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【709回】他人の弱さを利用する(ガッサーン・カナファーニー「ハイファに戻って/太陽の男たち」その5)


ハイファは、現在イスラエルにある港町。イスラエル建国前には、アラブ人が住んでいた。ユダヤ人入植にあたり、アラブ人は家を追われたわけである。
表題作「ハイファに戻って」は、家を追われたアラブ人夫婦が、ハイファに戻り、以前住んでいた家を訪問する物語である。訪問先には、ユダヤ人の家族が住んでいる。家族の中で一人、青年が現れる。彼は、アラブ人夫婦の子。赤ん坊だった子を置き去りにしたまま、抵抗できるはずもなく、土地を追われた。アラブ人夫婦は、アラブ人の体と肉体を持っている青年がユダヤ人として育てられた事実にぶつかる。

書き留めておきたい言葉は2つ。

しかし、いつになったらあなた方は、他人の弱さ、他人の過ちを自分の立場を有利にするための口実に使うことをやめるのでしょうか。

ガッサーン・カナファーニー「ハイファに戻って/太陽の男たち」 ハイファに戻って p256


その人間が誰であろうと人間の犯し得る罪の中で最も大きな罪は、たとえ瞬時といえども、他人の弱さや過ちが彼等の犠牲によって自分の存在の権利を構成し、自分の間違いと自分の罪とを正当化すると考えることなのです。

ガッサーン・カナファーニー「ハイファに戻って/太陽の男たち」 ハイファに戻って p257

「ごめんなさいね」と言いながら、弱いものから奪っていく。
家を土地を習慣を、生活を、記憶を、生きる力を奪っていく。
この連鎖は、どこかで止まる。止まるはずなんだ。