Situated Action - デザイナーがフィールドに出ていくようになったきっかけ - HCIモダンセオリー

インタラクションデザイン修士、2セメスター目です。今回はHCI基礎のクラスをとっており、その中でHCIのセオリーを色々と読んでいます。少しづつまとめていこうと思います。

教科書はYvonne Rogers "HCI Theory"。私は大学からPDFが支給されましたが、探すと無料PDFがあります。クラシカルセオリー、モダンセオリー、コンテンポラリーセオリーと時代を追っていろいろなHCIセオリーについて書かれています。

今回はSituated Action。モダンセオリーの一つです。デザイナーである私たちが、デザイン作業に入る前にフィールドへ出て行ってリサーチをするようになったきっかけ、とも言えるアプローチです。

まだ私も学習中で、理解の過程の途中ですので、間違いがあるかもしれません。あしからず。

Situated Action

日本語ではなんと呼ぶんでしょうかこれ(日本語でHCIを学んでいないので日本のHCI界ではなんと呼ばれているのかわかりません...)。これについて書かれたLucy Suchman(1987)による『Plans and Situated Action』という本がHCI界で大きな反響をよび、1980年代後半から1990年代初めにかけてHCIに大きく影響を与えたようです。

背景

1980年代前半までHCIで主流とされていたのは、認知情報処理モデルでした。人間の頭の中で起こる認知のモデルに基づいて、システムを作っていたわけです。しかし、だんだんと「頭の中ばかりじゃなくて周りの環境とかコンテキストとかすごく重要なんじゃ?」ということに気付き、1980年代後半になるといくつかの新しいセオリーやアプローチが生まれてきました。その中の一つが、Situated Actionです。

文化人類学・民族学的アプローチ

Lucy Schmanはコンピュータサイエンスの人ではなく、文化人類学者です。ですので彼女が着目したのは、人間社会でした。

Situated Actionアプローチは、テクノロジーが様々なコンテキストをもった人々によってどのように使われているか、というのを明らかにします。多くの場合「どのように使われているか」は「想定された使われ方」とかなり違っています。このギャップを明らかにするための方法として、民族学的なアプローチ(観察、インタビュー、ビデオ、メモ等のを駆使したリサーチ)をとります。現在UXを学ぶと最初に学ぶリサーチ方法ですね。

テクノロジーの意図した通りに人は動かない

Schmanの初期のリサーチ(1983)では、オフィスで実際に行われているプロセスと、オフィスで使われているテクノロジーの設計に大きなギャップがあることを明らかにしました。簡単にいうと、人々は、テクノロジーのデザイン意図とは違った行動をとっているということです。Schemanはデザイナーの方がシステムをデザインするのには向いている(ただし実際に人がどのように仕事をしているのかをきちんと理解した上で)、と言っています。

Situated Actionアプローチによって、人々はコンテキストによって、元々頭の中に描いていたプランを変えることがよくあることが明らかになりました。自分の考えや過去の経験などから、現在目の前にあるタスクに対処するのです。

こうやって書いてみると、なんだかものすごく当たり前のことのような感じがします。物事はいつも計画通りにはいかず、自分の持っている知識を駆使してなんとか乗り越えようとするものです。

批判とそれに対する改善案

もちろん批判も出ました。Nardi (1996)などによる、このアプローチでいくと、対象があまりに特定のコンテキストに頼ったものになり、一般化するのが難しいのでは、という批判です。

それに対し、Hughesら (1997)が、民族学的な発見を一般化するためのフレームワークを提案しました。これはフィールドワークとそれを基にしたデザイン的な意思決定の橋渡をすることを目指したものでした。

デザイナーがデザイン課題と懸念について深く考えることによって、なぜそのソリューションがいいのか、ということをきちんと意味付けできることを目的として、以下の3つの角度から論じています。

“Distributed Coordination”
アクティビティパターンとして処理されるタスク、例えば仕事の分割。

“plans and procedures”
プロジェクトプランやスケジュール、職務内容と言った、Distributed Coordinationに対する組織的なサポート。

“awareness of work”
仕事をしていることの可視化。

HCIにとってどんなインパクトがあったのか

Situated ActionはHCIプラクティス大きな影響を与え、SuchemanはHCI界で最もよく引用される著者となりました。Situated Actionアプローチによって、HCIのリサーチ方法が大きく変わり、システム開発やインターフェイスデザイン開発をする時に、コンテキストを中心に据えるようになりました。今私たちがUXを学ぶとまず民族学的手法を学ぶのは、Suchmanのおかげです。また、デザイナーたちにも多くの影響を与え、私たちはよく「コンテクスト」という言葉を使うようになり、多くのデザイナーが、実際のデザインプロポーザルを作る前に、フィールドに出てリサーチをするようになりました。

まとめ

- Situated Actionはそれ以前の認知モデルに偏ったセオリーではカバーできないものを説明するために生まれてきたセオリーの一つ。
- 人はシステムの設計者が意図した通りには動かない、ということを明らかにした。
- 起源は文化人類学や民族学。
- 民族学的リサーチがHCIにおけるデザインプロセスの一部となったきっかけ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?