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眼差しの秘密|映画『しあわせの隠れ場所』

リー・アンのような人になりたいと思った。

アメリカンフットボールでレフトタックルというポジションの地位を確立したマイケル・オアーというスター選手がいる。

2009年に公開された『しあわせの隠れ場所』(原題:THE BLIND SIDE)は、そんなマイケル・オアーの実話を基にした物語だけど、映画で描かれていたのは彼に出会って人生が変わった家族の話だと思う。

この家族のユーモアに笑い、リーの底知れぬ大きな大きな愛情に結局泣かされて、この映画から3つのまなざしの秘密を見つけた。

『しあわせの隠れ場所』
(監督:ジョン・リー・ハンコック、主演:サンドラ・ブロック/2009年)


人生を変えるほどの出会いを

リー・アンは4人家族で、85店舗を経営する実業家の夫と、可愛い娘と息子がいた。裕福でなに不自由のない生活。一方、メンフィスの中でも最も貧しい地域でホームレスのように暮らすマイケルは、まともな教育を受けたことがなかった。ただ体は大きく運動神経が図抜けていた。

ある時、リー・アンは雨の中寒そうに歩くマイケルを見かける。ここからこの家族とマイケル・オアーの物語が始まってゆく。この出会いのシーンに、リー・アンの慈愛と決断力の早さに胸打たれる。

閉まったはずの体育館に向かうマイケルを、彼女は一度見送るのだけどマイケルの様子が頭を遮って離れなくなっていた。結局、彼を自宅へ迎え入れることにした彼女は、自分がとった行動が正しいのか、その答えもわからないまま帰る場所のない少年を見過ごすことができなかった。

“あれは、何かを決めた時の顔だ”


世間の冷たい視線の中で信念を貫く

セレブなママ友との食事会。彼女のチャーミングなところは、いい人間だけどいい人すぎないところだ。マイケルの苦労を知るリー・アンは、彼を蔑む偏見を含んだ友人に、毅然とした態度で接する。


彼女だけでなく、リー・アンの家族も全員魅力的。彼女を伴侶に選んだ夫ショーンは、ユーモアがあって器が大きく行動力のある人。彼女のとる行動を誰よりも理解している。なんていい男なの。


息子のSJはおしゃべりでちゃっかりしているけれど、マイケルの善良な精神を一番最初に見抜き、ニュートラルな視線で偏見など微塵も持たず彼と接した最初の人かもしれない。そして長女のコリンズは、リー・アンの娘らしく周りからどんな目を向けられても人として正しいことが出来る人。

家族全員が、他者にオープンでニュートラルな視点をもち、他者に敬意を払っている姿は、胸を熱くする。


子どもの選択を信じる強さ

マイケルは誰よりも優しかった。

大きな体で不運な生活を強いられていたけど闘争心はなく平和主義者だ。教育を受けていなかったので最初は文字が書けなかったけれど、賢くて心が広い。そんなマイケルの存在によって、家族の毎日はこれまで以上に豊かになり絆は強くなってゆく。

物語の終盤、努力の末にミシシッピ大学に入った。それはリー・アンとショーンの卒業した学校だった。その選択に、アメリカンフットボールの才能を見出されたマイケルは世間から非難をされた。

画一的な心ない大人たちの言葉のせいで、マイケルはこの家族を信じられなくなって家に帰ってこなかった。その時、リー・アンは自問自答する。自分は彼の選択を強制してなかったか。

逃げ出したマイケルを探して、リー・アンが掛ける言葉に、子供の選択を誰よりも信じることの大切さを教えられるようだった。

死角。本作では自分たちがいまいる位置や立場、価値観の反対側をうまくみせて物語を展開させている。

自分が今いる場所がいつだって正しいとは限らない。そんなことを思いながら、少しでもリー・アンのように優しさを持ったまなざしと、毅然とした態度をもって行動できたら。

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