#35 せめてものほんとう
何度目かの取材を受けた。ダンサーと企業広報のふたつの仕事について。
どちらも一人前だと言うには程遠くて恥入ることばかりなのだけれど、いっこうに未熟だからこそ語れることがあり、打てば響く人がどこかにはいるはずだと信じるほかない。
就職活動中の学生に向けてメッセージを求められて、会ったこともない不特定多数の若者を思い浮かべながら「あまり思い詰めすぎないでほしい」というようなことを吐露する。
わけもなく焦燥や不安を募らせていた当時の自分にかけてあげたい言葉を。そう思うと言葉はするすると流れ出た。
虚勢の張り合いによって真実は霞み、つねに正しい選択をしなければ未来が指の間から零れていくように思われた日々。
溌剌とした眉目秀麗な男女と美しいキャッチコピーが並ぶ企業の採用サイトと、その水面下でSNSや口コミサイトに渦巻く真偽の知れない情報やだれかの悪意に、当惑しないほうが難しい。
「自分らしさを大切にして、最後まで諦めず頑張ってください!」
どこかで聞いたことがあるような、耳障りの良い応援の言葉が並ぶ「学生へのメッセージ」を読むたび、かえって突き放されたような気分になり落胆していた。
(採用を見据えたインタビュー原稿が色々な大人の思惑によって美しく整えられるのは至極自然なことだと、今ならよく分かる)
力強く励ますことはできないとしても、ほんとうの言葉を。あの頃から綺麗事など聞きたくなかった私なりの誠意だ。
「良くも悪くも、現実はドラマチックではありません。自分の決断に対する納得感も、働き始めてからのやりがいも、淡々と見つけ出すほかないです。
不安に思われるかもしれませんが、逆に言えばそのどちらもが誰にも冒せないあなた自身のものです。
就職活動中は悩みや心配事がつきものですが、尻込みすることなく時には運とご縁とタイミングに身を任せてみる。
そんな軽やかさで就職活動ができることを祈っています」
会ったこともない不特定多数の若者と、若かった私へ幸多からんことを。