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「死にな」と青い空の4月27日

「4月27日って『死・に・な」』じゃん」と言ってクククと笑ったのは、中1で同じクラスになったK君だった。
今まで気づかなかったのと聞かれ、今まで気づかなかったよと私は答えた。
小柄な体を精一杯大きく見せて、12歳にして既にこの世の寂しさの欠片を持ち歩いているような男の子。一目置かれていたけれど、私は彼の怖い姿は一度も目にしたことがなかった。むしろほろっと壊れてしまいそうな、急にふっと飛んで行ってしまいそうな、静かな危うさを彼はまとっていた。
2年生のクラス替えで別々のクラスになった。学校の先生も友達も、彼の寂しさを掬いとりはしなかった。
私は彼と接点を失ったまま中学を卒業した。

4月27日。お昼過ぎに外へ出ると、頭上にぞっとするような青が広がっていた。
少し紫が強すぎる青、空に充てるはずではなかった青。丁寧に均一に塗られたけれど乾いた後で色が微妙に変 わってしまった安いアクリル絵の具の表面のように、その色は木の枝に茂り始めたやわらかな葉や庭の草の緑と相容れないでいた。この地上とは関係ないんですと言わんばかりの図々しさと存在感で。
寝っ転がって空を見上げると、目に入るほとんどがその青で埋め尽くされた。空はいつもの位置にいて、私もいつもの位置にいる。空はいつも上に広がっていて、私たちの日常は下の方でこちょっと行われている。この空は宇宙につながっていて、ずっと先には土星とか冥王星とかがあって、人間のまだ知らない果てまで同じ空間が続いている。
急に、重力が頼りなく思えた。目をつむると、すうっと体が吸い込まれるような気がした。
私はそのまま眠りに入った。





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