や現実の壁に阻まれながら、自分の得意分野を発見し、努力と、仲間との協力でライバル(リリアーヌがライバルと言えるかは微妙でして、ここ自体が本作の弱みでもあるのですが)を打ち倒す。実に素敵な物語だと感じます。兄遊星にしても、女装しつつ、従者として、恋人として、後押しする方針に移り変わっていき大変健気でした。

 だからこそ、私は言いたいです。遊星の恋愛描写がさらに必要だったのではないかと。私は、りそな√全体を通して、どうしても遊星の恋愛感情に不自然さを持ってしまいました。もう少しりそなとの恋愛的、性的な接触があれば、と思わずにはいられません。

 加えて、ルナの存在です。彼女は圧倒的な存在感を放ち、事実として彼女の登場シーンは私の心に深く刻まれました。またルナはりそな√において不自然に出番が多い等の制作側の配慮の欠陥を感じることもなく、スムーズに、物語が進行しました。ですが、りそな√はりそなの物語であることを忘れないでもらいたいです。りそな√の主軸がルナに上書きされたとは全く思いません。しかしルナによって、りそなに充てられる必要があるリソースが削がれたとは感じてしまいました。上記の点が、『乙女理論とその周辺』最大にして最後の弱点です。ルナ含め桜屋敷の面々が面白い面子だからこそ絶大な安心感があるとともに、りそな√の完成度の数割がどうしてもルナに依拠してしまっている。そこにりそなのキャラの「相対的な」弱さを感じました。

私は『乙女理論とその周辺』のりそなシナリオが悪いと言いたいわけでは全くありません。しかし点数としては『つり乙』ルナ√を超えるにはどうしてもあと一歩足りない。そう考えました。りそな√が『つり乙』の本編に含まれていれば、『つり乙』の完成度は傑作クラスまで上がっていたでしょうね。


☆キャラ(31/40)

 私は『つり乙』の時から変わらず、小倉朝日(大蔵遊星)が最高のキャラだったなと感じます。そして、本作では駿河という、外部から朝日を見た場合、どう見えるのか、というキャラクターが追加されたことで、より朝日の神聖さというか一生懸命さが伝わってきましたよ。まさに奇跡のバランスで成り立っているキャラクターでありますし、人気キャラクターになるのも深く頷けます。

 またメリルも良かったですね。Hシーンがあまりに無知シチュ過ぎて、年齢を考えればどうなんだと思ってしまいましたが、そこ以外は純粋清純キャラとして王道を往くのではないでしょうか。読んでいて不快感が全くありませんでした。

 りそなですが、ブラコン可愛かったです。彼女の精神はどこまでも兄に対する愛情に包まれていることが分かりましたし、『つり乙』の頃から明らかにヒロインとしても、人間(一キャラクター)としても魅力が上がっていました。私の好みからは外れ気味でしたが、可愛さは理解できます。

 エッテは…どうなんでしょう。残念ながら、本作でエッテの魅力を引き出すことはできていなかったのではないかと思います。後発作品に期待です。

 そして忘れていけないのが大蔵衣遠です。彼は最大級の評価をすればしかるべき待遇で迎え入れるというまさに実力主義者、才能第一主義です。その全容が明らかになり、大変クリアになりました。私は『つり乙』時から衣遠は面白いキャラだなと言っていましたが、本作、りそな√で味方になってからは頼もしいことこの上なしです。本作で彼の「覇道」にも理由があると分かりました。彼についての理解も深まり、衣遠を好きになるプレイヤーも多いことでしょう(私はプレイ時、なんだこの面白い男、と画面外で笑っていました)。

 またりそな達の担任であるケスや、アパートの管理人セシルも陰ながら大変良いキャラでした。この点も踏まえて、しかし名作にのせるにはあと一歩明確に魅力の引き出しが不足していると考え、31点を点けています。フルプライスで実質ヒロイン2人というのも足を引っ張っています。


☆その他(8/10)

 OPの『Fragile』は良曲です。Fullで聴いて、かなり魅了されました。またBGMも「DESIR」をはじめ強力な布陣が15曲もあり、最高でした。本作の「DESIR」は、前作『つり乙』の『DESIRE』のアレンジなのですが、流すタイミングが完璧です。演出として非常に印象に残り、プレイヤーに強烈なインパクトを残すと判断しています。

 世界観も優れていました。何より、異国であるフランス、パリを舞台にして違和感がない、むしろユーシェやヴァリーを通じて言語の壁も表現している、ここは大きな魅力とライターさんへの深い信頼感を生みます。全体として、世界観は十分信頼できると言って良いでしょう。

 あとはシステムですが、こちらはやや不足しています。やはり2013年という発売年を考えてもバックログからのシーンジャンプがないのは不便を感じます。それ以外は概ね良好。パリの地理もある程度の範囲で朝日が説明してくれる機能があるので、パリに明るくない私でも最低限の理解はできました。

 総合的に、『つり乙』と比べても、水準程度ですが、世界観以外、概ねいつも通りなので、8点を点けました。


☆総括(78/100)

 総合的には良作(B)認定です。面白い作品で、舞台がパリということ、研究が服飾分野、地理分野にかけて極めてしっかりしていること。BGMも刺さる方には確実に刺さる音楽を取り入れている。これらの要素から、人によっては傑作、名作に化ける可能性を秘めた、好感が持てる作品です。

 シナリオについてはどうしても歪さを感じたため、このような点数を点けていますが、私自身、楽しめた感触はあります。ですので、人の評価等気にせず、存分にプレイし、気に入ったポイント(主にルナ関連)は十分に愛でる。それで良いのではないでしょうか。

 以上です。ここまで読んでいただいた方、並びに制作して下さった方々。本当にありがとうございました。


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