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天然菌と自然栽培

(今回は夫のゆうじさんの文章です)

2018年初冬。
鳥取で味噌屋を始めた藤原くん(藤原味噌こうじ店)からメールが来た。

概略すると、

“鳥取の若桜に移住して味噌屋を始めた。
天然醸造にこだわり、原料になるべく農薬や肥料を使わない。
自然の流れに任せながら味噌を作っていきたい。
岡山出身なので岡山にちなんだ味噌を作りたく、また自然栽培を実践している蒜山耕藝のお米や大豆を買わせて頂きたい“と。

そういう若者が出てきたことに嬉しさを覚えつつ、残念ながら大豆は生産量が少ないためお断りさせて頂いたが、米糀用にお米は30kgだけ買って頂いた。

正直に告白すると、味噌屋として販売用の味噌を作るのにうちのお米では業として成り立たせるのは難しいだろうと思った。
一般のお米と比較するとどうしても価格が高くなってしまうから。
そんな高いお味噌、購入してくれるお客様はそんなに多くないだろうと。
試しに作ってもらえるけど、継続的には難しいだろうなと勝手に思っていた。

しかし、その心配は大きく外れた。

2020年産のお米もかなりの量を米糀用として購入してもらったが、それでもまだ足りないという状況になった。驚きである。

そしてさらに驚くべきことに彼は天然の麹菌をお米に降ろすことに成功しているということ!!
自分にとって自然栽培と天然菌というのはセットだった。

震災後に蒜山に移住した時もパン屋タルマーリーと共に自然栽培と天然菌で一つの形を作りたいと話していたし、実際にタルマーリーも天然の麹菌を採取し、そこからたくさんの学びを頂いていた。
もちろん天然菌の難しさも含めて。
彼らは今は智頭の土地でビールにも取り組み、そのエネルギーは一向に衰えず尊敬して止まない。
積極的に自然栽培の作物を正当な価格で購入し、パンの価格に反映し、多くの人に求められている。
本当にすごいことだと思う。

タルマーリーから天然菌の奥深さを学ばさせてもらっていたこともあり、自分としては興味はありつつも何もアクションを起こせずにいたけど、そんな中で藤原君が蒜山耕藝のお米に麹菌を降ろしてみたいと言い、見事に少量だけど初年度から麹菌の採種に成功したのだ。

藤原くんは2019年はさらに多くの麹菌を採取することができ、大学での有毒性についての検査も終え、天然菌での味噌や米糀などの販売もしている。
麹菌を蒜山耕藝のお米に降ろしてくれていることも大変嬉しいのだか、彼はブログで見えない菌と穀物を通してコミュニケーションを取ることで自然の本質に触れようとし、それを言葉にしてくれていることがとても学びになる。

自然栽培も天然菌も今だに未知の世界という感じがある。

なぜ作物は肥料が無くても育つのか説明できなし、天然菌に至っては天然酵母はすでに市民権は得ているけれど、麹菌に至っては導入する意義を見いだすことさえ難しいと思う。
菌やウイルスなど目に見えない存在は時として非常に恐れられるし、実際に人にとって有毒な作用を持つものも多い。
自然栽培とは違って、発酵食品は人の手や作業が介在する余地が多いから出来上がった物が必ず美味しかったりするわけではないかもしれない。

天然菌を使って生業にすることは航海図を持たないで大海原に漕ぎ出すようなことかもしれないけど、藤原君の天然菌と自然栽培で醸した味噌を食べると、水平線の向こうには新大陸があることは間違いないと思えてくる。

このブルーオーシャンの先に自然と調和する世界があることを願いながらその旅路に必要な糧を今年もたくさん作ろうと思う。


高谷裕治



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