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#18 雨上がりを急ぐ

8月からずうっと夏風邪をこじらせている。
微熱が出たり咳が出たり治ったりを、繰り返し何度も何度も。
面白いとか思ってるなら今すぐやめた方がいい。
「体調」が変なノリを擦ってスベり続けているのはそろそろ見ていられない。

最近は少し出演をセーブしていたけれど、
イベントに出させていただくことはもちろん
次に踊る振付を考えるのも、基礎を復習するのも
レッスンに行くのも先生につけてもらう稽古も、
1日も無駄にできなくてつい生き急いでしまう。
(会社勤めも同じくらいがむしゃらに
頑張れたらなあと思って、大抵思うだけで終わる)

ーーー

来月に控えたショーでは、バンドの生演奏で
踊らせていただけることになっている。
音楽と語り(!)に合わせてほぼ即興で踊ることに決めているので、パフォーマンスの出来を当日の私に委ねてしまうと
事前準備にできることは少ない。
リハーサルで撮らせてもらった動画を見返して
衣装はどんなのにしようか、
小道具は使うかどうかを考えながら
演目全体のイメージを巡らせていく。

キーワードをもとにイラストを生成してくれる
AIサイトに、演奏から想起したイメージや単語を
思いつくまま羅列してみた。
退廃的な背景に、薔薇の花飾りを身に付けた
物憂げな美女のイラストを3パターン保存する。
(4回目の利用からはGoogleかFacebookに
ログインしないといけないようだった。
なんだか怖くてやめた) 

そのどれもが、1分足らずで描かれた(生成された)とは思えないクオリティ。

だけど、よく見たら指先がありえない方向に
ぐにゃぐにゃ曲がっていたり、
ドレスの下に3本目の腕が生えていたり、
瞳の大きさが左右で違っていたり。
見ているとなんだか背筋がざわざわするような、
「どうしてそうなるの…?」という不完全さが
作品全体を覆っていた。

なんというか、こういう歪な美しさにこそ
本当のところ強く惹かれている。

ーーー

バケツをひっくり返したような大雨が降る朝、
何もかも嫌になりながら駅まで歩いた
帰り道の足取りは軽かった。
踊ってみたい曲が見つかって、振付のアイデアがさながら今朝に見舞われた豪雨のように
脳内でざぶざぶ洪水をおこしていた。

思いついた動きをあれこれ試してみたくて、
家まで待ちきれずにエレベーターの窓ガラスに向かって、首を絞めて自ら息絶えるマイムをする。
そういえば監視カメラがあることに
このとき意識が向いていなかった。住人に見られてたらヤバい女がいると思われただろう。

手も洗わないままで、部屋のエアコンをつけるのもコンビニで買った食材を冷蔵庫にしまうのも
全部もどかしくて、考えるより先に身体を動かしたかった。
私はどうやら踊るとき、右の口角だけでクッと笑う妙な癖がある。
こういうとき鏡の中に見る自分だけは、
それでもなかなかいい顔をするのだった。

パフォーマンスの中で。
私は誰の人生をも生きられるし、どこまでも深く傷付いて、そして何度でも死ねる。

まっすぐ明るいポップチューンや
ベールワークが似合うしっとりした曲、
アラブ楽器特有のメロディやリズムに惹かれて
ベリーダンスを踊ってきた一方で、これまで作ったソロのうち何曲かで私はたびたび
自分の皮膚に爪を立て、頬を平手打ちし、神さまを呪い、薬物のオーバードーズでぶっ倒れた。
あくまで振付として。

叶わない恋を歌った、苦しくて美しい曲を
夢中で何度でも再生する。
恋に灼かれて、最後は舞台上で息絶える。
こんな衣装とヘアメイクで。
こんな登場の仕方で。
…どうだろう。
家はやっぱりのびのび踊るには狭くて、
早くスタジオに入りたいなと思う。

こんなふうに気まぐれに降ってきては
一瞬光って消える喜び。高揚。陶酔。
このためにこそ、肩で息をしながらも
どうにか日常にしがみついていられる。  

豚肉の蒸したやつに山盛りキャベツ。
立ったまま食べながらキッチンで
GAGのコントを観る。
雪町先輩。

「満場一致で、悪性の恋です…」

「一般社会と芸術の狭間で苦しんでいる、あなたが愛おしい…!!!」

これ以上に美しくて、笑えるコントってあるの。


iPhoneで打ったからいつもに増して
とりとめのない日記になってしまった。


最近は、どんなことを考えていますか?

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