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2020年の音楽

2020年に新しく発表された音楽のなかで、個人的によく聴いた10曲を選んでみました。流行とはたぶんあまり関係なく、趣味の世界のやつです。

Victorius "Super Sonic Samurai"

ヴィクトリアスの『スペース・ニンジャズ・フロム・ヘル』は、ドイツ産パワーメタルという、自分にとって未知の音楽との出会いそのものでした。なかでも『スーパー・ソニック・サムライ』は、これが好きなんだという全力を、一切のフィルターを通すことなく出会いがしらに急にぶつけられるという、半ば事故のようなものだった。おかげで、生まれて初めてディスクユニオン新宿ヘヴィメタル館へ行ってアルバムを買うという経験もできた。

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このアルバムは異様な中毒性があり、昼も夜も繰り返し聴き続けた結果、胃腸炎で高熱を出して寝込んでいるときに脳内でまで無限に爆音で鳴り続け、そこからしばらく嫌いになるというところまで行った。改めて聴いてもめちゃめちゃいいですね。流行り病がなければ間違いなく来日ツアーしていたはず…。2019年のサイボーグメカニンジャ、2020年のスーパーソニックサムライ、これです。

ザ・リーサルウェポンズ『半額タイムセール』

今年うれしかったのは、ザ・リーサルウェポンズがソニーからメジャーデビューして、相変わらず超カッコよかったこと。3ヶ月連続シングルリリース、わたしは『半額タイムセール』が一番好き! 日常すぎて今まで誰もわざわざ歌にしなかったテーマをこんなふうに仕上げるなんて。80年代パロディーと思われているかもしれないけど、彼らが挑戦していることはこの上なくオリジナルな表現で、それはアイキッドさんの実力とジョーさんの努力によって彼ら自身が勝ち取ったものだ。

ほとんど最悪のタイミングでライブができなくなってしまって、ましてライブにおいて封じられてしまったコールアンドレスポンスこそがポンズの醍醐味なのに、逆風のなか新曲、メディア出演、配信と着実に結果を出していたのもカッコよかった。どんな状況でもやる人はやってる。

月ノ美兎『アンチグラビティ・ガール』

SMASH The PAINT!!』超良かったよね。にじさんじ初のオリジナル曲のみによるフルアルバムで、ライバーの個性を生かした楽曲と歌詞のワードセンスが凄まじく、何度も聴いた。わたしは「さんばか」大好きなのでそれこそ『3倍!Sun Shine!カーニバル!』での3人の声音の絶妙なバランスも、『青春モード!もう一回!!』でのひまちゃんのどこまで現実かわからないバーチャルな青春模様も好きだけど、このアルバムでのJK組、そしてしんがりに控える委員長の大御所感は別格なのだ。

楽曲としても、わたしはこの曲はLondon Elektricityの『Meteorites』へのイノタクさんのアンサーソングではないかと勝手に思っているんだけど、シンプルに2020年の日本を象徴するドラムンベースとして評価しています。バーチャルライバー月ノ美兎に欠かせない好奇心・B級嗜好・笑いという要素を、「無重力=アンチグラビティ」(もしくは「アングラ」!)という概念へドラマチックに落とし込んでいる歌詞も最高。なにより委員長の全身全霊のシャウトが、いつかは消えてどこかへ行ってしまうような儚さをはらんでいて、切ない。まだまだ暴れてほしいよ。

COGMEL "Scratch the moon"

『魔法陣グルグル』で知られる漫画家衛藤ヒロユキ先生の音楽家としてのアーティスト名義がCOGMEL(コグメル)。ファーストアルバム『Scratch the moon』が10月に、そして早くもセカンドアルバムが12月に出ています。DJ・ターンテーブリストとしての顔も持つ衛藤先生の本格的な音楽活動が始まるとあって、このところのCOGMELの音楽に夢中。わたしはそもそも、中学生のとき『グルグル』を読んでテクノを始めたようなものなので。

これはまた記事を書こうと思っているんだけど、COGMELの音楽はまさに先生がずっと漫画で表現してきたことと地続きで、それはファンタジーであり、メルヘンであり、不安定に揺れ動く少年少女のおかしさや恐怖や、はたまた夢や希望といったものをごちゃ混ぜにミックスしたような世界観なのです。その優しい視点が、無機質なボカロ表現に魂を与えており、結果としてあたたかみのあるビートが出力されている。『なぜだか言っちゃった』も『かわいいDJさん』も、どの曲もいいんだけど、まずは表題曲『Scratch the moon』を聴いてみて!

ピーナッツくん『グミ超うめぇ』

メディアアーティスト、バーチャルYouTuber、そしてゆるキャラグランプリ優勝者としてだけではなく、ピーナッツくん(と兄ぽこ)のミュージシャンとしての才能は、デビューアルバム『False Memory Syndrome』を通して完全に明らかになった。『幽体離脱』とどっちを選ぶか迷ったけど、『グミ』のヤバさは際立っていた。だって「グミ超うめぇ」だよ!

Raumskaya "Clouds"

Raumskayaはモスクワのビートメイカーで、フットワークを独自に解釈したミニマルなドラムンベースを作っている。この曲も160と80の間をゆらゆらと揺れ動く奇妙な、しかし優しい酩酊グルーヴを持っていて、ある時期のお気に入りでした。今年はアルバムも出た。

Nuage, Bop & Omfeel "Romantic OD"

外に出られないので、自分にとって目新しい音楽を積極的に掘ったりもしていた。ロシアのBopらが切り拓いたサブジャンル、マイクロファンクとの出会いもそのひとつ。極限まで音を減らした「引き算」のドラムンベースにして、重たくも軽くもない洒脱な装いがツボにハマった。『Romantic OD』はなかでも際立ってエモーショナルで、しかも不思議な構成の曲。

Last Life feat. Homemade Weapons "Throes"

マッシブなドラムンべースでは、今年アルバム『Recon』を出したLast Lifeが最高でした。無駄を切り捨てた禁欲的でダークな世界のなかで、どの曲でも新しいタイプのビートの開発に挑戦しているさまはまさに求道者だった。Homemade Weaponsとのコラボレーションも良かった。

Joachim Spieth "Ultradian"

Joachim Spiethのアルバム『Tides』は、シンセパッドを多層的・立体的に貼り合わせたほとんどドローン持続音のみによるアンビエント作品でありながら、虹色のスペクトルが煌めくような視覚上の多重モーフィングを仮想的に表現している。スピーカーで聴くと、空間を隙間なく満たす音に包まれている感覚がすごく、意識を遠くへ押し流されそうになる。

Quinteto Astor Piazzolla "Triunfal"

今年この困難な状況下で、キンテート・アストル・ピアソラが精力的に作品を発表してくれたことはわたしにとってある種の救いでした。数年ぶりにピアソラの音楽とじっくり向き合う時間を作ることができた。彼らの演奏は、熱量こそピアソラ楽団の自作自演には及ばないものの、音楽自体の美しさをシンプルに表現することで、何も足さず何も引かない「ピアソラのタンゴ」に価値があることを証明しています。もっともっと名曲を聴かせてほしい。

全曲をまとめたSpotifyプレイリストはこちらです。



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