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コンペに出したポスターが最優秀賞に選ばれるまで

コンペに出すのがとにかく怖かった

美術大学の頃から比較的最近までコンペに出すことがずっとためらわれていた。募集要項を読んでいると、どういったものが審査員に求められているのか、他の人はどんなすごいアイディアで出してくるのか、どういうものが私に作れるのか、時間をたくさんかけて作ってできる限りブラッシュアップして…などといったことが途端に頭をぐるぐると巡り、軽くパニックになった後、さらにそれで落ちたら実力や今までやってきたことを全部否定されるような気がしていたからだ。怖くて出せずにいた。

殆ど絵を描くことしかやってこなかったけど、その割に四六時中描いているという程ではないし、ネットを覗けばもっと努力したりもっとうまい人は無限にいるのだから、きっとコンペには通らないし、落ちるのは恥ずかしいと思っていた。そしてFacebookで他の人の活躍を見るたびにすごいなぁと思うとともに落ち込んで、それでいて何の肩書も得られない自分に価値を感じられずどんどん自信をなくしていっていた。
それでもなぜコンペにこだわっているかと言えば、アートやデザインといった数値のない分野で人に認められるためには賞をとることだと親に言われ続けていたためと、もともと自己肯定感がかなり低い私が少しでも自信をつけたいという気持ちからだった。完全にジレンマである。
就職試験を受けまくって落ちまくった時も本当に自分の存在意義を見失ってひどく落ち込んだものだがそれに似ている気がした。そんなことにはなりたくない。

でもある時、「以前入賞したコンペに毎年出し続けていて今年も出したけど、今回は1次審査で落ちて悔しい」という友人のFacebook投稿を見た。衝撃だった。入賞した後も毎年チャレンジしているのも偉いし、落ちたことを報告していたことに、自分でもよく分からないのだがとにかくすごく感動した。

落ちてもいいんだ。みんな百発百中でコンペに通っているわけではないし、挑戦しないと絶対入賞できないという、今までずっと頭では分かっていたけど心で乗り越えられなかった部分が急にすっと溶けた気がして、驚くほど素直にコンペに挑戦してみようと思えた。

自分へのハードルをとことん下げるとこから始めた

それで、まずは無駄に高くしすぎていたコンペへのハードルをできるだけ下げることを意識した。とにかく応募するだけで偉いと自分に言い聞かせた。同人誌だって出さない神本より出たクソ本と言われている。出しただけで花丸だ。そして出すのは自分が描いてみたい、アイディアが浮かびそうと思えるテーマのコンペだけにした。(このコンペが大きそうだから、みたいな基準で選ばないことにした)

こんなことで悩んでいるのは私だけなのかもしれないが、もしコンペに出すことを同じようにためらっている人がいたら、まずは上記のような気持ちでハードルを低くしまくってチャレンジしてみて欲しい。

成年年齢引き下げポスターコンテスト

そうしていくつかの公募に参加することに決めた。そのうちの一つが法務省主催の「成年年齢引き下げポスターコンテスト」。成年年齢が20歳から18歳に引き下げられることを周知するためのポスターで、求められていることが分かりやすかった。要項はだいたいこんな感じだった。

成年年齢の引下げは、若い人たちの自己決定権を尊重するものであり、若い方々に積極的に社会に参加してほしいという期待が込められています。
そこで、「成年年齢の引下げ」をテーマとしたポスターを募集する、「成年年齢引下げポスターコンテスト」を開催します!

成年年齢引下げを効果的に告知・アピールできるポスターデザインを募集。※以下は応募のヒントです。参考までにご覧ください。
・成年年齢引下げにより、身の回りの生活でどんな変化が起こるか
・18歳を「大人」と考える理由、条件
・成年になったらやってみたいこと
・成年になるまでに準備したいこと
・若者が活躍することで社会はどう変わるのか
・18歳、19歳の当事者のみならず、その親や教育関係者、また日々の仕事を進める上でも幅広い影響を及ぼすものであるということ

数日間、お風呂に入るたびにもやもやと頭の中でアイディアを出した。縦に大きく20→18と数字があったらインパクトがあって分かりやすいのではないか…うん、よし。応募するだけで偉いのだからとりあえずこれで作ってみようと思った。

次の日イラレを開いてザクザクと頭に思い浮かべた配置に置いてみる。さてどんな風に全体のテイストを持っていこうかなと思ったところで、成人といえば成人式、振り袖なんかを連想させる和風のテイストがいいのではないか?と思い始め、成人式を調べているうちにご祝儀袋にたどり着いた。


そうか、成人のお祝いにご祝儀を渡すのか。これはそのままポスターにすれば「祝御成人」の文字をコピーっぽくなく自然に盛り込むことができ、パッと見で成人に関するポスターであることを伝えられる。

初めて18歳で新成人になる人たちは不安に感じることがたくさんあるかもしれない。でもこれから大人として羽ばたき活躍していく彼らの気持ちと、既に成人している側の私達が前向きに喜ばしく迎える気持ちを表したかった。ご祝儀は双方にとって嬉しいものだ。
募集要項の冒頭とヒントの最後にあった

成年年齢の引下げは、若い人たちの自己決定権を尊重するものであり、若い方々に積極的に社会に参加してほしいという期待が込められています。

・18歳、19歳の当事者のみならず、その親や教育関係者、また日々の仕事を進める上でも幅広い影響を及ぼすものであるということ

ここにすごくフィットするなと思った。

当初考えていた20→18の数字全面のインパクト案とは別にご祝儀袋案が浮かんだので、両方作ることにした。出しただけでも偉いのに2案も出すなんてすごく偉い。ご祝儀袋案も思いついてすぐ同時進行でザクザク作った。友達にちょっと見てもらって感想をもらって、少し修正して。一晩くらいは寝かそうと思ったので、実際に手を動かしてからは3日ほどだったのではと思う。締め切りもそんなに先ではなかったのでさっさと出した。そして、出したことは一旦忘れることにした。どうせ結果が出るのは数カ月後だ。結果を気にしすぎるのは良くない。あとは宝くじの抽選発表みたいなものだと思うようにして、他のコンペに取り掛かった。2020年1月頃だ。

しばらくして連絡がきた

それから暫くして3月上旬、私のスマホが鳴った。私のご祝儀袋の作品が最終選考6作品に残り、これから一般投票をして、それを参考に審査員が最終的に最優秀賞を選ぶのだという。すごくドキドキした。基本ネガティブなので、もしかして応募数がすごく少なかったのでは、なんて思ったりもしたのだが、とりあえず家族や知人に報告し、投票に参加してもらった。さすがに私に入れてというのはためらわれたので、良いと思ったものに投票してくださいと言って、親しい人にはさらに最終選考6作品のポスターそれぞれ全部の感想をもらったりして、この人はここがうまいとか、伝わりやすいとか、そしたら私の作品はもっとここ丁寧に作ればよかったとか話して反省したりしていた。またしばらく最終選考に残ったという高揚感でドキドキしていたけど、また一旦忘れるようにして。

そして3月下旬。
メールで最優秀賞に選ばれたと連絡が来て、喜び叫んで飛び跳ねた。

世界はコロナで大変なことになった

「最優秀賞おめでとうございます。(最優秀賞に選ばれた人は法務省で表彰があるので、)この後の手続きは追って連絡します。」そう書かれたメールを最後に連絡は来なくなった。
おそらくタイミング的にコロナのせいであろうと思ったが、公式に結果発表もされないので、公に言っていいのかどうかも分からなかった。
1ヶ月待っても連絡がこないので、せめて周囲の人には結果を言っていいのかとメールしてみたが返信はなく、もしかしてなかったことになったのだろうか…と、しばらく落ち込み、もう半ば諦め忘れていた7月。ふと思い出してTwitterの成年年齢引き下げアカウントを覗いてみるとなんと6月頭に結果をしれっと発表していた。
良かった!!とりあえず発表はされた!公に言っていいということだ!それならそうとちゃんと連絡してよ〜!!
そんな嬉しいやら安心したやらちょっとすねた気持ちやらを抱えつつ、兎にも角にも投票してくれた皆にお礼を伝え、結果を報告した。

ちなみに今でも表彰に関する連絡は来ていないが、とりあえず勇気を持って一歩踏み出してみてよかったなと思える出来事となった。

いつかちゃんと表彰される日が来るといいのだけど。

https://www.koubo.co.jp/system/contest/seinen/result/


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追記(2020/09/20)

安倍首相から菅首相に変わってすぐの9/16、賞状とカタログギフト2冊が宅配で届いた。法務大臣も変更になったので、急いで送る必要があったのかもしれない。予定されていた表彰式もなくなったのだろう。

それでもひとまず、ちゃんと賞状が手元に届いてよかった。大きな賞状で、ようやく受賞できた実感が持てて、嬉しい。

これで満足せずに今後も頑張っていきたいと思う。

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