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『Control 節子編』 総括感想


☆シナリオ(34/50)

☆キャラ(31/40)

☆その他(6/10)

☆総括(71/100)

 プレイ時間は約7時間。大学が舞台の演劇ものであり、恋愛ミステリーアドベンチャーの名の下に、登場人物達が思惑を巡らせる。一貫して信じることができるヒロインの存在。主人公の地に足ついている感覚。人数は少ないながら、魅力的なサブキャラクター陣等、物語を彩る舞台装置はかなり生きていると言えます。同人作品らしく、大変荒削りのところもあれど、続きが気になる作品と言えるでしょう。弱点もありますが、官能的で、小説チックでした。

〈この先、MA²様のガイドラインに則り、作中198X/07/31以降のネタバレを含みません。どなたでも安心して閲覧いただけます。〉



☆作品紹介

 MA²(エムエースクエア)という同人サークル様が作り上げた本作。私は本作の音楽プロデューサー様であるKeica*様に教えていただき、本作の存在を認知しました。
 調べたところ、MA²様、さらに言うなら企画・シナリオ・スクリプト担当のまさ様にとっても処女作とも言えるであろう本作。
 大学での演劇サークルが舞台の本作では多様な人間関係が描かれます。本作『節子編』だけではその回答までは描かれません。長い目で見て、作品を咀嚼する必要があるでしょう。

☆シナリオ(34/50)

 選択肢を上手く使用しており、大変好印象。ただし、凡庸な作品の域を出ない。

〇選択肢の充実

 私が本作をプレイして、まず驚いたのが、選択肢の多岐性です。とにかく選択肢が多い。この選択肢によって、当然、分岐も行われていくわけです。この分岐と言うのが同人作品とは思えないほど、緻密かつ納得がいく作品でしたね。きちんとユーザーフレンドリーに、バッドエンドであれば、すぐにバッドエンドに直行してくれるので、プレイしやすい点も長所と言えるでしょう。
 私は選択肢による分岐を極めて重視します。ビジュアルノベルという媒体では主人公の行動をプレイヤーが選択できるということに、魅力、言い換えれば価値を強く感じるからです。私が最大級に評価している『Fate/stay night』を例に挙げると、分かりやすいです。『Fate/stay night』は怒涛の選択肢が波のようにプレイヤーに襲い掛かり、主人公の行動を進めていきます。中にはバッドエンドもある、というか、あの作品はバッドエンドだらけです。しかし、それらの分岐には例外なく意味があるのですね。私は最近のビジュアルノベルに不足しているコンテンツは「選択肢」だと考えています。古い考え方かもしれませんが、ドラマやアニメ、小説といった別分野との差別化という意味でもこの点は重要です。本作『Control』では、選択肢に意味を持たせる努力が、それはもう、プレイヤーに伝わってくるほどなされていました。そこには大きな負荷が掛かっていたことでしょう。私はその負担にまず敬意を示します。本当に、私の好みの作風でした。

〇安易に回答を出さない点も魅力

 次に作品本体ですが、これもまた褒めるべき点が数点あります。その最大の点は、ネタバレに触れるのでぼかしますが、主人公、正志であったり、その周辺について(本当はネタバレしたいのですが、今回は敢えてネタバレなしで語りたいので記しません)、深く『節子編』では触れていません。これは『真百合編』や『夏美編(仮)』で語られることなのかもしれません。しかし、私は『節子編』終盤の展開は好むところではありました。謎が謎を呼ぶ、非常にミステリチック、しかし考察の余地を残し、解説役のキャラクターも存在する。王道ながら、制作陣は苦労したであろう作品でした。
 『節子編』ではメインヒロインである節子に焦点を当てて、描き切っており、ミステリ要素もカジュアルに描写する予定なのかもしれません。何にせよ2024年冬にリリース予定の『真百合編』も楽しみです。

〇メインヒロイン、節子の存在

 さて、次にシナリオにおける小原節子についてですね。これもまた、ベタながらかなり魅力的に描けていたと感じます。198X年代の大学にしては、大分現代チックではないかとかなり疑問に感じた部分も多々あります。ですが、節子を可愛らしく描こうと考えたらこれが正解なのかもしれません。田舎出身の真面目系少女が大好きな私は結構好きになれましたね。
 一方、節子がヒロインであることの必然性は正直、かなり弱い気がしました。『節子編』では節子に関して、イベントが少数ですが描かれており、節子が得意とする演じることもピックアップされていました。しかし、それは真百合にも同じことが言えるのではないかと感じる部分もあります。物語的に節子と正志が付き合う流れになること自体には納得できるのですが、それが節子である必然性のようなものはなかったかな、と思います。悪く言えば正志が恣意的に感じるということです。例えば、正志が抱えている問題(ネタバレになるので詳しい言及は避けます)と節子を関わらせる等の工夫があれば、プレイヤーはさらに満足する出来だったのではないかと感じます。

〇展開自体はオーソドックス

 さて、本作の展開自体は正直に言って、演劇ものとしては意外と普通ですね。主人公が脚本家志望で、浪人しているという設定を除けば、ビジュアルノベル界隈にありふれている演劇系作品とあまり変わりないと言えます。異なる点としては先述した「選択肢」と、登場人物達の「狂気」でしょうか。
 後者に関しても、まあ、はっきり言って演劇、というか何かを演じようと本気で考えている人間は多かれ少なかれ、何か狂気を抱えているというのが相場ではあります。本作で言えば宮田一郎と節子がまさにそれですね。特に一郎は説得力がありましたね。キャラ造形からも、作中明かされる家庭環境からも、狂気を孕む過程というのが見えてきて、それはそうだよな、とういう視点で後半は読むことが出来ました。おかげで一郎に関して言えばかなり自然に、その濃いキャラクタを受け入れさせることに成功しています。
 ですが、それはあくまで一キャラクターに限った話です。基本的に、本作は優しい世界の話なので、主人公をはじめ登場人物達が予想通りに動いていき、恋愛に至るというのが通例行事のようにこなされています。そこが本作の長所でもあり、弱点でもあるでしょう。

〇最後の展開と台詞

 詳しくはネタバレになるので語ることが出来ません。しかし、最後の舞台における節子と一郎は特に輝いていましたね。結局、一郎という狂気的「解説キャラクター」が存在するからこそ本作は成立しているのだろうな、と感じた瞬間でした。また正志に対して向けた節子の言葉も結構胸に響きましたよ。前向きになれる、物語を味わおうとする上では必要な価値観であると強く感じます。自分の作品評価に関して、私は変えるつもりは毛頭ありません。しかし、こういう(最後のシーン)ものの見方もありだな、とは感じ入ることが出来ました。そこにお礼申し上げます。

〇Hシーン

 かなり良かったです、とだけ。これも選択肢にかなり恵まれています。相当な選択肢の量でした。私はHシーンの選択肢量は、テンポを削ぐ代わりに、没入感を強くすると考えています。本作もその傾向が大変強いです。
エロい、というより「官能的」と表現した方が良いでしょう。シーン数自体はやや少ないですが、初々しく、破瓜や中田氏、コンドームに関しての詳細な言及もあることも関心した要素でした。節子というヒロインの長所をかなり押し出していたと言えます。

 総括、プレイヤーとして感じることはあれど、爽やかで、無難な作品。ゆえに同人作品であることのメリットと言いますか、「尖り」はかなり少なかったと思います。作品全体の完成度と引き換えに強烈な個性を失っている形です。これは美点もありますので、私は全く否定しません。

☆キャラ(31/40)

 本作をプレイした方は大半が、宮田一郎のことを好きになったのではないでしょうか。私はかなり気に入っています。
 まず、全体から見ていきましょう。本作はメインヒロインである節子含め、立ち絵ありのキャラクターが6名存在します。そのどのキャラクターも個性的で、魅力あるキャラクターとして描かれていた…かというと一概にそうとも言えません。今後のストーリーで活躍するであろう、あるいは活躍が期待されるキャラクターが存在します。というか、意外と謎が多い作品なので仕方ないのですが、『節子編』だけでは本作は完結しません。したがって、続編を待つ必要があるでしょう。
 続いて、特に気に入ったキャラです。私は女性では節子。男性では一郎と、主人公である正志が特に好きです。
 節子は田舎出身ということで、「そだね」、「行こ」、「そゆこと」等、独特というか舌足らずな話し方をします。しかし、陰で聡明。その描写の仕方には達人の業を感じます。実際にそういった描写や伏線はありましたね。198X年代というのもここで活きるわけですよ。今でこそ大学に女性が入学するのは普通になりましたが、本作は80年代が舞台です。珍しさが若干残っていた頃でしょう。登場人物達は男女問わず、実に聡明で、有名大学が舞台ということもあり、頭の回転がかなり速い印象です。閑話休題、節子は演劇等何かを演じる事が好き、得意な声優志望。現代的な印象も若干持ちますが、その背景もしっかり練られています。個性も相応にはあったと考えますね。個人的には真百合、夏美の方が出会ったことがない部類のヒロインなので、今後にも期待が持てます。
 続いて宮田一郎。彼は問題を起こしがちながら、筋はきちんと通し、実力派であることは間違いないのが素敵でした。演劇のことが分かっており、アドリブ力もあるというのが、物語に深く活かされていたのも好印象です。
 主人公、正志も、ミステリ風作品の主人公に相応しく、謎を残しているではありませんか。基本的にはチャラチャラしていると周囲からは評価されながらも締める点は締める、これもまた無難な主人公像でしたね。私は好んでいます。
 また、次回作以降のヒロインであろう、真百合、夏美も個性豊かです。というか本作の女性キャラクターは基本的にモデル体型(演劇サークルが舞台なのである種、当たり前ですが)であり、昨今のビジュアルノベルにありがちな、男性の欲望通りのミニマム、スレンダー、巨乳、というわけではないというのもむしろ私には刺さりました。デカい女性ブームが着実に来ています。
 とはいえ、前述した通り、本作はあくまでも『節子編』。節子以外の事情には選択肢で示唆する程度にとどめ、未だ謎が多いです。今後への期待も込めて、しかし魅力はまずまず、キャラクターも特化したものはないながら引き立っているという点で、キャラクター部門は31点です。強いて挙げるとすればもう少しサブキャラクターを充実させて欲しかったかなとは思います。もっとも、同人作品ということで予算等も厳しいのは事実でしょうから致し方ないのですが。

☆その他(6/10)

 世界観は恋愛ミステリアドベンチャーとして、ファンタジー要素は全く存在しません。これは極めて好感が持てることです。ミステリを謳っていながら、下手なSF要素、ファンタジー要素で登場人物達、そして何よりプレイヤーの価値観や感覚を誤魔化されたと感じる作品は多いので、印象が良いです。特に舞台背景を80年代に設定したことで、携帯電話といった現代風の繋がりを排し、よりキャラクター同士の親密度を表現することに、本作は成功していると感じます。本作の強い個性と言える、重要ポイントと言えるでしょう。
 次に音楽、演出回りです。良かった点から。効果音や舞台演出は相当上位と言って良いでしょう。正直、同人作品でこのクオリティは素直に賞賛ものですよ。特に後半のシーンや舞台等重要な部分では制作陣の熱い思い。ここが見所だぞ!という熱意を受け取ることが可能です。最終公演となる場面はネタバレになるので言及できません。しかし、相応のシーンに仕上がっているため、期待は裏切らないのではないでしょうか。一方、違和感を持った点。はっきり言います。OP曲「春色の鼓動」は、曲自体は明るく希望を見出せて、良質なものの、本作のある種、レトロなミステリ色が強い作品には合っていません。作風は一致しているので、そこは無難かなとは思うのですが、もう少しミステリチックな曲であった方が作品の良さ、雰囲気はプレイヤーに伝わるでしょうね。激しく違和感を覚えました。もっとも、これは音楽を何も理解していない一プレイヤーの感想です。参考程度に聞いていただけると幸いです。
 作品の雰囲気も概ね、良かったですね。上述しましたが、古風な作風と、無難な出来映えがかなりイメージと一致していました。大きな驚きがないというミステリとしては致命的な欠点を持つものの、堅実にまとまった作品であると言えます。
 そして、最後にシステム面です。これは良いとも悪いとも言えません。詳しくはネタバレになるのですが、ギャラリーが、未開放が多いというのは勿論、未完成感を残しています。何よりこれほどまでに選択肢が多いのだから、次の選択肢までジャンプ、それが無理ならば、バックログからのシーンジャンプ機能は最低でも実装して欲しかったというのは私の我儘でしょうか。総当たりするのに大分労力を使いました。総合すると得たことの方が多いですが、プレイヤーにとって負荷は負荷です。改善の余地があるでしょう。セーブスロットは(約?)100あり、不足は全くないです。快適なセーブをお約束します。ただ、細かな点で融通が利かない、そんなシステム面の出来ではあります。
 総括すると、基本的には世界観、雰囲気が非常にマッチしています。一方、OP曲が雰囲気とかけ離れていると感じる点やシステム面で不足が見られるため、その他は6点です。

☆総括(71/100)

 総合的には良作(B)認定です。正直、同人作品らしい「尖り」を期待していると、肩透かしを食らう可能性があります。しかし、基本的には堅実に制作された丁寧な作品です。シナリオ、サウンド、イラストどれを取っても、商業作品中位の作品から全く引けを取りません。したがって、同人作品入門としても推奨できるスペックを持つ作品と言えます。
 何より、本作はあくまでも『節子編』に過ぎません。まだ続編にて、評価が上がる可能性を残しています。私はビジュアルノベルをプレイする上で、作品のライブ感を大変に楽しんでいます。魅力的な作品をXやブログ等の媒体で語り合う瞬間です。本作も『真百合編』以降が存在する、期待作の第一歩です。陸上で言えば、まだ3000m走の折り返し地点に過ぎません。今後のMA²様に期待しつつ、本日は筆を置きたいと思います。
 本日も、ここまで私の感想に付き合って下さった方々。何より、素敵な作品を制作して下さった全てのスタッフの方々にお礼申し上げます。ありがとうございました。

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