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楽曲分析 J.S.バッハ インヴェンションのアナリーゼ1C-Dur BWV772 ①

●はじめに

…ある日の午後。

生徒「せんせー」

先生「はーい」

お疲れさまです。

今日はどうしましたか?

「最近、子供のころに取り組んだJ.S.バッハのインヴェンションを久しぶりに弾いてみたら…」

ほうほう。

「久しぶりに弾いてみたら、どの曲も、とてもいい作品だなぁって改めて思いました!」

使い込んだ楽譜

なるほど、小さいころには気づかなかった魅力を再発見したわけですね。

「今まで色んな曲を弾いてきたり、色んな音楽理論を勉強してきました。そんな今の自分なら、子供の時よりもバッハを理解しながら演奏できるのでしょうか?」

面白そうですね。
それでは、これからインヴェンションを1曲ずつアナリーゼをしていきましょう。

●第1番ハ長調
Invention 1 C-Dur BWV772

インヴェンションの代名詞のような、とても有名な作品ですね。
ハ長調で曲集が始まるところは、「平均律クラヴィーア曲集」と同じような組曲の意図を感じます

●全体の構成

それではこの曲の全体の構成を見てみましょう。

第1番ハ長調 の構成

全体を見てみると、冒頭に主題の提示が行われた後は、ほとんどの場所が推移とカデンツ(完全終止)でできていることに気づきます。

今回は、曲の全体を通して関わってくる主題の「造り」を考えていきたいと思います。
まずは、この曲の主題を見てみましょう。

●主題と対主題

Invention 1の主題です。

この主題を見てみますと、大きくA.と B.の2つの部品(動機)から成り立っていることがわかりますね。
さらにA.は前半a1.と後半a2.の2つの異なる素材で作られたものであることがわかります。
この一つ一つの動機が、この後の音楽を展開する要素=部品として用いられていくのです。

「曲全体で使われる動機が、最初の主題で全て提示されてるんですね!」

●主題の提示1

さて、今回は提示部にあたる2小節に絞って、少し細かく見てみましょう。
1小節目は右手と左手がカノン風の出だしになっていますね。

左手がカノン風に模倣します。

声部が2つ重なることで、和声が浮き彫りになります。
すると、C-dur(ハ長調)の主和音が、ドミナントを経てすぐに主和音の和声に戻ってきていることがわかりますね。

左手が重なることで和声が明確になりますね。

「トニックが少しだけドミナントに行って戻る、小さなハーモニーの“揺れ”のようですね!」

それでは、続く2小節目はいかがでしょうか。

●主題の提示2

1小節目の音楽が5度上の調に移調して模倣されているように見えます。

「ト長調に聴こえます。でも、あれ?」

ト長調っぽいのにFがナチュラルです。

そう、丸で囲った音=Fは、なぜト長調のようにシャープにならないのでしょうか。

「あれれ、たしかに。」

フーガのような様式でしたら、ちゃんと転調してシャープになりますよね。

Praeludium und Fuga C-dur BWV 545のフーガの提示部
主題(主唱)がしっかり属調に転調しているのがわかります。

それでは、今回取り上げているインヴェンション第1番の2小節目はハ長調なのでしょうか。

仮に、もしハ長調でしたら次のように聴こえますね。
Fの音はドミナントの第七音。

ドミナントの第七音に聴こえます。

でも本当に、そうなのでしょうか。

●バッハの和声

実は、バッハが生きたバロック時代は、今の私たちが普段接する音階、和声理論の感覚がまだ完全には確立していなかったのです。

たとえば、イタリア協奏曲の冒頭を見てみましょう。

Italienisches Konzert BWV 971 冒頭

最初のへ長調の場所は、なぜか音階の7番目の音のミがフラット。続くハ長調の場所は、なぜか音階の7番目の音のシがフラット。

これを音階にして見てみましょう。

長調の第七音が半音下がっています。

音階の7番目の音導音)が半音下がっている。とても不思議な感じに聴こえる音階です。
実は、この音階は、昔使われていた音階「教会旋法」の「ミクソリディア」と同じなのです。
バッハは、私たちが使っていない音階を使っている。
つまり、現在の私たちの感覚と、バッハが感じていた感覚は微妙に違っているんです。

当時使われていた楽器や調律法の、音の響きの違いも関係あるのかも!?

今の私たちの感じる音との違い、そんなことも着目しながらアナリーゼをしていきたいですね!
次回もお楽しみに!

生徒「今日もありがとうございました!」

●最後に…

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