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岡真理 アラブ、祈りとしての文学(ブックリスト)

明治大学文学部に英作家作品研究という授業があった。T. E. ロレンス(いわゆるアラビアのロレンス)の研究をしてきた塚田先生が担当されていて、当時から本書の内容も取り上げられていたのだが、ずっと読む機会を持てずにいた。

昨年の夏だった。友人と、タイ料理を食べたあと「プアン」というタイ映画を観る約束をしていた。その前に本を物色したかったので待ち合わせは新宿の紀伊国屋書店にしてもらった。
紀伊國屋に行くのは久しぶりだった。というか、新宿に行くこと自体が久しぶりだった。二階の窓側にフェア棚があって、そこで目があったのが岡真理『アラブ、祈りとしての文学』だった。学生時代からの因縁を感じた私は、迷わずこの本を手に取った。初版は2008年。2015年に新装版が出ている。


第一章「小説、この無能なものたち」を読んで、私はこれまで本書を読まなかったことを激しく後悔することになる。この書物の重要性は、小説何十冊にも匹敵する。

少なくとも文学に興味をもち、中東情勢にも興味をもったからこそ大学でも授業に出席していた。第一次大戦でアラブ地域、アラブ諸国がイギリスにされてきたことと、そこから今まで解決を見ないパレスチナ問題。ここ日本において、9.11以降のあらゆる事件、戦争がいかにアメリカの文脈でしか語られてこなかったか。
大学で私が自分の畑に撒いた種に、長い間水をやらないままで来てしまったなという後悔だった。それでも10年以上を経て、カラカラに干からびていた土から芽が出たことは紛れもない事実だ。

小説を読むことは、他者の生を自らの経験として生きることだ。見知らぬ土地、会ったこともない人々が、いつしか親しい存在へと変わる。小説を読むことで世界と私の関係性が変わるのだ。それは、世界のありようを変えるささやかな、しかし大切な一歩となる。世界に記憶されることのない小さき人々の尊厳を想い、文学は祈りになる。

以下は、私のためのブックリスト。各章の脚注をもとに、日本語で入手できる書籍(雑誌は原則除き、単行本を中心に)をリスト化した。


1 小説、この無能なものたち

サルトル『文学は何ができるか』

スーザン・ソンタグ『良心の領界』

プリーモ・レーヴィ『アウシュヴィッツは終わらない—あるイタリア人生存者の考察』

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『イメージ、それでもなお—アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真』

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』


2 数に抗して

アーディラ・ラーイディ『シャヒード、100の命―パレスチナで生きて死ぬこと』

I・カツェネルソン『滅ぼされたユダヤの民の歌』

石原吉郎『望郷と海』


3 イメージ、それでもなお

【映画】広河隆一監督『パレスチナ1948・Nakba』

【映画】スティーヴン・スピルバーグ監督『シンドラーのリスト』

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【映画】ロマン・ポランスキー監督『戦場のピアニスト』

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【映画】ジョージ・スティーヴンス監督『アンネの日記』

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【映画】オットー・ブレンジャー監督『栄光への脱出』

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09PVPM7S4/ref=atv_dp_share_cu_r

【映画】マーク・ジョナサン・ハリス監督『祖国へ—ホロコースト後のユダヤ人』


4 ナクバの記憶

ガッサーン・カナファーニー「ラムレの証言」『前夜』三号

ガッサーン・カナファーニー「悲しいオレンジの実る土地」『前夜』八号

ガッサーン・カナファーニー「まだ幼かった、あの日」『前夜』四号

ヴァルター・ベンヤミン「歴史の概念について」『ベンヤミン・コレクションI』


5 異郷ゴルバ幻影ファンタズム

アッ=タイーブ・サーレフ「北へ還りゆく時」『現代アラブ小説全集8』

ジャック・デリダ、サファー・ファティ『言葉を撮る—デリダ/映画/自伝』

ガーダ・サンマーン「猫の首を刎ねる」世界文学全集 第三集『短編コレクションI』(※既出)


6 ポストコロニアル・モンスター

ユースフ・イドリース「黒い警官」『集英社ギャラリー[世界の文学]20 中国・アジア・アフリカ』

フランツ・ファノン『地に呪われたるもの』

『ナギーブ・マフフーズ短編集』


7 背教の書物

ユースフ・イドリース「肉の家」『集英社ギャラリー[世界の文学]20 中国・アジア・アフリカ』(※既出)

ユースフ・イドリース『ハラーム[禁忌]』

ジェラール・ジュネット『物語のディスクール—方法論の試み』


8 大地に秘められたもの

ユースフ・イドリース『ハラーム[禁忌]』(※既出)


9 コンスタンティーヌ、あるいは恋する虜

カテブ・ヤシーヌ『ネジュマ』

ジャン・ジュネ『恋する虜—パレスチナへの旅』


10 アッラーとチョコレート

(脚注なし)


11 越境の夢

ナワル・エル・サーダウィ『0度の女—死刑囚フィルダス』

G. C. スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』

ファティマ・メルニーシー『ハーレムの少女ファティマ—モロッコの古都フェズに生まれて』


12 記憶のアラベスク

リア・アブ・エル=アサール『アラブ人でもなくイスラエル人でもなく—平和の架け橋となったパレスチナ人牧師』

エミール・ハビービー『悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事』


13 祖国と裏切り

ガッサーン・カナファーニー「ハイファに戻って」『現代アラブ小説全集7』

※岡真理訳は『前夜』九〜十二号にて


14 ネイションの彼岸

ジャン・ジュネ『シャティーラの四時間』


15 非国民の共同体

(脚注なし)

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