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宝石令嬢は幸福に貪欲です

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【不定期更新・暴力表現・性描写あり】 ※独自の世界設定のため、分かりやすくするために実際に存在する言語を使用しています。また実際ではありえない行為もありますが、この世界では標準で… もっと読む
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記事一覧

第22話 希望の宝石6

運動着から制服に着替え直し、更衣室を後にして教室に戻る。教室には数人の生徒が残っているが、私が教室に入るのを見かけた生徒が一礼するだけで、特に何もなかった。武技の授業の後に何か言われるかと予想していたのでホッとしつつ、私は通学カバンに教科書を詰め、教室を後にしようとした。
「カメリア嬢。」
背後から呼び止める声が聞こえて振り返ると、そこには笑みを浮かべたミッドウェルの姿があった。
「あら、ミッドウ

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第21話 武技の少女2

「うおっ!」
動揺の声が上がって、ガルフ先生が横に避けたのを見て、私は右手をそちらへ振り払うように叩き込む。
「くっ!」
ガルフ先生は私の右手に模造剣を振り下ろすも、ガン!と鈍い音がして、剣は腕の上で止まった。
「なっ!?硬いだと!?」
「やぁっ!!」
動揺するガルフ先生に左の拳を叩き込むも、咄嗟にバックステップして避けられた。
「おいおいおい!待て待て!お前、硬すぎないか!?」
「あら、そうでし

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第20話 武技の少女1

学年毎に用意された更衣室で、制服から同じく支給されている丈夫な運動用の服に着替えると、後ろに流していた髪をヘアゴムで纏めてお団子にする。クリスの言う通り、武技の授業で着替えているのは私だけで、女子更衣室は静まり返っている。
「えっと、訓練場はあちらかしら。」
広さで迷いそうになりつつも、何とか時間前には訓練場へたどり着いた――案の定、訓練場のそばに設置された小休憩用のベンチには、双子が休憩を装って

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第19話 近しい悪意2

「こんなところで、また男を侍らせていたのね!ファウンティール侯爵令嬢のすることではないわ!」
姉の怒りはすでに沸点を超えていて、歩み寄ってくる態度を見れば、不満まみれだ。
「これはトゥリア様、ご機嫌麗しゅう。」
クリスが姉に挨拶をするも、それも気に食わなかった姉が鼻を鳴らした。
「貴方達に用はないわ、おどきなさい。」
「そうですか。それじゃ、行こうか。リア。」
流れるように私の手を取って立ち去ろう

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第18話 穏やかな昼1

初日に自分で選んだ授業をいくつか終え、あっという間に昼食の時間を知らせるチャイムが聞こえた。私は双子との約束通りに食堂へ向かうと、出入り口から溢れんばかりの生徒の数でごった返していた。ハルシオネ学園の全校生徒は200人弱しかいないのだが、生徒の殆どが爵位を持つ貴族の生徒で寮生活を送っている為、昼食を食堂を利用することが多い。例外として、姉を含めた侯爵家の子が自身の招いたシェフに寮内で作らせることも

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第17話 希望の宝石5

教室には20席ほどの机とイスが並べられ、特に席の指定もないようで自由に生徒が座っていた。私とチェルシーが教室に入った瞬間、他の生徒がこちらに一気に視線を向けた――—他の生徒が私を値踏みする、私の一番嫌いな瞬間だ。
「まぁ、ファウンティール侯爵令嬢様だわ。」「隣にいるのはあの"染物伯爵"の。」「お二人揃って来られるとは。」「似た境遇ですものね。」
女子生徒の声のほとんどが爵位のある貴族令嬢だろうか、

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第16話 希望の宝石4

姉の姿が完全に見えなくなってから、私は双子の方へ視線を向けた。
「巻き込んでしまってごめんなさい。クリス、クレオ。」
「随分と"苛烈"なご令嬢だね、君のお姉様は。」
不快感を隠さずにクリスは、姉が向かった玄関の方を睨みつけていたが、すぐに私の方に向き直り、心配そうに私を見た。
「あれは酷すぎるね。いつも、あぁなの?」
同じように心配そうに見つめるクレオに、私は苦笑いで返すしかなかった。見上げた先に

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第15話 近しい悪意1

それは悪意がある、と誰でもわかる声色で、声の主が気づいた私は慌てて双子から手を離して、距離を取るように一歩前に出る。私の突然の行動に双子は困惑したが、
「トゥリアお姉様。わざわざ来てくださり、ありがとうございます。」
私がわざと名前を呼びながらも一礼した姉の姿を見て、気づいたようだった。
――あぁ、やっぱりいると思った。私は顔を上げたくない気持ちを抑えて見上げた。
母と同じ金髪だが、淡い桃色の光を

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第14話 希望の宝石3

「あぁ、そうだ兄さん。晴れて恋人同士なんだから、愛称で呼び合おうよ。」
馬車が敷地に入ったところで園舎にはまだ到着しない為、馬車の中ではクリスフォードとクレオリッドが、私を挟んで会話を続けていた。
「あ、愛称ですか!?」
確かに恋人同士ならばそういうのもアリだが、まさかついさっきなったばかりの恋人同士がいきなり愛称で呼び合うという、と数段の階段を一気に駆け上がるような状況に、思考があらぬ方向に走り

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第13話 希望の宝石2

「積もる話もあるだろう、ってファウンティール侯爵様が馬車の手配をしてくれたんだ。」
私達が落ち着いた頃、双子がこの馬車にいた理由を話すクレオリッド。
「もう、お父様ったら。そう言ってくださればいいのに。」
「僕達も、もう話してるものだと思ってたよ。さっきのカメリアの反応を見ると、ファウンティール侯爵様のしたり顔が目に浮かぶよ。」
楽しそうにクリスフォードは、そう言って笑みをこぼす。双子それぞれが眩

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第12話 希望の宝石1

高等学園入学初日。
支給された制服に袖を通し、マリーに手伝ってもらいながら髪を整える。
胸元まで伸びた髪を編み込みでサイドアップにし、後ろはそのまま流してもらうと貴族令嬢っぽい雰囲気にまとまった。
「お嬢様、とってもお似合いですよ。」
「あら、そう?少しは侯爵令嬢っぽく見えるかしら。」
「何をおっしゃいますか、いつでもお嬢様は麗しの侯爵令嬢ですよ。」
マリーのお世辞にふふっと笑いながら、通学カバン

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第11話  斜陽の影1

あの時から過ぎ去った日々を思い返すのも苦悩だけで、私は誤魔化すように修業と護身術の稽古に打ち込み、無我夢中で取り組んでいく内に、9歳と10歳の誕生日が過ぎ去っていった。
その間も一切双子に会えず、文通も双子に届かないことを知ってからは、出すのも諦めてしまった。時々、双子とのあの時間を思い出しては今までの手紙を読み返して、何とか自分自身を奮い立たせた。今度は手放さないように、力をつけて会いに行くんだ

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第10話 曇る道の先1

久しぶりに見たリアナイト侯爵夫人は、以前よりも傲慢さが増していることに、見ただけでわかるほどだった。リアナイト侯爵夫人が身に纏う宝飾品は常にファウンティールの新作の宝飾品だったが、今は以前と全く変わらず、私と双子が初めて会った時の宝飾品だった。玄関で出迎えた人物の中に、"宝石侯爵"である叔父だけでなく、ファウンティール侯爵家の当主である父と、私が立っていることにリアナイト侯爵夫人は嫌気を隠さずに睨

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第09話 届かぬ手2

結局双子には会えずに時間だけが過ぎ、父と叔父も馬車へ乗り込む音が聞こえて、ガタンと馬車が動き出した。
「カメリア、出ておいで。」
父の声が聞こえて、私は蓋を手で押し上げた。マリーの手を借りて荷物スペースから出ると、その上の座席に座り直した。
「マリーから聞いたよ、会えなかったそうだね。」
「ええ。あちらのメイドがダメだ、と。」
「私もそれとなく夫人にも確認したが、どうも屋敷にいなかったようだ。すま

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