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『週刊文春』の表紙絵から学ぶヨーロッパ文化
書店に行った際に、雑誌のコーナーでふと『週刊文春』4/27号(2023/4/20発売)の表紙が目に入りました。
この絵の中心部分に描かれている人物は、劇作家のウィリアム・シェイクスピアです。しかし、肖像の下にある文はシェイクスピアの故郷イギリスの言語である英語ではありません。そのため、不思議に思う方もいるかもしれません。ちなみに、これはデンマーク語で書かれています。
『週刊文春』を開くと、この絵が故・和田誠氏の手によるものであることがわかります。和田氏が亡き後も、生前同様『週刊文春』は表紙絵に氏の作品を使用しているようです。この絵の情報は『週刊文春』を見る限り、これ以上っははっきりとしませんでした。そこで、和田誠氏の『週刊文春』の表紙がまとめられた、『表紙はうたう』を手に取りました。
この本の中の533番「クロンボルグ城(デンマーク)」がこの表紙の絵です。これは「外国の旅」というセクションの中に収められている絵で、和田氏曰くこれらの絵を描くのに「表紙を描き始める以前に〔引用者注:外国旅行に〕行って撮った写真がずいぶん役に立っている」とのことです。また、上の絵に関して、「533は『ハムレット』のモデルとなった城の壁にある彫像」とのコメントが付されています。ちなみに「クロンボルグ城」と和田氏が呼んでいるものは、デンマーク語でKronborgと表記され、原語では「クローンボー」(新谷俊裕・大辺理恵・間瀬英夫編、2009、134ページ)のような発音になります。
さて、この表紙絵のモデルとなったクロンボルグ城の壁の彫像の実物の画像はこちらです。
![](https://assets.st-note.com/img/1682338869721-W2lU2vh7uR.jpg?width=800)
シェイクスピアの下に書かれているデンマーク語は、書き起こすと次のようになります。
Sagnet fortæller om en kongesøn AMLETH / der levede i Jylland for vikinge tiden.
Saxo nedskrev i middelalderen hans saga.
Shakespeare gendigtede i renaissancen HAMLETS skæbne og knyttede den til dette slot. Han sikrede der ved den danske prins evigst ry og bragte Helsingørs navn over verden.
試訳
その伝説はヴァイキング時代以前にユトランドに住んでいたあるアムレート(Amleth)という名の王子についてのものである。
サクソが中世に彼の物語を書き記した。
シェイクスピアはルネサンス期にハムレットの運命を書き換え、それをこの城に結びつけた。
彼はそうしてデンマークの王子の永遠の名声を確保し、ヘルシンゲルの名を世界中に広めた。
(なおこのアムレートについてのサクソによる物語は、The Sources of Hamlet: With Essay on the Legendという本に原文と英語の対訳の形式で載っていて、無料で読むことができます。)
さて、このように見過ごしがちな週刊誌の表紙も、「どのようなものを描いているのか?」ということを深掘りすると、さまざまなことがわかるという興味深い事例でした。
参考文献
新谷俊裕・大辺理恵・間瀬英夫編『デンマーク語固有名詞カナ表記小辞典』大阪、大阪大学、2009年。
和田誠『表紙はうたう:「週刊文春」のカヴァー・イラストレーション』東京、文藝春秋、2008年。
tlg25, »Ты Гамлет спишь, ты, мальчик, видишь сон«, LiveJournal, 2009.