【詩】いさなの旅人
かなしくはない
重力に捕われどこまでも沈み
この深海に何の光もなくても
透明になってすべて水に満ちて
この身に何もなくても
かなしくはない
むかし飲み込んでしまった
取り返しのつかないものが
たったひとつの臓器になって
海の怪物になってしまっても
かなしくはない
涙が青く光って深海を照らす
悲しみではなく生命の涙だ
生まれ落ちた時に流す歓喜の涙だ
海水の中に溶け混ざらずに
無明の中の初めての光になって
海溝の青色の太陽になって
僕は二枚のこの翼を広げよう
水を掻く大きな青い翼と尾羽を
無数の小さく暗い目のない生き物が
闇の中で虹色に反射するだろう
停滞と飢餓の闇の砂漠に
眠り続けた黒い群れが
この水の風を受けて舞い上がる
かなしくはない
高圧の底で燃え上がることのない炎が
物言わぬ炉として願いを噴き上げる
喪失と宿命から生まれた大地に
僕はあなたを探して旅する定め
優しくはなれない
心などかまわない
かなしくはない
僕は目覚めたのだから
荒々しく喰らい旅する定め
ここへ幾億の階を落ちてきて
遠い遠い星空を求める定め
たったひとつの臓器の怪物となって
かなしくはない
僕は旅人になったのだから
この歌を聴き涙を流す
あなたの悲しみだけを探して
今日から旅に出るのだから
あとがき
ある2曲の印象で書きました。
私はあらかじめ内容は考えないで書くので、出来上がってからいつも感慨深いです…。この曲の印象はずっと形にしないでいたけど、書いてみるとこうなるのかと。そして昔書いたものとも繋がった感じがしました。
それと、これは私も今まであらわしてきたひとつのクジラの物語において語られていなかった部分なのかもしれないなーと思いました。
その物語は私が語ったのではなく、私はそれを享受する立場であり、この物語を賜り最も喜ぶ者です。
創作はそういうものではないかとずっと前から思っている、私は自分が創ってるんじゃなく、問いかけの答えとして、頂いている気がする。みんなそうなんじゃないかと思っている。それは完全な解答ではなく、カフェでの世間話のなかの一つの応答のようなものなのかもしれないけど、私の心を和ませてくれる美しいものだろう。完全な解答が得られるわけじゃなかったから今も悩んでいる。でも今まで創ったなかで私に語られたものは全て愛しいと思ってやまないです。とても大切なものです。
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