新しい明治のころ
初恋
まだあげ初(そ)めし前髪(まへがみ)の
林檎(りんご)のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれなゐ)の秋の実(み)に
人こひ初(そ)めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃(さかづき)を
君が情(なさけ)に酌(く)みしかな
林檎畑の樹(こ)の下に
初恋とは何か。幼馴染の少女にエロスを初めて見出したころ。キリスト教で禁断の木の実とされた林檎。そして、栽培され始めた新しい林檎。
そんなイメージが新しく、明治のころ学生たちに口ずさまれたのがこの詩だ。この初初しさは今も心をうつ。
欧米の詩や小説が入って恋愛がテーマであるとき、初恋ということばが見いだされた。大日本辞典によると江戸時代初期の小説で使われだした言葉だったらしい。好色で彩られたことばが新しく据えなおされた。
私の子供のころは明治生まれの人が生きていた。
そのなかで新しい詩を創造し知られていたのが島崎藤村だ。
信州の小諸城を歌った詩があって修学旅行で連れまわされたりした。みんなわけわからんかったと思う。今、藤村の詩を知っている人は少ない。
でも、言葉にできない性のもやっとした感情に初恋と名を与えた人のひとりだ。
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