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破壊

ぞっとするほどの平穏が広がっていた。最果てを繋いでいる長い水平線は、端にいくにつれ少し丸みを帯び、微かに楕円を描きながら、視界の隅まで消えるように伸びていく。その中心に向かって吸い込まれるように太陽が溶けていき、だんだんと陰が覆い被さる。


散っていく。すべてが。突然の竜巻と嵐が、ありとあらゆるものを根こそぎ倒していく。目にも留まらぬ速さで、映るものすべてを飲み込んでいく。その姿はなにか猛獣のようだった。そのまま豪快に鷲掴んだのち粉砕して、取り込みながら勢いを増していく。怒号を轟かせながら、みるみる間に膨れ上がって、削り取られていく。眼前で起きているとは到底信じられない光景だ。


終わったのだ。黄土色の大陸からやってきた砂が音も立てずだだっ広い荒野の中を蠢き、空気中をぼんやりと霞ませている。通り過ぎた場所は完全な無に還されていた。湿度すら感じない虚な空間で、ただ風塵だけが徒に舞ったり何かを追うように走ったりしている。あれよあれよという間に、去っていった。生々しく残っていた肉片は一度で完全に吹き飛ばされ、乾燥し切った骨も原型を留めない姿で散乱し、その下には無残にも血痕が何かを叫ぶように刻印されていた。もはや、誰のものかも判別が付かず、無秩序に混ざり合っていた。遺された者たちは、茫然自失の状態でただ宙を見つめている。何も聞こえない。点在している中のひとりが「すまない」とかろうじて聞きとれる声量で言葉を絞り出し、その横にいた人間がすすり泣きを始めた。とても長い時間のように感じられた。大きな岩だけが涼しさを保ったままこちらに顔を向けていた。



大きくて立派な一本の木が立っている。その周りには湖があり、シマウマと思しき動物が列をなして喉を潤しにやってくる。外敵がいないことを確認したのか、その足取りは軽やかだ。そのとき、後ろから一本の縄が飛んでくる。その中の一頭、呆気なく捕まる。群れの他の個体は猛然と走り去る。人間、おろおろと回収作業にやって来る。それも束の間、豪雨に見舞われ中断、木の下に駆け込む。その間シマウマ、逃げる。忽然と、姿を消した。

どうも〜