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★★★『ダンス・ダンス・ダンス』村上春樹

村上春樹、「鼠&羊」シリーズ最終作。

以下所感。

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同じような描写を何度も何度も繰り返しなぞる(例えばキキが出る映画、ドルフィンホテルで羊男に会う過程)ことで、主人公視点でのぐるぐるした、錯綜した考えに浸れるし、それぞれの繰り返しにおける僅かな違い、進歩が感じ取れる。

これを書くのは相当難易度が高そう。しかし一切の違和感を感じずに読める上、この混乱した感じが物語全体に「繋がっている」という印象を与えていて、今までの「鼠&羊」シリーズ作品よりも文筆がかなり優れているように感じる。

このシリーズの4冊においては、一作毎にどんどん話が面白く、広がりを持ってきたように感じる。なんかストレートな面白さじゃなくて、屈折した、曖昧さを伴うような面白さ。

ラストはふわっとしていて(何も解決しない!)拍子抜けしたが、そこに至るまでの過程はとても楽しめた。前半から中盤までのキレは目を見張るものがあったが、後半以降はちょっとくどくなって間延びする感じ。

ただこれ、とても村上春樹っぽい小説で、色濃く作風を反映している印象。例えば表現の精緻さ、豊富さ、適切さ。流れるような会話とクセの強さ、ファンタジー色、個人小説のような気質。

グルグルした感情の煮え切らなさが残るが、それが逆に余韻の大きさに繋がっている。これも意図なのか。

ありがとうございます!