見出し画像

フランスの寮があまりにもポンコツだった話

はじめに

私は大学生の時に1年間だけ、交換留学生としてフランスに住んでいたことがあります。その時の学生寮があまりにもポンコツすぎて、怒ることを通り越して笑ってしまうくらいだったので、備忘録として書き記したいと思います。

。。。。。

学生寮はこんなところ

3階建ての古い庭付きの寮です。共有スペースであるキッチンやリビングダイニングが1階にあり、各階に共有のトイレとシャワールームがあります。私は3階の大きめの部屋に1年間住んでいました。

。。。。。

① 一番怖かった、ネズミ事件

さて、私が留学していたリールという街は、もともと川や水辺を埋め立ててできた地域だそうです。寮の近くにも川がありました。どうやらそういったところではネズミがよく出るみたいです。

留学前期のある時、スロバキア人、イタリア人、ドイツ人の留学生らが、ドアの隙間を教科書やアルミフォイルで埋めているのに気がつきました。どうやら彼女らは、寮内でネズミを見たそう。それを聞いたときには「まあ、食べ物があればネズミくらい住んでるんじゃないの?」程度に思い、気に留めませんでした。

しばらくして、ネズミ問題は深刻になっていきます。同じ階にいたスロバキア人留学生が夜中にネズミのせいで叫び声を上げて大騒ぎになったり、ドイツ人留学生がネズミ問題が解決するまで寮費ストライキをしたりと、たかが掌ほどの生き物に翻弄される日々が続きました。
とはいえ、私は実害を被っていなかった上に、そもそも日本ではネズミよりゴキブリの方が恐れられているというのもあって、それでも気にせずに過ごしていました。

そんな風に、ネズミ問題は自分と無関係だとタカをくくっていたある夜、私は自室で不思議なものを目にしました。ミミズのような細長い何かが物陰から伸びていたのです。「ミミズ?私の部屋3階なんだけど…」と脳内はまだ処理が追いつきません。その時、ミミズの先の小さな毛の塊が想像以上の速さで部屋の中を横切ったのです。人は本当に怖いときは、声も出ず体が硬直するというのは本当のことなんだと感じました。その晩は、ネズミが寝ているうちに自分の体の上を横切っていく姿が頭から離れず、布団を頭の上まですっぽり覆って眠ったのを覚えています。

その日から、私も他の留学生と同じようにドアの隙間に対ネズミバリケードを作ることになったのでした。

。。。。。

② 地味に一番不快だった、エネルギー切れ事件

ネズミ事件は単純に恐怖でしかなかったのですが、こちらは現代っ子をチクチク刺してくるようなムカつくアクシデントです。私の寮はなぜが異常な程に電気が落ちました。日本だったら、ブレーカーを上げて、電気の使用に気を配るだけでいいのですが、なぜか普通に一晩中あらゆる電気が使えないことも何度もありました。

ここで困るのがまず充電の問題。ケータイもパソコンも充電できずに次の日を迎えてしまうのは勘弁してほしいという人多いのではないでしょうか。そして冷蔵庫と冷凍庫の温度が上がってしまうのも困りものでした。特に冷凍庫は、溶けて再冷凍するたびに、硬い氷の層ができてしまったので、綺麗にするのに苦労した覚えがあります。

そしてこのエネルギー切れは電気だけに限らず、キッチンのコンロ、ボイラー(シャワー)など多岐に渡り、毎回「あー、今日は〇〇できない日か…」としだいにあきれて慣れていきました。

。。。。。

③ 一番笑った、ナイアガラの滝事件

ある日の夕方、私はいつも通り3階でシャワーを浴びていました。暖かくて気持ちが良かったのは束の間、突然シャワーが冷たくなり水の出が悪くなってしまいました。しかし、ポンコツ寮に慣れ始めていた私は「またか」くらいに思い、しかたなく冷たい水でシャワーを終えました。

シャワーから出ていくと何やら1階の方から声がします。何かあったのか気になったので階段を降りて見に行くことにしました。

降りた先で目に入ったのは、滝の如く水が流れるキッチンの天井です。水漏れなんていう可愛いものではありません。天井から勢い良く、しかもほのかに湯気のたった水が落ちてきます。パズルのピースがハマるように、自分のシャワーがどうして冷たかったのかが分かりました。

いくら古くてポンコツ寮だからといって予想を遥かに超えた出来事です。ネズミ事件の時に怒っていた友達たちも、さすがに笑いながら動画を撮っていました。

あんなに盛大な水漏れを見ることはこれからもきっとないことでしょう。

。。。。。

④ 寒くて凍えた、暖房事件

私の寮は、地下室のボイラーで温めたお湯を使った暖房のシステムを取り入れていました。14℃より気温が安定して下がらないと使えない仕様になっています。ポンコツエピソードを並べてきたので予想内でしたが、この暖房、別に気温に関係なく使えない時は使えませんでした。共有スペースであるキッチンとリビングダイニングのエリアは1度たりとも暖かくなりませんでした。

冬季は共有スペースで時間を過ごせるわけでもなく、自室でもモコモコのガウンを着て、湯たんぽを抱えて過ごす日々が続きました。少しでも体を温めたかったので、生姜の粉を入れたお湯をいつも飲んでいたのも懐かしいです。二度と同じような日々は過ごしたくありませんが、おかげで少し寒さへの態勢がついたように感じます。

。。。。。

おわりに

ポンコツ寮に住んで良かったことは、「まあいっか」の精神が身についたことと、スピード至上主義でない社会を経験できたことです。こう何度もポンコツアクシデントが発生すると、流石に誰でも慣れてきます。ポンコツありきの暮らしです。それを見越して備えておいたり、対応策を作っておけば、そんなに嫌な気持ちにならなくてすみます。

「子育てとは、その子が絶対に転ばないように全ての石をどけてあげることではなく、転んでから立ち上がり方を教えてあげること」という旨の言葉をどこかで聞いたことがあります。
全てが完璧に滞りなく行われることよりも、アクシデントに緩くしなやかに対応できるようにすることの方が、ずっと気楽でいいかもしれないと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?