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人種問題についての話し合いの秘訣〜コミュニティー・ガイドラインを作る

前回の記事では,会社で黒人のサポートグループを作った経緯をまとめた.

今回は,このような話し合いの場でとても役に立った,「コミュニティ・ガイドライン」というものを紹介したい.人種に限らず,繊細な話をグループとして安心して共有する時に便利なツールだ.

コミュニティ・ガイドラインとは

文字通り,グループに参加・活動する上での決まりごとのことである.中身は様々で,グループの性質やメンバーの意向によって決めていく.これは私の会社の黒人サポートグループに限らず,大学院時代の知り合いが初めたレイシズムに関する学内の読書会,プロのファシリテーターが主催している人種と都市計画に関する社会人勉強会,など様々な場面で目にした.

会社の黒人サポートグループに参加してみて,初めはこの場の独特なプライベートさと,人種差別という話題の深刻さと,仕事以外の話をしたことがなかった人たちとそのような空間にいることの違和感とが混ざった,表現しようのない重みに戸惑った.仕事のミーティングとは違って,何か一つの結論を出しているわけでも,チームのパフォーマンスを上げようとしているわけでもない,でもものすごく深刻で親密な話をしている,という不思議な場をうまくまとめるのに役立っている.

ガイドラインを作る目的

まず,参加者に期待されていることが明確になる.会社のグループでは,毎回の話し合いの準備として,いくつか人種に関する新聞記事やエッセイ,ブログ記事などを読んできて,それを元に話し合いをすることも多いのだが,その場合は「事前準備を毎回,ちゃんとする」というルールを明文化することが大事だ.初めはみんな気合が入っていて,わざわざそこまで言わなくても,という気持ちになるかもしれないが,回を重ねるにつれてどうしてもマンネリ化してくる場合もあるので,その時に見返せると効果的だと思う.

また,同様に大事なのが,参加者に期待されていないことも明確になることで,プレッシャーが軽減され,息長く参加できるようになることだ.例えば,別件で会社の中で「全員同僚だけど仕事の話をしてもしなくてもいい緩めの会をしたい」ということで立ち上がったグループでコミュニティ・ガイドラインを作った時は,あえて「都合のいい時だけ参加すれば良いし,遅刻も早退もOK」ということを明文化した.このルールを作ることで,例えば一度欠席したから次も行きにくくなって,そのうちグループから抜けてしまう,というケースを防ごうという意図があった.

また,多くの場合,最初の会合をガイドラインの発案や議論に費やすが,このプロセスがグループ内の意識のすり合わせをする機会になるのも大事なことだ.もちろん,一度作ったガイドラインは絶対ではなく,むしろ回を重ねるごとにグループ内の価値観が明確になり,ガイドラインがアップデートされることは十分ありうる.

以下に,私が目にしたガイドラインの例を紹介した.大きく分けて,安心して話せる場を作るためのルールと,場に参加した人たちがお互いの成長にコミットしあうためのルールがある.

コミュニティ・ガイドラインの例:安全な場を作る

グループの中で話したことを口外しない:これは頻繁に目にするルールで,とても大事な原則だと思う.話しにくいことを扱うグループでは特に,間違ったことを言ってしまうのではないかという不安を持っている人もいたり,とても個人的な体験を勇気を出して共有しようとしている人がいる.そのような人たちが安心して言いたいことを言えるために最低限必要なルールである.

(誰かを傷つけるような発言や,差別的な言葉が出た時に)発言者ではなく,発言内容に焦点を当てる:意識的にこういう発言をする人は少数派で,むしろ多いのは,無意識のうちに持っていた差別的な考え方が発言に反映される場合である.それをグループ内で見つめて,話し合いの焦点とするのも大事なことだ.自分がそのような発言をしてしまっても,自分の人格が評価されるのではなく,行為に焦点がいくということが分かっていれば,少しは発言がしやすくなると思う.

コミュニティ・ガイドラインの例:互いの成長にコミットする

毎回の話し合いに必要な準備を欠かさない:当たり前のことだが,これを初めに明文化しておくと後々役に立つ.会社で業務時間中に開催している場合,どうしても忙しくて準備がおろそかになってしまうこともある.また,グループの中で上下関係がある場合,立場が上の人がそうなっていても注意をしにくいかもしれない.そういう時に,一度明文化したガイドラインを見返すことで,グループとして初心にかえることができる.

参加したからには,発言する:どのようなグループでも,活発に発言する人と,口数が少ない人がいる.仕事のミーティングならまだしも,このような場では,自分の持っているバイアスを口にしてみて初めて自覚する,という経験をすることも大事なことで,静かにしているとその機会が減ってしまう.人の話を聞くだけでは不十分で,仮に考えがまとまっていなくても自分が発言することでグループに貢献する責任がある,ということを強調することが大事だ.

居心地の悪いことでもオープンに話す,周りの人は聞いたことを尊重する:これも当然のことに聞こえるが,意外と難しい.私も,過去に自分が差別にとられるようなことをした話を共有した時,ただでさえ気が引けたのに,その場に上司や後輩がいたことで余計緊張した.行儀の良いことを言っている方がよほど簡単な時に,あえて言いにくいことを言おう,とグループの中で約束しあうことも必要だと思う.

まとめ

今回は,話し合いのグループで決めると便利な「コミュニティ・ガイドライン」について紹介した.グループの目的やメンバーによって柔軟に決めることと,決めたルールを必要な時に再確認,改訂することも大事だと思う.今後の記事では,ファシリテーションをしていて思ったこと,また人種と都市計画について考えこと,などについて話を広げていこうと思う.

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