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恋、愛、性行為─消滅世界/村田沙也香─語彙力感性0れびゅー

恋と性欲は、たしかに、家の外でする排泄物のようなものだ。それでも発作のような寂寥感に苦しめられる夜は、私たちは寄り添って、お喋りをして過ごす。心の中の膿を吐きだすこともあれば、くだらない話をし続けることもある。

性行為ではなく人工授精で子供を産むことが定着した世界。

そこでは、夫婦間の性行為は「近親相姦」としてタブー視される。

主人公の海音は、両親が愛し合った末に生まれ、母親に嫌悪感を抱いていた。   ......消滅世界/村田沙也香(2018)

今回はこんなお話。


以下、ネタバレはないです。


彼女が描き出す世界は、設定から現代社会とは大きく変わっている。

「結婚するときは、絶対に互いを家族として扱うこと、つまり性的な目で見たり恋愛対象にしたりしないことを誓い合うのよ。それを破るのはひどい裏切りよ」

この世界において、配偶者と恋人は別々に存在する。家の外で恋をし、家に帰ってきて互いの恋愛話で盛り上がる。恋愛なんて下半身の娯楽という言葉が作中に出てくる。

快楽のために性行為を行う動物は、ほとんど人間とボノボくらいらしい。

高度に知能が発達し、合理的思考による世界において、我々の愛はどのように発現するのだろうか。

自分にはとにかく「家族」という絶対的な味方が存在しているのだと、必死に自分に言い聞かせているようでもある。きっと一生、互いが抱えるこの恋という発作の苦しみを、共有しながら生きていくのだろうとも思う。

生きていて苦しいことはたくさんある。私も今まで数多の死にたくなるような自責と苦しみとに苛まれ心を病み閉ざしたこともある。齢18でそう思うのだ、これから先の人生も同等、いやこれ以上の苦境に立たされてしまうことは幾度となくあるのだろう。(......まあ苦しみは絶対的なもので、相対的なものとして他と比べるべきものではないが)

そんな世界で、いつでも寄り添ってくれる絶対的な味方が家族、らしい。

アガペーのみが真実の愛とするならば、相手を性的対象としてみた瞬間に相手を性処理の道具としてみなしてしまうことになるのか、ということだろうか。

本作中には、二次元のキャラクターのようなの存在に対する愛についても描かれている。

「......キャラに対するそういう感情って、なんか、強制的にそういう感情を引きずり出されてる気がして、疲れちゃうときがある。街を歩いていても、テレビを観ていても、こっちを発情させたり疑似恋愛させたりするために作られたものたちが、むりやりそういう気持ちにさせてきて、気がつくとお金を搾り取られてる。なんか、騙されてる感じがするんですよね。......」
「自分が消耗されてる感じがするかも。」

…...んんんんわかるぅぅぅ、、、、

そうなんよ、私はこれで感動系の映画とかアニメとかに一時期嫌悪感を抱いて、そこから人間が気持ち悪くなっちゃって、、

なんというか、村田沙耶香さんの作品を読むと、自分の感性は間違ってなかったと思えて安心する。感性に正誤もあったもんじゃないけど。

言語化がうますぎる。

私たちは、家族という宗教の敬虔な信者で、だからこそこうして、たいして知りもしない他人同士が同じ部屋の中で安心しきって暮らしている

正直これはパートナーだけでなく親にも言える気がするけど。

この作品における’’夫婦’’(性別不問)っていうのは、どちらかというとパートナーだとか、相棒だとか、伴侶だとかいう言葉の方がしっくりくる。

心でつながってるとかそういう類の話だ。不確かなそれを形あるものとして確かめるために我々は体を求めあうのだろうか。愛はアガペーとエロスの二面性があるという話である。

「消滅世界」において、いわゆる粘膜の接触による性行為は通常存在されない。誕生した時点で避妊処理され、子供を望む場合は国に届けをだす。

性的衝動と愛、繁殖が完全に切り離されるのである。

今作の解説によると、男性は対象との関係や距離を維持しながら操作しようとする欲望の形式「所有原理」をもち、女性は対象をまるごと受け入れる、対象になろうとする一体化への志向「関係原理」をはらんでいるという。そしてそこに生じるすれ違いが性行為だという。

(ここにおける男性、女性は傾向的な話ね)

男性にとっての性交は、快楽であるのと同時に所有、征服のための儀式であり、女性にとっての性交は関係原理を満たす手段の一つにすぎない。

だからセフレが成立するためには互いが互いを性処理の対象としてみなしていなければならないような気がする。両者所有原理のもと行動してる的な?よくわかんなくなってきたなあ


こういった性、愛の話って現実世界じゃなかなかしずらいですよね。私がそう思ってるだけかもしれないけど。でも実際こういう込み入った?話ができる仲は私にはそうそういないなあ。人間の本質というか核の部分だからかな。少なくとも私にとっては。



以上、村田沙耶香作、消滅世界の語彙力感性0れびゅーでした。

村田沙耶香さんは私の推し作家さんのひとりなので饒舌になりかけちゃっちゃ。コンビニ人間とか殺人出産とかもうどれもめちゃめちゃ考えさせられます。文章を通して、村田沙耶香さんは闘ってるように感じられて、なんかもうよくわかんない感情になります。

彼女の作品は小説である一方で、読中、読後に壮大な小論文を読んだかのごとく思考をかき乱されます。大好き。

また他の記事で出会えますように 永森でした。

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