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【477回】「ICT活用新しいはじめの一歩」をおすすめする理由(200406)


3月28日の記事に、「おすすめ本」を書いた。ただ紹介しただけで理由は書いていない。

今回は郡司竜平氏の「ICT活用新しいはじめの一歩」をおすすめする理由を書いてみる。


○ICT活用というタイトルだが、ICTのためのICT活用本ではない。

先にお伝えしますが、基本、95%、いや98%と言ってもいいかもしれませんが、私の指導・支援はアナログです。(p12)

ICT活用の本なのに、序盤に書かれたこの告白には驚かされるのではないか。「ICTを使って授業をしないとなあ」「なんかアプリがあるかなあ」なんて思っていたら、いったん本を閉じてしまいそうだ。

「なんだこれは!」

この部分だけで、この本が単なるICT活用の本ではないことがわかるだろう。あくまで、子どもに応じた学習や支援を行う中で、ICTを生かすという捉え方がされているのだ。


○アセスメントから始まっている。

ICTを使う上で、やみくもにアプリを使ったり、提示するのではない。
アセスメントを行いながら、活用を試みている。
「このアプリはよかったね。このアプリは食いつかないね」というICT機器中心のアセスメントではない。ICT機器を使うと何か革新的な取り組みをしている気持ちにある。つい機械中心になりがちなのだ。だが、著者のアセスメントは違う。あくまで子どもの姿を見ている。
ICTに限らず、子どもの姿からアセスメントを行うことは、大切なことであると教えてくれる。


○スケジュール、コミュニケーション、余暇に触れている。

初めて特別支援学校に勤務する教師であれば、「スケジュール」「コミュニケーション」「余暇」という枠組みの実践は知っておいてほしい。

子どもの行動問題が、などというが、結局、行動の意味をとらえると、「コミュニケーション」のことや、「スケジュール・見通し」が持つことができていないこと、何をしたらいいかわからないなどが原因のこともある。



○ICT機器の有無に限らず、知的障害特別支援学校での授業の注意点について読み取ることができる。

ICT機器を用いた実践を見ると、授業を行う上での教師の姿勢が見えてくる。
とりあえず、「ひとめでわかる」「見てわかる」「言葉を削る」「最初に伝える」などだ。

これはICT機器を用いることに限らず必要なことではあるが、特に「見てわかる」ということにおいては、「スライド」「動画」を用いることが効果的であることがわかる。

その他にも…
「子どもが自分でできるように」「子どもに任せる」「子どもの興味や得意を生かす」「子どもの意欲を高める」「自分から動くことができる仕掛けを作る」「楽しむことができる」「子どもに合わせて言葉や身体的支援を選択する」などを読み取ることができる。

初めて特別支援学校に勤務する教員や、特別支援学校の教師を目指す学生にとっては、授業のイメージを持ちやすくなるのではないだろうか。


○著者が直接指導・支援をしていない実践が描かれている

「私は直接担当していませんでしたので、学級担任や学年の教師とともに取り組んだ事例です」(p50)

この本をおすすめする一番の理由は、教師同士のつながりが、成果につながった好事例が、単著の本に記載されていることだ。自分の職場の同僚が実践したことを、描いているのだ。

著者がICT機器を用いた実践を得意でも、同僚が同じようにできるとは限らない。特別支援学校は1つの教室に、2人、3人と指導者が入ることが多い。つまり、チームで指導や支援に取り組むことが求められる。著者が一人でICT機器を用いた実践をがんばったのではなく、同僚もまとめて、チームとして、学校として実践を進めていく姿を読むことができる本は貴重である。繰り返すが、単著なのだ。


「担当する教師が変わっても、データと支援方法が引き継がれ、一貫した方法で取り組めたことで効果が上がった」(p53)

チーム実践の最高の形が、上記の言葉に示されている。

担当する教師が変わっても、引き継がれていくことは、実際には難しいことが多い。教材を引き継いでも、受け継いだ教員が教材を使わなければ、指導方法、指導効果さえも変わっていってしまう。特にICT機器を用いる場合は、機器の使用継続も条件に入ってくる。
効果が上がった実践がどのようなものなのかは、実際に本を読んでもらいたい。


ついでにいうと、学校を超えて、家庭でも支援が継続されている事例さえ載っている。
特別支援学校はチームなのだ、ということに触れることができるだろう。


総ページ数79。
線を引いたり、メモを書いた回数は43回。

ぜひ、買って読んでみてください!
北海道発!実に、濃い一冊です。