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04. ひどい便秘と冷え 47才女性

はじめに:
「中医学タメシテミル」の次の相談者はDさんです。長年の便秘とそれに伴うイライラ・憂鬱・不安感などのご相談です。しんまいの中医薬膳師ですが、中医学の考え方と雰囲気にふれていただくために、相談内容を読み自分なりに解釈し、仮説にもとづいて対処法を説明させていただきます。

今回のご相談

基本データ

女性 47歳 Dさん 
体格:隠れ肥満。身長151cm、体重46.5キロ、体脂肪率29.5%、平熱36.3度
アレルギー:なし
既往症:なし。
服用中の薬:病院で便秘薬を処方(下剤:ピコスルファートナトリウム、酸化マグネシウム、坐薬:レシカルボン、テレミンソフト、その他:モサプリド)。市販薬:整腸剤、浣腸。サプリメント:マルチビタミンミネラル、消化酵素、vitex、グリシン、プロテインパウダー。寝る前のサプリ(カームズフォルテ)
飲酒:しない 喫煙:しない
食生活:不規則
運動習慣:朝にラジオ体操第一と一日おきにスクワットまたは腹筋を鍛えるエクササイズ
性格や精神状態:神経質・悩みやすい・憂鬱感がある・イライラしやすい・我慢することが多い・過敏・怒りやすい・驚きやすい・切れやすい

最も気になっている症状:便秘

便秘:「長年の便秘で本当に困っています。」細い便・残便感あり・お腹が張る。腹に力がない。
いつから?どのような経緯をたどりましたか。:「25歳ぐらいから。漢方薬や新しい便秘薬など様々試したが値段が高いので、現在は坐薬や浣腸、下剤(ピコスルファートナトリウム)整腸剤を使用。消化器内科に通っていましたが、切れ痔になり手術をうけました(43歳)。生活改善(便秘解消のため早寝早起き、甘いものを減らす、夕飯を早めにする・少な目にすること等)チャレンジしましたが、挫折してしまいました。下剤服用だけだと、左下腹から直腸付近で詰まる感覚があって排便できず、不快なので坐薬や浣腸を使用してしまします。一日一回すっきりとしたお通じがないと、お腹が張ったりして体調が悪く、イライラして憂鬱・物忘れがひどくなり、不安感におそわれます。漢方薬もよさそうなんですが、大黄の副作用(腸が黒くなる・継続で効かなくなる・腹痛)が怖く、自分で選ぶのが難しいです。」
どういう時に和らぐ?:「便もガスもでて、お腹がすっきりした時」
どういう時に悪化する?:「お通じがないとき。朝、お通じがないと一日中つらい。なので、朝、出勤前に、坐薬や浣腸を使用してしまいます。」

次に気になる症状:手足の冷え

手足の冷え:「手足(足は足の甲が特に)の冷えが強く、この時期とても辛いです。真夏は身体は暑いですが手足はちょうどいいぐらいです。」

それ以外の症状

「ひどい・よくある」に記入あり:立ちくらみ。日中すぐ眠くなる。胃もたれ。むかつき。ゲップ。胸焼け。腹が張る。腸にガスがたまりやすい。腹が鳴る。尿が近い(頻尿)。残尿感がある。排尿困難がある。目が疲れる。

「まあそうだ」に記入あり:少食。食べたくない。食べ過ぎる。食後に胃痛。吐き気。胃のあたりが重い・つかえる。胃を触ると硬い。腹に水が溜まる感じ。水分はあまりとらない。温かい飲み物が好き。昼食後眠い。一回の尿量は少なめ。尿は薄い。目にクマができやすい。鼻水(水っぽい)が多い。耳鳴りがある。口の中が甘い。口の中が粘る。吐き気。腹痛(全体)。肩こり・首のこり。ほてり(顔)。頭痛関連:頭重。立ちくらみ。めまい。のぼせ。乗り物酔い。頭痛は疲れると悪化する。頭痛はストレスで悪化する。頭痛は寝不足・便秘・生理痛で悪化する。頭全体が痛い。いつも同じ場所が痛む。脈打つように痛い。

とくに症状を感じない:関節の腫れなし。呼吸・喉のトラブルなし。

食べ物の好み

程度(好き・よく食べる):甘いもの、卵、乳製品、果物、菓子
程度(嫌い・避ける):生野菜・炭酸飲料
程度(普通):それ以外(塩辛い・辛い・酸っぱい、油っこい、冷たい・温かい・肉類・魚・温野菜)


便秘について

Dさんのシートを拝見して、25歳ころから様々な薬も試し、消化器内科にも通い食事改善にもチャレンジしたこと、腸を意識した体操もしていることなど、本当に努力してここに至っているのだなと感じました。ですので、安易に体操しましょうとか、あれ食べたら良いよ、という話にいきなりジャンプするのではなくて、中医学の視点で、私からはどのように見えるか、その結果としてどうすればいいと思うかをお話させて下さい。

まず、毎日が辛い・毎日が緊急事態ですから、薬や浣腸などを使うのはやむを得ない状況だと思うのですが、このお話を読む間は、いったん「便秘=出ない現象=>だから、薬=出す薬が必要」という考え方をいったん封じて下さい。

中医学では便秘をみるとき、大腸という部位や便が出ないという症状を気にしながらも、まず全身に起きている現象をみます。ここで、便秘にまつわる全身状態を中医学ではどのように分類しているかを書き出してみます。

基礎の中医学でならう便秘の種類

下に書き出すのは、基礎の中医学でならう、便秘に関連した「症」の名前です。「同じ便秘でも違う様子だな」と感じていただくために、専門用語もほぼそのまま抜粋します。実際は、複数の「症」が複雑に重なることもあるので、こんなに単純ではないそうですが、すくなくとも「わたしはコレではないな、どちらかというとコレだ」というのがあるのではないでしょうか。

1) 「熱秘」 
腸内に熱がこもり、津液を消耗するため腸の水分が不足して便秘となる。■症状:大腸乾燥便が臭い・小便の量が少なく色が濃い・顔が赤い・熱っぽい・腹脹・口渇・口臭。舌質赤舌苔黄・脈滑数 ■対処法:清熱潤腸(腸の熱っぽさを冷まし腸を潤す)

2) 「気秘
ストレスや運動不足のため腸内の気の流れが悪くなり、腸の動きが鈍って便秘になる。■症状:便意があるのに排便困難・げっぷ・胸脇痞満(胸の脇がつかえる)・腹部脹満(腹がはる)・舌苔薄膩 ■対処法:順気行滞(滞った気を巡らせて正常にする)

3)「 虚秘(気虚)
疲労・飲食内傷(たべすぎ)・病後・老人性の体質虚弱などが原因で気虚になり、気が不足しているので便意があっても出せない。■症状:便意があるのに排便困難・便は固くない・排泄後に汗や疲れが出る・顔色白・疲労・息切れ。舌淡嫩(どん)苔薄・脈虚。■対処法:益気通便(気を盛んにし便を通す)

4) 「虚秘(血虚)
疲労・病後・熱病の後期などが原因で血が不足になり、腸内が乾燥して便秘になる。また血液循環が弱くなって、腸が潤わず乾燥して便秘になる。■症状:顔色が悪い、頭がふらふらする・めまい・同期・便秘・うさぎの糞のような便。唇舌淡・脈細渋。■対処法:養血潤腸通便(血を補い腸を潤して便を通す)

5)「 冷秘」 
陽虚体質または老化のため、腸内が陰寒内盛となり、陽気不通により伝導困難で便が進まず、便意もない。便が太く、固くなる。■症状:排便困難・小便清長・顔色白・冷え・温めることを好む・腹中冷痛または腰背の痛み・疲労。舌淡苔白・脈沈遅。■対処法:温陽通便(あっためて便を通す)

※このほか「水津分布」(大腸に湿がたまった所と乾燥している所がある)なども便秘につながります。

参考:『実用 中医薬膳学』 辰巳洋

中医学では、これらの現象(「証」)に対応するために、薬が処方されます。便秘共通の万能薬があるわけではありません。

ちなみに大黄を含む強い瀉下薬(下す薬)をすすめられるのは、1) 「熱秘」だけです。ものすごく身体を冷やします。なお瀉下薬は「熱秘」の人であっても長く服用するものではありません。Dさんが「大黄は避けたい」というのは間違っていない感覚です。


弁証

以上、ながながと便秘にまつわる「証」を書きましたが、Dさんの状況は違う言葉で表現させてください。「痰湿」です。

痰湿

臓腑機能が失調して、体内に水が停留しやすい体質。ーー Dさんの情報には、「痰湿」の人の症状が多く書かれていると思いました。「手足(足は足の甲が特に)の冷えが強い、隠れ肥満、好きな食べ物は甘いもの・卵・乳製品・菓子などが好き(湿がたまりやすい食物)、頭重、眠い(日中すぐ眠くなる)、頻尿、脾胃の弱りの兆候(少食。食べたくない。食べ過ぎる。食後に胃痛。吐き気。胃のあたりが重い・つかえる。胃を触ると硬い。腹に水が溜まる感じ。昼食後眠い。口の中が甘い。口の中が粘る。)

痰湿とは:
「湿」とは、主に消化機能の弱りによって、消化しきれずに溜まった水分(不純物)の総称です。西洋医学でずばりコレに該当するというものはないです。「湿」は、文字通り、水っぽいものです。これがたまると身体が重く感じ、冷え、「痰」(たん)になることがあります。

「痰」は、頭痛やめまいのもとになったり、もっと深刻な病気のもとにもなる、悪いものです。粘り気、滞り、重たさ、濁りなどの性質を持ちます。脂肪やコレステロールに関係させて論じる先生もいらっしゃいます。湿が「痰」にかわって、それが溜まっている状態を「痰湿」といいます。

痰湿が脾胃(消化器官)にとどまると、めまい、眠い、みぞおちのつかえ、膨満感や食欲不振の症状があらわれます。

陽虚痰湿

複合体質で「陽虚痰湿」という体質の人もいます。「陽虚」とは、気虚(臓器のパワーがおちた状態)がひどくなって、冷え切って凝り固まった状態です。「陽虚痰湿」は「陽虚」と「痰湿」の合わさった状態です。

わたしは、Dさんは長年の便秘で「陽虚痰湿」のような状態になっていると思います。これをただせば、徐々に便秘・冷え性も解消し、精神的なつらさ(イライラ・憂鬱・物忘れ)も薄れていくのではないかと思います。

便秘について

便秘については、気になる表現がありました。「下剤服用だけだと、左下腹から直腸付近で詰まる感覚があって排便できず、不快なので坐薬や浣腸を使用してしまします。」とのことでした。この詰まる感覚というのが、なにかの腫瘍や、腸内の癒着だったりしたらおおごとです。このように物理的になにかがあるかもしれないと思える場合は、西洋医学の便秘に詳しい専門の先生にも検査していただきたいです。(便秘外来、便秘/排便障害)

それと並行してできることとして、わたしはDさんは、「陽虚痰湿」のため「虚秘(気虚)」と「冷秘」があわさったような便秘になっていると仮定して対処法を書きたいと思います。


対処法

先程書いた通り、中医学では、便秘に対しても、排便だけを問題にするのではなく、Dさんの「証」を意識してそれをやわらげ、結果的に便秘を解消する、という発想で対処します。今回はほとんど「たべる」(食養生)を中心としたアイディアです。

対処法 その1:食べる

まずは、試しに1ヶ月、次の様な食生活をしてみてください。
重要なポイントは主に2つ。

1.タンパク質をしっかりとって、酵素やホルモンを自分でつくれるようになること。(全身の「補気」・パワーアップにつながる)

2.主食は穀物を粥にしてとる(または無味の豆腐をとる)ことで、消化器官を一休みさせてください。1ヶ月おなじことをつづければ、身体は変わってきます。

1.複数のタンパク質を主菜に(1日60g)(1ヶ月)

まずは、自分自身のからだに、筋肉・皮膚・粘膜・消化酵素・ホルモン等を作らせましょう。難しいことではありません。毎度の食事で複数のタンパク質食品をとればよいのです。多くの日本の加工食品には、パッケージにそれをとると何グラムのタンパク質がとれるか書かれていますし、ネットでも何にタンパク質が何グラム含まれるかを見ることができます。神経質になる必要はありませんが、大体必要な量のタンパク質を自分がとれているか、感覚的にわかるようになったら大きな進歩です。

2.粥、または、豆腐(無味)を主食に(1ヶ月)

Dさんは腸が疲弊しています。粥はシンプルで実践しやすい薬膳です。粥を中心にして、食欲に応じておかずをとり、消化器官の元気を取り戻しましょう。ダイエットにも効果的です。

・粥の作り方:1/2合(75g)の米+750ccの水で炊飯器で。
・毎回がむりなら1日1回は粥で。
・炊きあがった粥に、挽き肉をちぎって入れて再加熱してもよい。
・炊く時にハトムギをいれるのも良い。ハトムギは湿をとり美肌にも良い。
(例:JAいなば 富山県産 ハトムギ精白粒 とやまのはとむぎ)

3.おかずはなんでもいい。消化の良いものを適量。身体にきいて。
おかずをたくさん食べられない時は、粥+タンパク質だけもいいです。

4.空腹の時間をつくる
空腹を感じる時間を作りましょう。まず寝る前は食べない(寝る前と寝ている間は空腹で)。日中も一日に1回は空腹を感じる時間をつくり、胃腸を休めます。

5.菓子は、食べるなら時間をわけてチビチビたべる。
お菓子は減らすのがベストですが、Dさんはお好きなんですよね。食べるならチビチビと食べて下さい。例えばケーキは3分の1にして、時間を3回に分けて食べます。血糖値が急に上がることもないし、少量ずつたべたほうが脂肪に転化されにくいのでダイエットにもよいです。

6.いまは野菜を無理に取らなくてもいい。
野菜とタンパク質を煮込んだおかずなどは理想的ですが、まずはタンパク質とお粥を守って下さい。腸が疲弊しているため。

以上のような食事のペースができてきたら、次に以下のような食材を意識して摂ってください。

「陽虚痰湿」の改善にきく「補気温陽・化湿祛痰」の食材
くるみ・エビ・ナマコ・イワナ・羊肉・うるち米・もち米・オートミール・長芋・じゃがいも・かぼちゃ・さつまいも・カリフラワー・キャベル・いんげん豆・長ささげ・白豆・しいたけ・霊芝(れいし)・栗・桃・牛肉・豚足・豚の胃袋・鶏肉・鴨肉・うなぎ・さば・タチウオ・カツオ・マナガツオ・すずき・イワシ・タラ・ロイヤルゼリー・蜂蜜・水飴・ニラ・唐辛子・ピーマン・桂花・胡椒・黒砂糖・鮭・アジ・マス・菊芋・金針菜・冬瓜・鯉・鱧・シラウオ・はまぐり・小豆・黒豆・大豆・そら豆・ハトムギ・トウモロコシ・すもも・とんぶり・のり・昆布・クラゲ・あさり・黒慈姑・里芋・たけのこ・へちま・辛子菜・春菊・豆乳・甜杏仁・銀杏・羅漢果・梨・柿・びわ

参考:『実用 体質薬膳学』 辰巳洋

この食材リスト、何でもかんでもじゃん!、と思われるかもしれませんが、「陽虚痰湿」におすすめです。この中に好物があれば気に留めておいて下さい。

何を食べたかを日記につけるのも効果的です(スマホでも)。ダメだった日があっても大丈夫。気長に続けましょう。応援しています。

対処法 その2:動かす

Dさんは、すでにご自分で体操されているのでそのまま継続してください。

対処法 その3:くすり

くすりはこれ以上飲まないほうが良いと思います。食養生(食事)を中心に体質を変えてみましょう。ですが、参考に「陽虚痰湿」に対応する「補気温陽・加湿祛痰」の効果がある方剤(中薬(薬)を組み合わせたもの)の例をご紹介すると、理中湯(人参・白朮・乾姜・甘草)と二陳湯(半夏・陳皮・白茯苓・甘草)があります。いずれも脾胃の気を補い温め、湿を取る作用があります。ご興味があれば専門の薬局か、中医学や漢方を専門とする病院にご相談ください。


最後に

お礼

ご相談ありがとうございました!Dさんの相談シートは、長い間ご自分でもよく考えて体質改善に取り組んできた事が感じられる内容でした。まだビギナーのわたしが、相談シートだけをもとに考えた内容なので頼りないですが、中医学の考え方に興味を持っていただければ幸いです。中医学では本来、対面で顔色や舌や脈をみたり、様々な問診をした上で診断しますので、ご興味があれば、ご自分にあった中医学・漢方の先生を近くで見つけてご相談ください。体調が改善されるように祈っています。

(この記事は修正する場合があるので時々チェックしてください)

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参考文献

『実用 中医薬膳学』 辰巳洋・著 東洋学術出版社
『実用 体質薬膳学』 辰巳洋・著 東洋学術出版社
※ほか、日本中医学院の教科書とノート

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