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不妊治療開始から授かるまでの記録

わたしは過ぎるとなんでも忘れるタイプなので、タイミング法で妊娠するまでの記録を残しておこうと思う。

2022年4月

不妊治療専門の外来を探し、評判のよさそうなクリニックに電話。予約するだけだしと道端で手帳を広げ電話したら、確認するのにものすごく待たされてどうしようかと思った。予約は3ヶ月後から。せっかく通院の決断をしたのに拍子抜けする。ただし、わたしがなかなか妊娠しないことを心配する母には「ちゃんとやってますよー」と言える口実ができた。一歩前進。

子どもを生みたいと積極的には思えないわたしと、わたしを生んだ母の間には溝があるはずで、考え方も生き方も生きている時代もまるで違っているのだからそれは当然だと思う。もしわたしが本気で嫌だと伝えていたら、この関係はもっとギスギスしたものになっていたはずだ。わたしは結構大人だから、親のあしらいもうまいのだ。
とはいえ家族のことは愛している。だからこそ、お互いに嫌な思いをしすぎないように心掛けるしかない。夫の母は子どもの「こ」の字も口にしない。無言の圧力も一切ない。本音はどうかわからないけど、ありがたかった。

2022年5月

6月の初診に向けて、必要な書類を揃えていく。婚姻(パートナー)関係にあることを証明するための戸籍謄本が必要なので、本籍地に郵送で依頼する。
結婚するときにどちらの姓を名乗るかで揉めた。いや、正確には揉めていない。わたしが「妻の姓も選べるんだよ。ほら、チェック欄が」と婚姻届を指差すとあえなく断られたので、わたしはあっさり夫の姓でよしとしたのだ。その後何年かはしつこく言い続けたけれど、いい加減どちらでもよくなってきた。慣れとは恐ろしいものだ。
夫曰く、夫婦別姓の議論の進展や事実婚を選ぶ人が増えてきているとはいえ【夫の姓を名乗る法律婚】が日本ではまだまだ一般的なので、そこから逸脱すると色々面倒ごとが起きるリスクを取りたくないということだった。その気持ちも理解できないではないが、わたしは自分の尊厳のためならラディカリストになってもいいと思っている。
というか、日本にいるからこういう悩みを抱えるのだ。日本の制度がこうなっているから悩む、それだけだ。家族になるということは同じ姓を名乗ることではないとわたしは思う。

2022年6月

夫と連れ立ってクリニックへ。待ち合いには男性の姿も2、3見える。この人たち全員、子どもを望みながら願いが果たせずにいるんだと思うと悲しい気持ちにもなり、同士ですねという気持ちにもなり、なかなか不思議な感覚。

はじめにわたしだけが呼ばれ、看護師と面談。プライベートなことは夫婦であっても守られること(妊娠歴のこととかだと思う)を伝えられたりと、常識なのかもしれないが配慮を感じる。やはり妊娠・出産となれば心身への負担は女性のほうが圧倒的にかかってくるのだなということを改めて思った。
ここにくるまでの経緯を詳しく聞かれ、こちらを安心させてくれるような言葉も掛けられる。
基礎体温つけることと、葉酸サプリを真面目に飲むこと。子宮がん検診を前回定期検診のタイミングで受けられていなかったので、次回は市検診のはがきを持ってくるように言われる。

医師の診察では今年4月からの保険診療についての説明があり、治療計画書についての説明がある。保険適用になって以降は「診療計画書」がないとタイミング(排卵日にあわせてセックスをすること)指導すらできないんですと、医師もやりにくさがあるんだということが伺われた。ただ次回の診察ではフーナーテストを行うので、タイミングを取ってきてくださいと指示がある。
初期のスクリーニング検査のため、採血。

検査項目については、女性はHBS抗原、HCV抗原、HIV、風疹抗体、梅毒、クラミジア抗体、HbAlc、甲状腺ホルモン、AMH(卵巣予備能)。オプショナルで抗精子抗体も追加した。
男性はHBS抗原、HCV抗原、HIV、梅毒、クラミジア抗体。精液検査の説明もあった。

翌週、フーナーテスト。
フーナーテストとは性交後の子宮頸管という部位にある粘液を採取し、精子の数やその運動具合を観察する検査のこと。頸管粘液は排卵がおこると粘度が弱まり、サラサラの粘液中を精子が泳いでいきやすいとか、そういうのをチェックするものらしかった(0.1mlの液が何センチ伸びるかという数値:牽引性と呼んでいるみたい)。今回の結果はあまりよくなかった。
前回の採血結果はすべてマイナスだった。子宮年齢は32歳。実年齢とほぼ同一。子宮頸がん検診も受けた。

2022年7月

上旬、内診。右の卵巣から排卵あり。妊娠せず生理がきたら、3日目までに受診せよとの指示。
夫の採血結果、わたしの子宮頸がん検診、いずれも異常なし。診療計画書に署名。黄体ホルモンが出ているかをチェックするために採血。

夫の精液検査の成績は良好。不妊の原因はおそらくわたしにあるんだろうなと思う。

中旬、生理がくる。まだクリニック通いを始めたばかりなので落ち込むこともなく、診察予約。
またも採血。前回の採血結果は、黄体ホルモンは正常値かつ基準値内。不妊の原因の可能性が一つずつ潰されていく。次回は卵管造影検査を行います、痛みを強く感じる方もいらっしゃいますとの予告あり。やや不安だが、わたしは比較的痛みに対して鈍いような気がするので楽観的に捉える。

下旬、卵管造影検査。卵管の詰まりがないかを調べる検査で、リピオドールという造影剤を子宮内に注入しレントゲンを撮る。生理痛の鋭いような痛みを感じたが、がまんできないほどではなかった。でも嫌な痛み。
造影剤1本ではうまく映らなかったようで、2本目を入れられた(多分)。造影剤は油性らしく、下着につかないようにナプキンを当てて帰る。

卵管造影検査の翌日、腹部X線撮影。昨日注入した造影剤が、子宮内に分散しているかどうかをチェックする。結果は良好。これで卵管の詰まりは不妊の原因から除外された。ちなみにこの検査後半年くらいは、妊娠の可能性がアップするらしい。今後に期待。
フーナーテスト2回目の結果はNG。排卵までまだ4〜5日あるので、タイミング的によい結果が出ないのは仕方ないとのこと。

2022年8月

中旬、生理がくる。まだまだ焦りはない。医師から生理周期の長さを指摘される。以前は29日周期だと思っていたが、基礎体温をつけ始めてからの周期は31〜32日で、確かに少し長めな気がする。
排卵誘発剤の使用を打診される。メリットは妊娠率の向上と、保険診療で通常は月1回のエコーが3回まで増やせるということ。デメリットは多胎妊娠。生む頃にはもう34歳だし、きょうだいはいたほうがいいと考えているので、ふたごも悪くないかなと思いつつ、身体がつらくなるのは避けたいと思う。
不妊治療をしている以上、どんどんステップアップした方が目的に近づくスピードは上がると思い、誘発剤を処方してもらう。セキソビットという弱い薬と、漢方薬。

下旬、エコーにて卵胞確認。右の卵巣から排卵しており、黄体が形成されている。

2022年9月

中旬、生理がくる。きっかり31日周期だ。クロミッドという排卵誘発剤を処方される。

下旬、エコーにて卵胞確認。あと3日くらいで排卵がありますとのこと(つまりタイミングを取ってくださいねということ)。子宮内膜の状態はいい感じですよと医師に励まされる。
皮下注射をおなかに打つ。ちょっと痛い。これを自分で打つ人もいるんだもんね、打たれるのはどうってことないけど、自ら身体に針を刺すのは想像するだけで怖い。多分、治療のステップが進んでいくとやらなきゃならないのだと想像。

2022年10月

上旬、エコーにて排卵確認。左の卵巣から排卵していた。

中旬、生理がくる。いい加減ガッカリ感も強まってきた。これといった不妊の原因も見つかっていない。相変わらず好きなお酒は飲んでいるし、生活も不規則なので少しだけ自分を責める。ただ、あまりストイックにやりすぎると嫌になると思ったので自分に制限をかけたり、我慢したりしないことにしていた。
自分がガッカリしているせいか、医師も少し焦れているように感じてしまう。次のステップに早く進みたい希望はあるかと聞かれ、家で夫とも話しますと返答。クロミッド(排卵誘発剤)と漢方を処方される。

下旬、フーナーテスト3回目。やはり結果が悪く、ちょっと傷つく。これまでの3回とも頚管粘液の粘りが強めなので、精子が進入できない。タイミングを取り始めて3〜4周期になる。改めて人工授精へのステップアップをすすめられる。
エコーでは卵巣内に卵子が2個見つかる。もしかしてふたごのチャンスか。

夫の精子は正常で、わたしの排卵やホルモン分泌にも問題なく、精子の進入だけがネックなら、確かに人工授精に進むのがよさそうだと思う。人工授精は手軽な部類の治療だ。

2022年11月

上旬、エコーで排卵確認。卵子は2個。

中旬、夫が発熱。わたしも自宅待機になりテレワーク看病生活がスタート。翌日の勤務後、薬局に抗原検査キットを買いに出かける。生理が遅れ始めている。妊娠検査薬も購入。
夫はきれいに、くっきりと陽性。頭痛の治療のために処方されている痛み止めを服用。

夫の発熱から4日後の夜、悪寒がする。寝室とトイレを分けていたので逃げ切れるかと思ったが、やはり発症してしまった。翌日、抗原検査キットは陽性。妊娠検査薬も陽性。どちらも線がくっきり出て、陽性をこれでもかと主張している。
夫は喜んでいるが、ぬか喜びは怖いので慎重に受け止めようと諭す。
高熱がつらい。アセトアミノフェンを服用。

下旬、コロナ寛解後に受診。尿検査をして、エコーで胎のう(赤ちゃんの袋)を確認。うっすら心拍もわかると言われる。6週1日、妊娠確定。おめでとう、わたし。おめでとう、夫。
それにしても、人工授精へのステップアップを決心した矢先の妊娠だったのでほっとした。でも、まだまだほっとできない。

2022年12月

妊娠確定から1週間後、エコー。心拍がしっかりと確認できる。音を聴かせてもらい、感動する。

さらに1週間後、臨月が近い友人と1年以上ぶりに再会。お互いの妊娠までの道のりを話し合う。
翌日、8週1日。エコーで心拍も順調。この日でクリニックは卒業する。先生や看護師とのやりとりは驚くほどあっさり。内診台に乗りながら、診察室の会話が聞こえてきたのだが、あれはたぶん大変な治療をしてやっと授かった患者さんの涙声だった。
わたしは彼女に比べたらあまり苦労せずに授かることができた。これは運がよかったとしか言いようがない。わたしもこれから自分のお腹で赤ちゃんを育てる。無事に育ちますように。

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