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音楽づくし「música de flor」
喫茶店に入った時、一聴するとボサノヴァのようで、どこかズレた音楽を耳にしたことはないだろうか。それは恐らくフロールである。
ムジカ・デ・フロール、通称フロールは1960年代後半のわずかな期間に集中して制作された、ブラジルのジャズミュージシャンによる音楽である。BGMの目的で作られたボサノヴァコンピレーションにしれっと混ざって収録されていることも多く、日本人でも気の利いた音楽ファンなら知っていることだろう。ショーロの発展とボサノヴァ隆盛、そしてMPBの前衛精神をつなぎとめる役割を担っておりブラジル音楽の一つの集大成とみる向きもある。
florはflower、すなわち花を意味するがこれはフラワー・ムーブメントの影響下にあるためで、基本的にはジャズの文法に即したサンバでありつつも英米のサイケデリックポップスに色濃く影響されている。事実フロールの音楽人はブラジルで最初期にLSDを用いたことが知られており、これによりアメリカのヒッピーを中心に一種のドラッグソングとして受け入れられることになった。かの中島らもが「LSDの酩酊に最もよく合う音楽」と書いたことは有名だ。
各界の著名人も好んでおり、例えば村上春樹は小説「1Q84」で80年代特有のスノッブさを感じさせるアイテムとしてフロールの代表的名盤「そよ風(原題:vento para nada)」を登場させている。その際の一節「そよ風がどう吹こうが、あなたはきっと自由。そうでしょう?」はあまりにも有名で、村上春樹のパロディの際は必ずといっていいほど取り沙汰されるものである。
粋な夜電波内での菊地成孔の発言「唯一ブラジルでジョビンを超えた曲を作った者がいます。フロールのネトです」に始まり現在でもその音楽的評価は高い。インターネット上の取引においてはさほど高値で取引されているわけではないものの、出品されていること自体が珍しいので見つけたらすぐ買うことが鉄則とされている。
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