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【18】発刊前トークイベントで気づいた、仲本さんの「同じ方を向く」構図づくり

6月17日は、『アフリカで、バッグの会社はじめました――“寄り道多め”仲本千津の進んできた道』の主人公である仲本さんの拠点「RICCI EVERYDAY the hill」で、本書の発刊記念トークイベントでした。


まだ影も形もない本の発刊記念


といっても、本はまだ絶賛、印刷・製本中。お客様に買っていただける本がないどころか、出版社の人も、わたしも仲本さんも、完成した本は見ていない。あ、トップ画像で仲本さんが手にしているのは、カバーの色校正を別の本に巻いた「ダミー」です。

そんなときに「刊行記念イベント」だなんて、わたしの中では前代未聞でしたが、そこを突破するのが仲本さんの実行力。ウガンダと日本を行き来している仲本さんは、ウガンダ行きを間近に控え、この週末を逃すと、刊行にあわせたリアルイベントは当分、開催できません。

「やりましょう! ウガンダからの商品がいろんなトラブルで届かず、予告通りにリリースできないことも珍しくないRICCI EVERYDAYですから、まだ本ができていない段階でイベントを開催しても、きっとお客様が来てくださると思います」

と、仲本さん。

そういえば、去年の新しいショールームお披露目イベントのときも、ショールームはほぼがらんどうだったわ……。什器が何も入ってなくて、ゆったりとしたスペースをうまく使った楽しげなディスプレイが、それはそれでおしゃれでよかった。

そこからはわたしも、「まだ本がないのに話を聞きに来ていただくなんてちょっと申し訳ないような」という気持ちから、「未完成の今だからこそのわくわくを一緒に味わっていただける貴重な機会にしよう」と切り替わりました。

当日は、昼過ぎ13時半からの1時間半と、15時半からの1時間半の2回制。予約受付を開始したらすぐに満席になっていました。仲本さんの人気を実感します。

ショールームはいまや、壁一面の棚や大きなデスク、ソファが入り、お客様を6人迎え入れるのが精いっぱいの広さ。だからこそ、ひとりひとりの目を見て、ご反応を伺いながらお話ができる、という良さがあります。

仲本さん+わたし+お客様6名のこぢんまりしたトークイベント。こういうの大好きです。
写真=RICCI EVERYDAY提供

この本について人前でお話をするのが初めてなので、話があちこち行ってしまったり、同じことを繰り返してしまったりと拙いトークになりましたが、皆さん、うんうんうなずきながら聞いてくださって、その空気に支えられながら話を進めることができました。”場”って、話す人だけが作るものじゃなくて、話す人と聞く人の共同作業でつくられていくものなんですよね。

主人公と書き手が対峙せず、ともに「読者」のほうを向く

お客様とやりとりしながらお話しするなかで、発見することも多々ありました。今回はそのうちの一つをお話しします。

仲本さんとの原稿のやりとりはどんな風に進んだか、という話をしていたとき。このマガジンの第11回(主人公に、原稿上で「追加取材」)で書いたように、仲本さんは、原稿校正の際にも実に「器の大きい」人でした。

「こう書いてほしかったのに」という要望がほとんどないのです。ファクトや時系列、因果関係の勘違いはもちろんちゃんと指摘してくれる。でも、「こうでないといけない」「こうしてほしい」という言い方を全然しない。

イベントの場でわたしは校正時を振り返りつつ、「わたしだったら絶対、自分がどう描かれていてほしいか、こと細かに要望出しちゃうと思うんですよね」とつぶやいたんです。そうしたら仲本さんは、

「どんな風に読者に伝えるのがいいかをわかっているのは、プロである江口さんですから」

と言うのです。

そうか! そう考えてくれてたのか。

仲本さんは、「描かれている自分」と「書き手の江口」を正面で対峙させる形で見ていなかった。「主人公と書き手がともに読者のほうを向く」構図で、原稿をチェックしてくれていたんです。

ああ、これは仲本さんの強さだな。

仲本さんはウガンダでも、決してマイクロマネジメントはしません。たぶん日本でもやっていない。「あなたに任せる」と言ったら、もう任せるんです。あなたはプロなのだから。あるいは、あなたはそれを私よりもよく知っているし、私よりもうまくできるのだから。と。

なんでも自分でやろうとしないで、なんでも自分基準で質をコントロールしようとしないで、部下や仲間を信じて任せたほうがいい。誰だってそれは知ってます。

でも、「相手をほとんど100%信じて任せる」って、そうそうできないものじゃないですか? ウガンダのような、日本と価値観が違うところではなおさら。仲本さんにとって、わたしだって異文化の人だったはずです。

でも仲本さんはウガンダで工房の女性たちにものづくりの現場を任せているのと同じように、この本においても、描き方は「プロ」に任せた。そして常に、「自分自身」よりも「届けたい相手」を見ていた。

仲本さんのこのスタンスのおかげで、わたしは仲本さんと対面で綱引きをするのではなく、机の同じ側に座り、机の向こうの読者のことを考えて本づくりができた。

本を書き終わった後だけど、仲本さんのすごさってここにもあるな、と気付かされた瞬間でした。作っているときには言語化して理解していなかったことです。

こういうのってトークイベントで、お客さまとわたしと仲本さんの対話の中で初めて掘り出されたりするんですよね。よかったなあ、お客さまと対話できるイベントやらせてもらって。

無料イベントなのに、仲本家はお父さんお母さん妹さんも総出でお客様にコーヒーやお茶を淹れてくださり、帰り際にはひとりひとつずつぬいぐるみのお土産まで用意されている贅沢さ。
※本稿の写真はすべてRICCI EVERYDAY提供です。

(【18】終わり)



『アフリカで、バッグの会社はじめました――“寄り道多め”仲本千津の進んできた道』
著者:江口絵理
定価:1,500円+税=1,650円
出版社:さ・え・ら書房
刊行:2023年6月下旬

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