2022 Lists
2022年の自分自身の生活を振り返ってみると、労働と生活に大きく時間を費やしたなあというのが最初に出てくる感想で、これは単純にステージが変化し労働量が増したことと、これまたライフスタイルが変化し家事諸々をやる必要性がこれまで以上に増したことによる。仕事終わりに映画を見に行くことや、土日に一日かけて映画を見るということは非常に難しくなったが、その分(充実感ではなくただ金のために)ハードワークをこなしたり、家事労働に力を入れ料理スキルの向上に努めたりと、これまで本当はすべきであったが出来ていなかったことをやっている。
一方で、ようやくライブや国内旅行に大手を振って行くことが出来たり、友人たちとも気兼ねなく遊べるようになったりと、行動範囲が徐々に元に戻ってきたのを感じる年でもあった。フジロックとFRUE FESに行ったことは今年の2大楽しいお祭りだったし、イベントに友人らと気軽に顔を出して適当に楽しみつつ喋って帰る、という遊び方が少しずつ出来るようになってきたと思う。来年もこの方向性で遊んでいきたい。
「人は人生を愛しているときには読書はしない。それに、映画館にだってほとんど行かない。」というミシェル・ウェルベックの言葉を思い出すけれども、まだ読書はしてるし映画館にだって行きます。
2022年ベストアルバム
2022年は前述した事情により、あまりまとまった時間を取れなかった。にも関わらず相変わらずストリーミングは自分の趣味に沿った新譜を毎日のように勧めてくるもので、苦悶しながら時代の音を耳に取り込まざるを得ないという非常に不健康な状況であったと思う。ただ、そんな状況でも未だにアルバムという形式で作家を捉えることを止めることが出来ないのは時代にアジャストしていないのだろうか。
日本語圏/外のラップをそれぞれ10枚ずつ、その他のジャンルで10枚。それぞれABC順に羅列。
Armani Caesar / The Liz 2
Billy Woods / Aethiopes
Domo Genesis / Intros, Outros & Interludes
Earl Sweatshirt / SICK!
Freddie Gibbs / $oul $old $eparately
KA / Languish Arts, Woeful Studies
MAVI / Laughing so Hard, it Hurts
Nas / King's Desease III
Open Mike Eagle / Component System with the Auto Reverse
Roc Marciano & The Alchemist / The Elephant Man's Bones
実際のところベストソングを選ぶのであれば、Asian Doll & Bandmanrill『Get Jumped』かDuke Deuce『Just Say That』かIce Spice『Munch』かと言うところなのだが、アルバムを通して聴いて心を打たれていたのは今年もアンダーグラウンドにおけるラップ・リリシズムだった。
Griseldaはまだ勢いを失っていないどころか充実したアルバムを大量にリリースしていた。中でもArmani Caesarを今年のバッファローズ・ファイネストとして推したい。シルキーでゴージャスなサウンドに乗る主役のラップから強く感じる不穏な思慮深さが印象深い。Billy Woodsの『Aethiopes』は今年一番聞いたアルバム。パッチワークのように溢れる引用の裏側にあるハードなヒップホップ・マナーが冴え渡っていた。ライブを見れたのも本当に良い体験だった。『Intros, Outros & Interludes』における、Evidenceの白昼夢染みたプロダクションと自信に満ちたDomo Genesisのラップのマリアージュは今年の最も素晴らしい収穫の一つ。敬愛するFreddie Gibbsがリリースした『$oul $old $eparately』はこれまでの集大成のように高い完成度。同時に、人間としての成熟を確かに感じさせるリリックが垣間見れたのもファンとしては嬉しかった。KAの『Languish Arts』『Woeful Studies』において、メタファーやダブルミーニング、同音異義語を巧みに駆使しながら詩世界を組み上げることとドラムではなくラップとライムでリズムを作り上げていくことを両立しており、ラップにおけるミニマリズムの一つの高みに達している。MAVIは時に淡々と、時に不可解で、時に率直であるというボーカルスタイルを採用しており、表現力の多様さに驚かされた。NasとHit-Boyによる『King's Desease III』は相変わらずの横綱相撲。IllmaticもStillmaticも昔のことだと言わんばかりに肩の力が抜けた普段着のような態度はむしろ好ましい。Open Mike Eagle『Component System with the Auto Reverse』は様々な支えを失った者が内面を探求していく旅路のようなアルバム。大変にグッと来ました。
Awich / Queendom
Bonbero / Bandit EP
C.O.S.A. / Cool Kids
FreekoyaBoii & Yvngboi P / F's Uppp 2 Deluxe
ERA / Reaching
eyden / FLESHNESS SZN EP
OMSB / ALONE
Watson / FR FR
JP THE WAVY & Bankroll Got It / Bankroll Wavy EP
PUNPEE / Return of The Sofakingdom EP
もはや一段上のレベルに到達した感(日本語ラップ村外のリスナーにも届いている、という意味です)があるのはAwich、OMSB、C.O.S.A.がそれぞれリリースしたアルバム。サウンドの充実と細部における隙の無さも含め、今年はこの3枚の完成度が群を抜いていたと思う(『LASTBBOYOMSB』は間違いなく今年のベスト・ソング)。
一方でずば抜けたリズム感とラップセンスを持った若いMCたちがまとまった作品を出してくれたのも大いに耳を楽しませてくれた。重低音だけで構成されたスカスカのトラックの空いたスペースにここぞというタイミングでパンチラインを叩き込んでいくBonbero、肩の力が抜けたスタイルが本物っぽいeydenからは新しい波を感じることが出来た。とはいえ、2013年がKOHHのそれであったのと同様に、今年はWatsonの年だったと記憶されることになるだろう。ライム・オリエンテッドでありながら極めて映像的なストーリーテリング、ユーモアとペーソス、ボースティングと内省……。相反する要素をリリックとして組み上げていくことが出来る、素晴らしいラッパーだと思う。
FreekoyaBoii & Yvngboi P『F's Uppp 2 Deluxe』は前年リリースされたEPのデラックス盤だがとてもよく聞いた。このUSギャングスタ感は一体どこから出てくるんだろうか?ERA『Reaching』は年末の嬉しいプレゼント。ドリーミーなトラック、都市生活者の視点、現実逃避的でありながらエブリデイ・ストラグルなスタンスは『3WORDS MY WORLD』からまったく変わっていない。JP THE WAVY & Bankroll Got It『Bankroll Wavy EP』はラップという共通言語で世界中にコネクトしていく姿が実に刺激的だった。今年唯一ワンマンに行ったラッパーはPUNPEEでした。EPも当然素晴らしかった。
The 1975 / Beign Funny in a Foreign Language
Beyonce / RENAISSANCE
Big Thief / Dragon New Warm Mountain I Believe in You
Charles Stepney / Step on Step
FKA twigs / CAPRISONGS
Jennifer Lovelss / Around The World
Makaya McCraven / In These Times
Sam Gendel / SUPERSTORE
Sudan Archives / Natural Brown Prom Queen
Whatever The Weather / Whatever The Weather
宇多田ヒカル / BAD モード
非常に最大公約数的なリストになってしまったが、2022年、自分の気分に最も合致していたのはThe 1975の喜ばしいポップ・ミュージックとBig Thiefの親密なフォークだった。Beyonceの『RENAISSANCE』は「You said you outside but you ain't that outside」という詩に強く心を打たれた。Charles Stepny『Step on Step』及びJennifer Lovelss『Around The World』はサウンドの好みで言えばベスト・オブ・ベスト。FKA twigsはキャリア屈指の傑作を繰り出してくれた。mixtapeというフォーマットは才能あるミュージシャンの武装を解除し、率直さを引き出すものである。Sam Gendel『Superstore』も未発表曲集だけあってとっ散らかったおもしろさ。Makaya McCravenのエクレクティックな響き。Sudan Archivesは大好きなStones Throwサウンド(オーセンティックだけど野心的で新しい)を大胆に更新してくれて大変ありがたい気持ちで聞けた。Whatever The Weatherは昔のWARPのような響きが聞き取れるのがウレシイ。宇多田ヒカルも素晴らしかったですね。
2022年ベスト映画
なんと、今年は年間100本を下回る本数しか見ることが出来なかった。映画をまじめに見始めてから初めてである。かと言ってドラマやアニメを意識的にビンジ・ウォッチングすることも出来ていないため、あろうことかBetter Call Saulも未だシーズン3の途中である。
念願のJohn Ford特集は志半ばで力尽きてしまったし、Chantal Akermanもほとんど見れていない。その他数々の新作/話題作をほとんど見ることが出来なかった。Charles Burnettの『Killer of Sheep』『To Sleep with Anger』を見ることが出来たのが救いか。反省の気持ちを込めた新旧5本(劇場で観たものに限る)。語れることはありません……。
Asghar Farhādī / A Hero(英雄の証明)
Clint Eastwood / Cry Macho(クライ・マッチョ)
Mike Mills / C'mon C'mon(カモン・カモン)
Tom McCarthy / Stillwater(スティルウォーター)
Wes Anderson / The French Dispatch(ザ・フレンチ・ディスパッチ)
Chantal Akerman / Les rendez-vous d'Anna(アンナの出会い)
Charles Burnett / Killer of Sheep(キラー・オブ・シープ)
Elmer Clifton / Not Wanted(望まれざる者)
John Ford / JUDGE PRIEST(プリースト判事)
Jonathan Demme / Melvin & Howard(メルヴィンとハワード)
2023年に向けて
今年の目標は「人に親切に」「やるべきことはやる」です。よろしくお願いいたします。
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