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戯曲 Medicine by Enda Walsh を読んで

先日、白井晃✖️田中圭の新しい舞台の情報が発表された。来年2024年5-6月に、東京世田谷のシアタートラムでの上演があるらしい。まだ日程などの詳しい詳細は発表されていないのだが、演目はアイルランド出身の新進気鋭の演劇作家 エンダ ウォルシュの戯曲Medicineであるとの事。私は俳優田中圭さんの大ファンになって5年である。ずっと、いつか彼のお芝居を生で観てみたいと思い続けてきた。舞台の知らせがあるたびに、次の舞台こそは、ぜひ日本に帰国して観劇をしたいと熱望し続けてきたので、このニュースを聞いて、いてもたっても居られなくなった。まだ帰国できるかも、チケットが取れるかも、何もわからない。でも、せめてどんな話なのかを知りたい、なんでも良いから知りたい、と思い、ソワソワとした気持ちで検索をしたら、拍子抜けするくらいあっさりと戯曲本購入のページが出てきた。その時点で、在庫が一点という表示だったし、もう迷うことなく購入してしまった。

ポチった翌日に手元に届いた戯曲本は薄かった。ボリュームとしては60ページにも満たないもので、ページを捲り始めたら、テンポの良い台詞の応酬がとてもおもしろくて、あっという間に読んでしまった。

以下、ネタバレになってしまうので、内容を知りたくない人は読まないで欲しい。


【ネタバレあり】
では。
ところで、私が目にした舞台の情報の記事の中には、>2021年にイギリスで初演された本作では、精神病院で“患者”とみなされている人々を巡る物語が展開する。と書かれていた。実はこれが結構なネタバレだったな、と、戯曲を読んだ今は思う。

実は戯曲全体を通して、登場人物たちが何処にいるのかは、明記されていないのだ。ただ、冒頭からずっと登場人物たちの様子が、些か奇妙ではある。ジョンと2人のメリー、この3名がメインの登場人物なのだが、全員ずっと、なんというか様子がおかしい人たちなのだ。でも、どこがどう はっきりとおかしいと言い切れないまま、軽妙な会話を追っているうちにページが進んでいく。特にメリーとメリー2(そう書かれている)の部分は、非常にコミカルな部分が多い。読みながら笑ってしまう。全体にストーリーがあるかと言えば、それはない。ただ、読み進めるうちになんとも言えない、悲しくやるせない感情を受け取って幕が閉じるのだ。そう。これは、極めて輪郭が不明瞭な、悲しみや混乱や興奮や怒りや思い込みや拘り、感情と精神が混ぜこぜになった精神病院での人々の話なのだ。そう思う事で、やっと腑に落ちる。そんな話だ。

2人のメリーの奇妙なやり取りの合間に、ジョンの過去のエピソードが幾重か差し込まれる。ただ、これもジョンの現実なのか妄想なのか幻覚なのか、戯曲を読んだだけでは分かりかねている。実は2人のメリーの存在すらが、全てがジョンの妄想なのかもしれないとも思う。それくらい、本の文字の上では状況情報が削ぎ落とされた脚本になっている。

私は演劇に明るくないので、この考えが合っているかはわからないのだが、もしかしたら、この削ぎ落とされた余白の部分は、演出家と俳優が独自の解釈で埋めるために残されているのではないかと思うのだ。上演にあたり、演者がこの余白を埋め、舞台の上で登場人物たちに命を吹き込むからこそ、そのお芝居がその瞬間、唯一無二の芸術作品として完成するのでは無いかと思うのだ。

戯曲を読んで、ますますお芝居をみるのが楽しみになった。個人的には、私の住むイギリスでの暮らしで馴染みの深い事柄やアイテムも登場するので、それがどんな風に翻訳されているのかも楽しみだ。また戯曲の中で、こちらで良く知られているヒット曲が何曲か登場する。どれも大好きな曲だ。それらは日本でもそのまま登場するのだろうか。舞台にはドラムセットがあり、場面に合わせてドラムがリズムを奏でるようだ。実際のシーンで差し込まれるドラムが一体どんな効果を産むのか想像するとワクワクする。

まだ日本に帰れるかも分からないし、チケットが取れるかもわからない。でも、ぜひ、ジョンと2人のマリーの舞台に現れた姿を見たいものだと強く思った。

【登場楽曲】
Instant replay   by ダン ハートマン
Wilkommen  from ミュージカル キャバレー
September  by アースウィンド&ファイヤー
Tell it like it is  by アーロン ネヴィル

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