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ひとつ残らず、ぜんぶ愛 /4

家に帰ると玄関に2足
大きいスニーカーと小さいサンダルが並んでいた
わたしが履いている靴のサイズはその2足の中間

玄関に大中小と上手く段階を踏んでいる3足が揃うと嬉しくなる。

昨夜、凪ちゃんちの狭い玄関に
靴が散乱してたのを思い出す。
でも1足だけはきちんと揃えられていた。
眼鏡をしたまま眠っていた彼の靴だけは。



部屋に上がると大好物の香りがした。
香辛料が鼻をくすぐる。


「カレーだ、、、!」


思わず声に出すと
キッチンから柔らかい笑い声がする。
ワクワクしながら向かうと
わたしにギリギリ聞こえるくらいの声の大きさで
犬かよ。と呟いた後に彼が

「おかえり。暇だったから作っちゃった。」

と言って、えくぼが見えない程度に微笑んだ。

わたしが、
蒼くんの作るカレーがいちばん好き。
と伝えると、今度はえくぼを見せて笑った。


のんちゃんは?

               部屋で寝てるよ

そう

       優、今日なんか予定あったっけ?

ないよ

           プレゼント買いに行く?

え、、、

                  、、え?


あ、のんちゃん来週誕生日か


     自分の母親の誕生日くらい覚えてろよ


忘れてた。
蒼くん今日バイトないんだっけ


              月曜だからないよ


そうだった


        14時ごろ家出る感じで良い?


うん。それまでちょっと寝る。





わたしよりもわたしの母について詳しい蒼くんは、なんやかんやあって蒼くんのお父さんの海外転勤を機にうちに住むようになった。

わたしが1歳の頃、両親が離婚してから
のんちゃんの実家に住み始めた。
彼はその実家の隣に住んでいた。


歳はわたしの2つ上
お兄ちゃんがいたらこんな感じかなーと思う。


はじめはわたしが1人で住んでいた。
でも大学生の一人暮らしにタワマンの一室は広すぎる
父はどういうつもりで選んだのだろうか。
勝手に罪悪感を感じて、わたしが望んでもないことをする。
感謝はしてるけれど、なにかずれてる。


夏休み中にのんちゃんが転がり込んできて
そのあとに蒼くんが来た。
のんちゃんは彼氏と住むのが嫌になったらしい。





カラスの鳴き声で目が覚める
窓から見える遠くの空はオレンジだった


寝すぎた
なんか変な夢みたな
でもぼんやりとしか思い出せない


眠りから目覚めて意識を取り戻したとき
目を開けるまでの一瞬、
暗い視界を感じるそのときに、
見ていた夢が掠れてしまう。
最近はずっとそう。





蒼くん、
絶対分かってたでしょ
わたしが14時に起きれないこと
ちょっと寝るってわたしが言った時に
今日は無理そうだなって分かってたでしょ
なんでいつも起こしてくれないの
なんでそんなに優しいの

眠い頭で蒼くんに八つ当たりする。


起こしてくれないのなら、いっそのこと、
もっと寝てしまおう。
のんちゃんの誕生日は来週だから
また予定が合う時に買いに行けば良いし
なんならネットで買えば良い。

八つ当たりの次は自分で自分に言い訳をして
朝食べる蒼くんのカレーを楽しみに目を閉じた

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