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『余白』が『感性』を育む潤いに

「削ぎ落とす」のは、マイナスなことではなく「豊かに感じ取る」スペースを設けること。余計なものを取り払うと見えてくる、自分の本当に好きなモノやコト、その心地よさとは? フラワースタイリスト・平井かずみさんに聞きました。

平井かずみ
1971年生まれ。草花が身近に感じられるような「日常花」を提案するフラワースタイリスト。雑誌やCMのスタイリングの他、TVやラジオ出演でも活躍。東京・恵比寿のアトリエでは、花の教室「木曜会」や、五感を刺激する企画展を開催。感性に素直に、自然との調和を大切にする人生哲学も注目される。



平井かずみさんが「シンプル」を大切にする理由


平井:やってみる!行ってみる!使ってみる!気になったら何でも挑戦するのが、私のスタイル。難しそうとか、センスがないからと、やらない理由を探しても仕方がないので、まずは飛び込んでみちゃう!そうしないと、見えない景色が必ずあるから。


現在52歳の平井かずみさんは、そうやってぐんぐん経験値を上げ、失敗もたくさんしながら、今に至るそう。経験を重ねて情報が増えていくと、どんどん肉付けされていくような、自身が大きくなっていくようなイメージがありますが…。


平井:むしろ逆で、すーっと削ぎ落とされました。いるもの、いらないものがわかるようになり、シンプルに整理整頓がなされるイメージです。


余白を楽しむ棚ディスプレイ


ガラスや沖縄のやちむん、拾った鳥の巣(!?)などを飾った、フランスのデザイナー、ルネ・ガブリエルの棚には、引き算の美学が。「空間の余白には、気持ちにゆとりを生む効果も」


時間の使い方も、ペースを落としてシンプル化


平井:以前は予定を詰め込み過ぎて、常にお腹いっぱいだったように思います。楽しいし、充実しているけれど、満腹感でちょっと苦しいような。働き過ぎだったのかもしれません。それは、豊かなようでいてちょっと違う?本質的な部分をもっときちんと味わいたい、と願うように。そこで最近では、分刻みのスケジュールをやめて、午前に1件、午後に1件くらいの予定を入れる、緩いペース配分を心がけています。


余裕がないと、十分に受け取ることもできなければ、人に優しくすることもできません。感性を大切にしたいなら『余白』こそが必要と気づいたそう。


平井:何事も、ぎゅうぎゅうに詰まっている状態には 『乾く』ような、水分を奪われるイメージがあります。対して、余白は 『潤う』イメージ。空白があるから、刺激を受けた何かをゴクゴク吸収できて、自分の根っこまで染み込ませていける。そうして、吸収したものが、心の中でじんわりと波紋のように伝わり、余韻として残ります。感性がちゃんと響けるだけのスペースを持っておくことが、大切なんですね。削ぎ落としたシンプルは、この上ない贅沢だと知りました。


身にまとうのは天然素材だけに


選び抜かれたものに囲まれた、〇〇テイストではくくれない、シンプルな平井さんのアトリエスペース。余白を生かし、洗練された空間が広がります。家具を見ると、フランス、中国、韓国と、出自はさまざま。なのに、ひとつの世界として溶け込んでいます。

「洋服はカディコットンやシルクなど、天然素材ばかり」肌に触れるからこそ、自然や手仕事を感じるもの、余計なものが入っていない頼できる作りに包まれたいと思うように。

平井:ものを選ぶ際には、背景のストーリーを大切に。どんな素材を使い、どんな場所で作られ、どう育ってきたのか…。そこには、仲良くなれるヒントがぎゅっと詰まっているから。共感できたものなら、出自がバラバラでも、私の軸を通した、自分テイストが完成します。これは、花生けでも似ていて、どんな環境で生まれ育った植物なのかを知ると、ありのままの姿を思い描け、自然体で生けられるんです。


「相手を知る」を大切にする考えは、人間関係も一緒。初対面でもきちんと名前で呼び、何が好きで、大切にされているのかを知ると、相手への興味が育ち、コミュニケーションが円滑になっていきます。


鉱物に触れる時間で自分を取り戻す


フラワースタイリストとして活躍する平井さんは、元々は園芸マニア。好きが高じて、自然界の植物と触れ合う時間を提案していますが、同じように本能的に惹かれるものがあります。それは、天然石。

ヒマラヤやオーストリアなどで採れたクリスタルやフローライトなどの鉱物が、平井さんのお守り代わり。「自然と調和する感覚がとても心地よくて、直感的に好きで集めています」

平井:なぜこれほど、鉱物に魅了されるんだろう?と考えていて、ふっと気づいたんです。花は 『上へ上へ』と育ち、鉱物は土に還っていくもの。つまり、『下へ下へ』の向き。私は、陰と陽など、世界は相反するもので成り立っていると常々思っていて、植物と鉱物も、よく考えたら同じような関係性。だから、ひとつの世界として、両方に強く魅力を感じるんだと深く納得しました。こうして感性と真っ直ぐに向き合うのも、自分の輪郭を知りいたわる、セルフケアのひとつかもしれません。好きを尊重するシンプルな生き方には、心が解放される気持ちよさを感じます。


花生けは自分が太陽のつもりで


平井:よく質問される花生けのコツですが、自分が太陽になったつもりで、植物にこちらに向いてもらうイメージで、挿していけば大丈夫。これだけで、自然界のありのままの姿に近づきます。

花生けは自分が太陽のつもりで


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