見出し画像

ファミリービジョンとは何か

同族企業において、ファミリーも経営もハッピーな状態をつくるには、ビジネスのビジョンだけでなく、ファミリーのビジョンが重要な役割を果たします。ここでは、ファミリービジョンがなぜ必要なのか、ファミリービジョンがない場合のリスク、そしてファミリービジョンを構成する要素について説明します。


なぜファミリービジョンが必要なのか

以下の2点から、私たちはファミリービジョンが必要だと考えます。
次世代メンバーの成長促進
次世代メンバーがビジネスの現場に参加するかどうかに関わらず、彼らがビジネスファミリーの一員としてふさわしい意思決定ができる成人になることは、極めて重要です。
自分のキャリアを切り拓き、自社との関わりを自分で選択できる人間に育てることは、現世代の大きな責任です。そのような次世代は、ファミリーに予期せぬ出来事が起きたときにも協力して適切な判断ができます。
そうした人材をファミリー内で育成するには、指針となるファミリービジョンの存在が欠かせません。

オープンなコミュニケーション
オーナー家の人間が同族企業についてオープンに話し合い、将来の見通しを共有することはとても大切です。ファミリービジョンのもと、定期的に話し合う習慣のあるファミリーであれば、将来起こりうる不安や懸念もテーブルに出すことができます。
これにより、ファミリーの一部が持つ(かもしれない)無意識的な抵抗を防ぎ、同族企業について健全な意思決定を促すことが可能になります。

ファミリービジョンがないとどうなるか

オーナー家にファミリービジョンがない同族企業には、以下のようなリスクが発生します。

対立(回避)による意思決定の先延ばし

ファミリー内に対立が起きた場合、あるいは対立を避けたいがために、事業上の重要な意思決定が先延ばしにされることがあります。

投資意欲の低下

ファミリービジョンがなく、承継の見通しが立たない同族企業では、事業投資や採用に対する意欲が低下し、結果としてビジネスの衰退を招く可能性があります。

ファミリービジョンの構成要素


ファミリービジョンは次の3つの要素から成り立ちます。
1.継続の動機
2.ファミリーメンバーの支援とコミュニケーション
3.世代承継のマネジメント

1. 継続の動機

そのものずばり、一族でこのビジネスを続ける意思があるかどうか?です。
ここでいう「続ける」とは、オーナーとしてその事業を持ち続けることを指します。誰が経営するかは、その後の問題です。
あなたがオーナー経営者であれば、「なぜ会社を売却しないのですか?」という質問に答えることができるでしょうか?
この問いに答えるには、同族で事業を持ち続けることの利点を見出す必要があります。
あなた方一族がビジネスオーナーとして存在することに、どんな価値があるのか?ビジネスを通じて一族が社会に貢献し続けることは、あなた方にとってどのような意味を持つのか?こうした問いに自分たちなりの解を見つけ出すことが、ビジネスファミリーとしての戦略の第一歩です。
この問いに対して「YES」という時にはじめて、ファミリーメンバーの事業参加について検討します。
「誰が継ぐか」という手段の話や「誰も継がないからM&A」という短絡的な思考は、事業の成功を妨げるだけでなく、結果的に一族の幸福も失う恐れがあります。

2. ファミリーメンバーの支援とコミュニケーション

ファミリーメンバーの健全な発達と効果的なコミュニケーションは、ビジネスの成功に不可欠です。これには以下の3つの論点があります。
①  ファミリーメンバーと会社の関わり方
家族メンバーが会社で働くか、受動的なオーナーになるかを決定することが必要です。これは一度決めたら変えられないものではなく、本人や家族の状況、キャリアプラン、年齢による変化など様々な要因で変動します。
変動することを許容できるファミリーこそが、事業の可能性と家族の幸福を追求することができます。
②  メンバーのキャリア支援
次世代メンバーのキャリア支援には、資格取得やMBA進学、結婚や子育てのサポートが含まれます。中高年メンバーやシニア世代に対しても、セカンドキャリアを意識した支援が重要です。
③  一族のコミュニケーション
ファミリーの健康的な関係を維持するために、どれくらいの頻度でどのようなコミュニケーションが必要なのか?を考えます。

3. 世代承継のマネジメント

次世代へのスムーズな承継を実現するためには、以下の3点が重要です。
①  次世代の育成方針
次世代の育成は承継の基盤となります。次世代がリーダーあるいはオーナーとしての知識とスキルを身につけていてこそ、安定した承継が可能になります。次世代が身につけるべきことはそれぞれの家で異なりますので、自分たちで考え、共有しておくことが望ましいです。
②  シニア世代の課題について学ぶ
シニア世代が直面する課題を理解し、一族で適切なサポートを提供することが求められます。例えば、次世代の成長が脅威になったり、現在のポジションを手放すことへの恐れにどう向き合うか、などです。人間の寿命が延びることで幸福な面もありますが、次世代にとって妨げになる可能性もあります。
③  承継のプランニング
承継のプランニングとは、単に代表交代の時期を決めることではありません。有形・無形の資産を明らかにし、次世代と共通の認識を持つことが重要です。これにより、円滑な世代交代が可能となり、ビジネスの持続的な成功が期待できます。

結論

同族企業の成功には、明確なファミリービジョンが不可欠です。そのスタートは継続の動機について話し合うことです。
次世代メンバーの成長促進、オープンなコミュニケーション、ファミリーの成長とコミュニケーション、そして世代承継のマネジメントを通じて、持続的なビジネスの成功を目指すことができます。ファミリービジネスにおいて、家族の結束とビジネスの成功を両立させるための戦略的アプローチが求められます。

執筆 丸山祥子 (株)イコールスリー取締役・共同創業者