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伏見稲荷について
先日、友人たちと京都へ行った。かのブライアン・イーノ展を見に行ったのだ。
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空間と音が渾然一体となった不思議な空間が広がっていた。他では味わえないサウンドスケープ。さすが世界一流の音楽家の展覧会である。大変満足した。
しかしイーノ展だけ見てさあ東京に帰ろう、と云うのは味気ない。我々は京都をあてなくぶらぶらすることにした。任意のN条の通りや鴨川、商店街、寺、タワー近辺などをあてなく歩く。
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すると突然、同行していた友人がこう尋ねた。
「ねえ、あの鳥居おかしくない?」
どれどれと彼の指差す方を見ると、商店街のテナントとして朱色の鳥居だけが三本立っている。
「まあ京都なんだから鳥居が沢山あるのは当たり前なんじゃない」
「いやいや、奥に神社もないのにこの量は異常だよ。さっき通ったタワーの入り口にもあったしさ。なんならさっき通りすぎたお寺にも四本見えたよ」
「寺に!?それはおかしいね」
いくら神仏習合といえど、寺に鳥居を四本も立てたらなんらかの菩薩がなんらかの天罰を下しそうだ。これはおかしい。我々はこれら鳥居について調べることにした。
調べていくうちに鳥居は京都市内の至る所に存在していることが判明した。公衆トイレ、ホテルの庭、公園の隅、などなど。およそ高さ2メートル程度であるが、郵便局のテーブルに置いてあった手のひらにおさまる程度のものから最大のものだと商店街の入り口に存在する5メートルのものまで。たまに複数本がかたまって存在している。そしてそれらは京都の街の空気に溶け込んで存在しているため、旅人はもちろん京都に住む人々も全く気にしてないようだった。
そして分布には偏りがあることが分かった。南東に行けば行くほど鳥居の本数が増えていく。そして終着点にあったのが伏見稲荷だった。
伏見稲荷近辺の鳥居の数といったら尋常ではない。駅構内は全て鳥居に占められており、入ることすら困難。通りに並ぶ建物たちや自販機も半分ほど鳥居と融合しており、鳥居と鳥居以外を判別するのが困難な状態だ。
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鳥居をかき分けながら進むと伏見稲荷神社に辿り着いた。敷地内は全て鳥居に占められている。おそらくこの元凶と見えた。
鳥居に埋もれている本殿に向かって叫ぶ。
「やい神主!この鳥居はどうなっているんですか!京都中鳥居だらけですよ!」
すると鳥居と鳥居の隙間から幣を持った神主が半身を出した。
「すみません、うちの鳥居が異常繁殖しているんです」
「どういうことですか」
「うちには千本鳥居ってのがあるでしょう。あそこには1万本の鳥居があると言われているんですよ」
「そんなにあるんですね」
「いや、実際にはそんなにないんです。いいところ3000本くらいかな」
「盛っていたってことですか」
「そうなんですよ。どうにか増やす方法はないかと考えていたんですが、考えついたんです。鳥居を繁殖させればよいと。それで鳥居を然るべき方法で飼育したところミルミル増えていったのですが、ご覧の有り様です。」
「それは酷い。ちゃんと繁殖の管理することは生物飼育の第一歩、飼い主の責任ですよ」
「他の神社に譲渡するなど色々していたのですが、それを上回るスピードで繁殖してしまって……本当に反省しています……」
「どうにか減らす方法はないんですか」
「……一つあります。あそこに山があるでしょう。あれが稲荷山ですがあの頂上に神社があります。『何でも叶えてくれる』と言われているね」
「そこに行って祈ればよいと。でもあなたが行けばよいのではないですか」
「残念ながら私は鳥居に閉じ込められてここから出られません。どうかあなた方が行ってください」
そうして我々は稲荷山に登ることになった。
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稲荷山の惨状は惨憺たるものであった。至る所に大小様々な鳥居が入り乱れ、前に進むのもままならない。鳥居に閉じ込められ助けを呼ぶ登山者もいた。
「こりゃあ酷いな。全部鳥居だ」
「この分だと頂上では一体どうなっていることやら」
鳥居をへし折りながら進むこと一時間半、頂上に辿り着いた。見渡す限りの鳥居鳥居鳥居……その中に揉まれるように神社があった。願をかける。
「どうか、鳥居を減らしてください」
気がついた時には我々はさらに増えた鳥居に囲まれ下山できなくなっていた。願いは叶わなかったらしい。当たり前だ。祈祷してウサギが殖えるのを抑えられるだろうか。ちゃんと原因のわかっているものに対しては、正しく対処しなければならない。因果の前に祈りは無駄である。
今鳥居の下でこれを書いている。鳥居の隙間から見える京都の風景は朱色に染まりつつある。一緒にきた友人たちはみんな鳥居に潰されたらしい。僕が鳥居に潰されるのも時間の問題だろう。
あなたの街にも妙な場所に鳥居がないだろうか。見つけたなら一刻も早く破壊しろ。さもなくば街は鳥居に占拠され、いずれ日本中、世界中に広が
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