張り詰めた音が見える街
「今日もまた、終わってしまった。」
淋しそうに凍える木々が体感温度をより一層下げる。僕は街路樹を横目に感じながら、ひとり会社からの帰り道を無心で歩いていた。それはひどく寒い夜だった。人っ子ひとり通らない路。冷たく硬い打ち込まれたコンクリートの壁。崩れそうなほど繊細に取り繕われたショーウィンドウ。暗雲が立ち込め今にも滴が落ちそうな空。何も聞こえないという音だけが聴こえる静寂。
この世界には僕だけで、他の人間は存在しない、もしくは仮に存在したしても永遠に混じり合わないのだ。とその空間は物語っていた。
僕はこの世界を心底憎んでいる。いくらもがけど何も代わることのない、グレーな世界。人々から何か奇異なものを見るように向けられる矢のような視線。バカヤロウ。いつかお前ら全員が目の色を変えるようなことをしてやる。ふざけんな。心ではそう思いつつ、行動できない自分をまた恥じていると、その度に「それら」は笑う。
だが、今日は違った。すべての景色が味方だった。僕にはその怖いほどの静けさが、心地良かった。その全てが心の触れたくないところを代わってくれた。押し殺していた闇を吸い取ってくれた。今なら弱い自分でいても、周りの景色が全て僕を包み込んでくれる。僕は、どうあがいても他の人間と完全に混じり合うことがないということを、皮肉ながら孤独によって、知った。
ふと、自分の体内に焦点を当ててみる。こんなに寒くて凍えそうな時にでも、心臓は動いていて僕の身体は暖かかった。じんわりと、内側から広がる優しさ。こんな気持ちになるのはいつぶりだろう、すこし、気分が明るくなった。顔周りに感じている冷たい空気を大きく吸って、全力で吐き出してみる。あたたかい。顔を上げてみると、同じ温度のものを見つけた。オレンジ色の灯油ランプ。僕の頭上で光っている。決して明るいとは言えないが、ちゃんとともしびを燃やしている。
そこで、僕は、なんだか負けたような悔しいきもちになった。
どうも〜