タツナミソウ(誕生花ss)

 生命科学の発達はめざましく、近年、動物の生命力をそのまま数値に換算することが可能になった。俗にライフポイントと言われるそれは、即ち、その動物の寿命である。そして現在、科学はさらに発展し、動物から動物へ、ライフポイントの移動を行えるようになった。つまり、自分の寿命を日単位で、他の動物に移譲することが出来るのだ。移譲される側の数値が最低一日分残っていれば、その寿命は、しっかり分け与えられた分だけ伸びる。まさに、科学が神を超えたのである。
 ぼくは、自分のライフポイントを他に移譲することで生計を立てている。資産家になら、例え一日分だけの移譲をしたとしても、かなりの額になる。今までに何回かは、そういう大口の取引があった。その他にもちょこちょことした取引を重ねていくうちに、最初は残り七十年分あったライフポイントが、今では六十と少しにまで減ってしまった。
 別に、長生きしたくないとか、死にたいとか、そういう訳じゃない。けれど、自分より遥かに「生きること」に執着があり、社会の役に立ちそうな人たちが少しでも長く生きられるなら、その方が良いに決まっている。
 だから、横断歩道で、信号無視をした車に跳ね飛ばされたときも、まあ仕方ないか、と思った。そういう人生だったんだ。自分のライフポイントがみるみる減っていくのを、腕につけたカウンターの数値が示している。
 しかし、その数値がある時点で止まった。困惑するぼくの視界に、生命力移譲を行う救急隊員が映った。ぼくの中に、誰かの命が流れ込んでくる。誰か、ぼくより生きていたい筈の、誰かの命が。
 なんとか一命を取り止め、まだあと何十年か分のライフポイントを残したぼくは、生命力移譲の仕事を辞めることにした。
 ぼくの命は、ぼくだけのものではない。それはきっと、今までもずっとそうだったのに、これまで気が付かずにいたのだ。しかし、もう分かった。
 ぼくを生かす全てのもののために、ぼくは生を全うしなくてはならない。


 花言葉「私の命を捧げます」

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