細胞のストライキ
世の中には「酒もタバコもやめずに、好きなもの食べてやりたいようにやってポックリ逝きたいんだー」的な事を言う人がいる。
言っておくと、私も性格的に見れば断然このタイプなのだ。
自分の好きな事を、好きなようにやって生きていきたい。その価値観にはかなり共感する。
ただ、ひとつ違うのは、「健康」という部分に関しては、メンテナンスを推奨する派なのである。
私もかつては、大酒飲みの喫煙者だった。
しかも、病院勤務のシフト制なので夜勤で夜通し仕事もするし、『疲れている』を免罪符にして、「栄養」より「手軽に満腹」を重要視して、ファストフードやコンビニ弁当でお腹を満たす事も珍しく無い。
更に『仕事で動いているから』を免罪符にして、運動する事もなかった。
免罪符を使いまくっている。
「睡眠不足」「多量飲酒」「喫煙」「乱れた食生活」「運動不足」
不健康の要素をコンプリートしている。
不健康ロイヤルストレートフラッシュ!!だ。
並べみると、よくまあこんなに健康に悪そうな生活してたなぁと思う。
こうなってくると、他にも不健康な事してなかったかなぁと、「不健康要素欲しがりさん」みたいになってくる。
ともかく、仕事中に人に健康を薦める立場にありながら、自分は不健康まっしぐら!という、まさに「医者の不養生」状態だった。
だからといって、自分の身体のどこかに不調を感じたことはなかった。
ただ、ある日ふと、自分の身体に申し訳ないな、と思った瞬間があった。
何があったわけでもないが、いや、正直に言うとかなりの二日酔いだった。
頭も痛かったし、気分も悪かった。
その頃の私は、よく二日酔いに襲われていたので、「またやっちゃったー」くらいに思っていた。割と日常の範疇だ。
ベッドでゴロゴロしながら、ただ症状が治まるのを待っている時に、「このしんどさは、私の身体がお酒と戦っている証拠なのかな」とズキズキする頭でふと思った。
そうなってくると、いつもの癖で、細胞がアルコールと戦っている世界が、私の頭の中で繰り広げられる。
「なんか、よく頑張ってるよなー、私の細胞」
「働き者だよなぁ」
「なんかゴメンなー、さぞかしボロボロで、鎧も槍も無くって、丸腰で戦ってるみたいな状態なんだろうなぁ」とか、また自分の世界に没入していたら、なんだか申し訳なく思えてきた。
めちゃくちゃ働いて、アルコールを分解してくれてる肝臓、要るもの要らないものをちゃんと分けて毒素を排出してくれてる腎臓、腸もちゃんと動いてくれてるからオナラも出る。
私がどれだけムチしか与えてなくても、ちゃんと仕事をしてくれている。
私の細胞は働き者だ。
アメをあげた事なんてないのに、ちゃんと仕事をしている。
働き者で健気だ。
もし、私の愛すべき細胞たちが健気さを失くして、働く事に嫌気がさしたならどうだろう。
「おい、マジでやってらんねーな」
「ほんま、ソレな!こいつムチしか与えてこんやん。アメが無いのに、なんでこんな働かんとアカンねん」
「わかるわー!それ、私も思ってた。この前、心臓組の友達と喋ってて、あの子らもおんなじ事言ってたよー!」
と、誰かが言い出すのを待っていた!とばかりに、37兆個のあちこちで不満が洩れ始める。
そうなるともう止められない。
「やめる?」
「やめちゃおっか」
「小腸組も、もうやめるって言ってたよ」
「え、そーなん?俺、膵臓組がやめるって聞いたんだけど、小腸組もなん?」
「じゃあ、どのみち俺らが働いても意味ないやん、やめちゃおうぜ!」
こうなったら、私の命は無い。
37兆個の愛すべき細胞たちが一気にストライキを起こしたら、私はもう生きていく事ができない。
朝起きて伸びをすることもできないし、明日食べようと思っていたドーナツも食べられない。昨日買ったお気に入りの店のキムチも冷蔵庫に入れっぱなしだ。背中が痒いなぁ、と無理やり腕を捻じ曲げて背中を掻くこともできないし、あれあれ?背中が痒かったのに、色んな所が痒くなってきたな、と、結果そこらじゅうを掻きむしるという、よくわからない一人遊びもできない。
ストライキの究極の状態は、「ポックリ」なのだろう。
私は思った。
「ポックリは逝きたくない!!」
困る!すごく困る!
そうなると、やはり37兆個の愛すべき細胞たちには、機嫌良く働いてもらわないと困る。
最近、左膝が時々痛むので、「ああ、ちょっとストライキ気味なのかな」とヒヤヒヤしている。アメを与えなきゃ。(体重減らさなきゃ)
顔にブツがよく出来る、なぜか右側ばかりに。
「ここもストライキ気味なのか」
アメを与えなきゃ。(野菜多めの食事しなきゃ)
昔に比べると、お酒を飲む事もかなり減ったし、タバコもやめた。少しずつ、ムチではなくアメを与えられるようになっていると思うが、それでも、ご機嫌ナナメな子たちが居るらしい。
この37兆個の子たちといつまで付き合っていくか分からないが、お互い機嫌よく過ごして行きたいと思う。
もし、これを読んでいる方々が、どこか不調を感じているのなら一度アメを与えてやってはいかがでしょうか?
機嫌をなおしてくれるかも知れません。
もともとは、働き者で健気な子たちなんです。
とはいえ、ちゃんとアメを与えているにも関わらず、たまにとんでもない反逆児がいることもあるので、「ポックリ」の可能性はゼロではないです。悪しからず。
私の細胞!!
当たり前に働いてくれて、ありがとう!!
当たり前のように、生きられている事に感謝します!!
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