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05. リンパ節の腫れと熱 24才女性

はじめに:
「中医学タメシテミル」の次の相談者はEさんです。幼少期から原因不明のリンパ節の腫れと熱を繰り返し、20才以降はひどい生理痛・不眠にも悩まされています。しんまいの中医薬膳師ですが、中医学の考え方と雰囲気にふれていただくために、相談内容を読み自分なりに解釈し、仮説にもとづいて対処法を説明させていただきます。

今回のご相談

基本データ

女性 23歳 Eさん 
体格:身長165cm、体重46.5キロ、平熱36.3度
アレルギー:なし
既往症:なし。
服用中の薬:フルニトラゼパム(睡眠導入剤)、リフレックス(ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ剤)、デエビゴ(不眠症治療薬)、ジェミーナ錠(月経困難症の薬)いずれも病院で処方
飲酒:習慣的に飲む 喫煙:しない
食生活:不規則。夜食は食べる。
運動習慣:時々。筋トレ(プランクなど)・歩き。
性格や精神状態:苦労性・悩みやすい・不安感がある・憂鬱感がある・過敏・驚きやすい・わけもなく悲しくなる

最も困る症状

発熱・リンパ節の腫れ
発熱
:「首のリンパの腫れを伴う発熱(不定期)。病院でもわからない。」
いつから?どのような経緯をたどりましたか。:「幼少期から高熱(40度位)がでては5日位で平熱になるが、また数日後に再発することを繰り返す。抗生物質はきかず病院の免疫検査でもわからず。解熱剤で対処しながら過ごす。発熱時はその頃も首のリンパ節がいたかった。14才の時、大学病院の漢方外来で抑肝散を処方されたところ、熱がでなくなった。抑肝散は17才くらいでやめた。20才ころから再発。頻度は減り不規則。いまは粉薬と煎じ薬が苦手で抑肝散や粉の漢方薬は飲みたくない。」
どういう時に和らぐ?:不明。
どういう時に悪化する?:規則性はないので予測不能。

他に気になる症状

極度の不眠症・生理痛
極度の不眠症
:通院中(服薬中の薬は前述)
生理痛:通院中(服薬中の薬は前述)

それ以外の症状

「ひどい・よくある」に記入あり:髪が抜ける。手足の冷え。目の下がピクピク痙攣する。手足や体が重だるい。吐き気。ごろごろした固く乾燥したべん。水分を多く飲む。冷たい飲み物が好き。一回の尿量は多め。尿が薄い。口や喉がとても渇く。口内炎ができやすい。

「まあそうだ」に記入あり:頭重。不定期の側頭部の頭痛。(天気の悪い日、低気圧の日など。天候関係なく疲労などでひどくなるときもある。よこになっていると楽になる時がある)肩こり。


弁証

Eさん。小さい時から、すでに通院や検査は繰り返して今に至っているので釈迦に説法かもしれませんが、リンパ節の腫れは悪性だとこわいですね。検査などはされたのでしょうか。心配になりました。

とはいえ、病院には行った上でのご相談だと思うので、その前提で(とくに検査しても何もない、わからないという前提で)、自分がわかる中医学の範囲でその視点をご紹介します。中医学での見方に興味が湧いたら、中医学の弁証をしっかれされるような専門の先生をおたずねください。いずれにしても何かにつけて、お医者様にはご相談ください。

まず湿ありき

湿がある
Eさんの症状からは何らかの理由で、体内に水が停留しやすく「湿」がたまりやすいのでは?と感じられます(症状:手足の冷え。手足や身体が重だるい。)湿は多くの場合、脾(消化器系)のパワー不足でおきます。あるいは腎が虚弱でも湿がたまります(子供・老人など)。湿がたまると「痰」とよばれる身体に良くない不純物にかわることがあります。これは頭痛やめまいや熱のもと等になることがあります。(痰とは身体に流れる水が停滞して熱をもち凝集化した結果、粘性化したものを指します)

肝鬱化風

幼少の頃とおなじ
今こまっているリンパ節の腫れを伴う発熱は、幼少の頃からのものと基本的には同じだと思います。また14才のときに抑肝散が効いたという話から考えて、当時のEさんのその全身状態には、抑肝散が処方されるような現象があったのだと思われます。

抑肝散とは
抑肝散は、「肝鬱化風のけいれん・歯ぎしり・いらいら・不眠」などの症状をおさめるための子供用の薬です。量を増やして大人に処方されることもあります。具体的には、抑肝散が抑えてくれるのはこのような症状です。

  • 肝系の虚熱(肝の虚証による熱)

  • 驚悸(驚・恐・怒によっておこる動悸)

  • 嘔吐、腹の膨張感・少食 ー脾(消化器系)の不調 

  • 寝ていられない不安 ー 脾(消化器系)の不調 

Eさんが14才の頃に、抑肝散を処方されて良く効いたという事は、そのころの熱は肝鬱化風による肝系の虚熱と判断されたのだと思います。

平肝熄風・疏肝健脾の効能

抑肝散は、上の症状に対して「平肝熄風・疏肝健脾」の効能があります。
熱や痰に直接関係する成分は入っていません。

平肝熄風とは、
肝風をしずめるという意味です。

肝風とは、肝の陰液が不足しているために、相対的に肝の気(陽)が相対的に強くなって、体内で自分の肝の気が上昇してしまうという現象です。

肝風のために頭痛やめまいや目が痛い発熱などがおきる人がいるのですが、平肝熄風の薬は、そのような人の身体の中でおきている内風をしずめます。

疏肝とは、
肝の気のめぐりを改善すること。

健脾とは、
脾(消化器系)の調子も整える、という意味です。

中医学では木乗土といって(=木は肝、土は脾。木乗土は、肝が脾に影響を与えるという意味)、肝が不調だと脾の調子も悪くなるよ、という知恵があるのですが、抑肝散ではそれを予め考慮して健脾の薬も配合しています。

今も基本的には同じ

Eさんの今の状態はいまも幼少の頃と同じく、湿がたまりやすく肝鬱化風の虚熱がでやすい状態だと思います。その場合、湿をためないような手当や疏肝が必要です。

薬もやめて 20才を超えたくらいから身体も生活もかわってきて 熱が復活し、ひどい不眠・手足の冷え性・生理痛や頭痛などがおきていると考えて良いと思います。

肝の不調は、腎や脾にも影響します。腎の不調は婦人科系の疾患や冷えに深く関係しています。また、脾の不調は手足の冷えや不眠につながることが多いです。

また婦人科系についてはEさんは、相談シートからみて、血瘀(血が滞っている)があるようです。ひどい冷え性もありますので、身体を温めるのは何よりも症状の改善につながります。

不眠については、中医学では大きく実証・虚証とわけます。実証は湿など邪(悪いもの)の影響で起きている場合。虚証はどこかの内臓の気か陰液が不足している時に起きる不眠です。これらはさらに分類され、タイプによって対処法がかわります。Eさんの場合は、そのどれにあたるかはシートの内容ではわかりませんが、いずれにしても、ベースの体質を改善することで症状が改善される可能性はあると思います。


対処法

相談も5人目の方となって、繰り返しが増えてきたので短くまとめます。

対処法 その1:あたためる

Eさんはまず、すぐにできることとして、暖かくして下さい。日常的に身体を温めて、体内の気をめぐらせて下さい。冷え性・不眠・PMSなどが悪化しないために。おしゃれでも「冷え」に通じる服装もあるので注意して下さい。重ね着や部分的に温めるアイテム(首、手首、足首、腰)で工夫している例があるので、ネットなどで検索しても楽しいかもしれません。あとはお風呂。温かい飲み物を持ち歩くなど。

対処法 その2:食べる

Eさんは、その発熱を意識して「平肝熄風・疏肝健脾」、「祛湿・滲湿」(湿をとる)というような機能のある食材をおすすめしたくなります。
・祛湿:湿をとる(はとむぎなど)
・養肝:肝に貯蔵する血を充実させる(黒・紫のもの、レバー、魚類)
・平肝:陽気が上がるのを鎮める(セロリ・ピーマン・ほうれん草等)
・疏肝(肝の気のめぐりをよくする)(柑橘類)
・脾胃(消化器)が消化しやすい元気になる食材(穀類、芋、果物)

とくに肝の栄養が満たされると肝風がおきにくくなります。足がつったりまぶたの下がピクピクするということも少なくなると思います。脾胃が落ち着くと結果的に冷え性も緩和します(身体の保温は前提です!)

平肝熄風・疏肝健脾の効能がある食材の一部をご紹介します。

祛湿の効能がある食材
ハト麦、いんげんまめ、枝豆、オレガノ、キャベツ、そら豆、バジル、松茸、大豆もやし、よもぎ、さば、しじみ、カルダモン、山椒、唐辛子、緑茶

養肝の効能がある食材
(肝に引決を補い、肝の機能を正常にする)
椎茸、カシス、すもも、ブルーベリー、プルーン、黒ごま、あんきも、うなぎ、貝柱(干)、さば、ししゃも、すずき、たちうお、ムール貝、牛レバー、鶏レバー、豚レバー、烏骨鶏の卵、ローヤルゼリー

平肝・潜陽の効能がある食材
(陽気が上がるのを鎮め肝気を正常にする)
アロエ・菊花・クレソン・せり・セロリ・豆苗・トマト・ピーマン・ほうれん草・マッシュルーム・レモンバーム・穴子・くらげ・ニジマス・ラベンダー
疏肝の効能がある食材(肝の気の通りをよくし、気滞を解消する)
キャベツ・くあい・にら・レモンバーム・あけび・オレンジ・きんかん・ぐみ・グレープフルーツ・さんざし・シークワーサー

健脾・補中の効能がある食材(脾の働きを正常にする)
穀類雑穀全般・コーンスターチ・さつまいも・里芋・じゃがいも・タピオカ・山芋・いんげん豆・黒豆・大豆・豆乳・納豆・豆類全般・かぼちゃ・おくら・小松菜・さやいんげん・ずいき・そらまめ・ナス・人参・ブロッコリー・マッシュルーム・大豆もやし・モロヘイヤ・れんこん・アボカド・ゆず・りんご・栗・あじ・いか・いわし・うに・かたくちいわし・サバ・鮭・舌平目など魚全般、鴨肉・牛肉・豚肉・鶏の砂肝・鶉の卵・卵黄・黒砂糖・蜂蜜・陳皮・味噌・みりん等

『食養生の知恵 薬膳食典 食物性味表』日本中医食養学会

対処法 その3:うごく

運動は「気を滞らせない」ことを目的として、自分のメニューを作って下さい。「滞らせない」のが目的なので毎日やることが必要です。きつい運動を3日に1回するより、つづく運動を1日1回。そのほうが「めぐらせる」ことにつながります。

気が滞らなくなると、発熱・痛み・冷えがやわらいできます。また、同じ運動で血流も促進され、婦人科の様々なトラブルも改善・予防できます。

相談シートでは、「筋トレ(プランクなど)と歩き」と書かれていました。とてもよいことです!注意点として、筋トレは、静止系(姿勢維持)のメニューが多いので、循環させるような動きもはいっているかな、と確認してください。毎日少しずつ、がんばってください。応援しています。

対処法 その4:くすり

もし漢方薬に興味があれば、すでに精神科と婦人科の処方をうけているので、主治医にご相談の上、中医学や漢方を専門とする病院や薬局にご相談ください。おそらく全身についての問診のほか、舌診・望診・脈診(舌、顔色、脈などをみる)をして、Eさんの熱(リンパ腺の腫れを伴う)を中心に据えながらも、冷え性やPMSや頭痛なども踏まえて、考えてくださると思います。粉薬や煎じ薬が苦手とのことですが、錠剤が手に入る場合もあります。


最後に

お礼

ご相談ありがとうございました!何かのヒントになれば、幸いです。複雑な症状なので、一人で抱え込まないようにして下さいね。Eさんの体調が改善されるように祈っています。

(この記事は修正する場合があるので時々チェックしてください)

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もしご興味のある方は相談をお寄せ下さい。

参考文献

『食養生の知恵 薬膳食典 食物性味表』日本中医食養学会
『中医臨床のための方剤学』 神戸中医学研究会編著 東洋学術出版社
※ほか、日本中医学院の教科書とノート








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