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2021.夏-2022.夏はピアノにチャレンジしました

毎年、何かの上達にチャレンジするのが自分の中での定番になりつつあります。
2021年夏-2022年夏の期間は、ピアノの練習に励んでいました。結果として、いつか自分で弾けるようになりたいと思っていた「亡き王女のためのパヴァーヌ」を無事に(?)アップロードすることができました。


今回の記事では、区切りとして約1年間の練習内容を振り返っていこうと思います。(方法としては隙あらばとにかく練習を積み重ねていくことに尽きるのですが、具体的に何を意識してどういう練習をしてきたのかを記録に残しておこうと思います。)

この記事は、今後の練習を考えている方が断片的に参考にすることを想定して執筆しました。そのため、色々詰め込んで約1万字の長文に仕上がっています。
誰か一人にでも何かが参考になれたら幸いです。



ピアノの練習をはじめたきっかけ

中学時代の憧れ

合唱コンクールでピアノの伴奏をしている人たちに憧れがありました。伴奏者って超かっこいいですよね。それで自分も学校に置いてある鍵盤キーボードで「旅立ちの日に」の伴奏を見よう見まねで覚えたのち、休み時間に音楽室のピアノで弾こうとしたことがありました。しかし、実際のピアノは鍵盤がめちゃくちゃ重くて指が攣りそうだし、ペダルの使い方も分からないので速攻で匙を投げました。
(ピアノを習っている同級生に「ペダルってどう踏むの?」と聞いたら「一番右のやつをなんとなく踏む」と返され、全然分からんと思った記憶があります。)
この経験以降、大人になったらピアノを練習しようとうっすら思っていました。


現在

行きつけの定食屋の店長がアナログレコードを趣味としており、たまに一式を貸してもらっていました。幅広いレコードのジャンルの中でも特にお気に入りだったのは、「亡き王女のためのパヴァーヌ」という (とても有名らしい)ピアノ曲を、作曲した本人が演奏している音源でした。そして2021年7月、ふとしたときに「この曲、自分でも弾けたら絶対楽しいな」と思い至り、その場の勢いでピアノのレンタルスタジオを予約しました。

こういう風に、「新しくやりたいこと」というのは、ぽっと出で生えてくることはあまりなくて、すでに自分の中で十分な伏線が育っていることが多い気がします。自分の外ではなく自分の内を探した方が、案外やりたいことがすんなり見つかるのかもしれません(?)。



練習を始めるにあたって

①まずはとにかく手を動かす

ということで、勢いだけでピアノルームを予約し、勢いで初心者用の楽譜を購入し、勢いでピアノを弾いてみました。

最初に使った楽譜は「蛍の光 (Auld Lang Syne)」の初級verです。せっかくなので好きな曲を選んでみました。
(ちなみに自分はピアノ以外に楽器経験があるのと、鍵盤と音階の関係も分かるので、最初から両手を使う譜面を買いました。)

そうして全集中で練習した音源がこちらです。録音した直後はめちゃくちゃ自信満々だった記憶があるのですが、今になって聞くとアレですね。

ところで、世の中にはPDCAという言葉が存在します。これは、Plan→Do→Check→Actionの頭文字を取ったもので、計画を立てて実行し、実行結果をもとに改善していく一連のフローを指します。しかし私は正直、このPDCAが実行できた試しがありません。これには2つの理由があります。

1つ目は、知識がない状態で計画を立てることは、非常に大変な作業であるからです。仮に計画ができたとしても、見識がない状態で立てた計画は高確率で的外れなので、あっという間に破綻してしまいます。

2つ目は、計画を立てるだけで満足して終わってしまうことあるからです。計画を立てるというのは、未来の成長した自分を夢想できる楽しさがあります。ですが、未来の自分を夢想してムフフとなって、そこから先に進まぬままtheエンドすることがしばしばあります。

つまるところ、私にとってPDCAのP(計画)は破綻の元凶なので、何かを始めるときは、考えるよりも とりあえずさっさと手を動かしてしまうことにしています。手を動かしていれば何かしら課題が見えてくるので、その経験をもとに計画を考える方が効率が高い気がしています。

そういうことで、初日に練習して気づいた課題は以下の5つです。

① 鍵盤の重さ:重すぎて指がつらい
② 指の筋力のばらつき:これのせいで意図しない音量が出てしまう
③ ペダルの使い方:みんな使ってるけどよくわからないもの
④ 目線を置く場所:楽譜や鍵盤(右手・左手)のどこに目線をやればいいのだろう
⑤ 運指の複雑さ:曲のレベルが上がると、右手も左手も複雑な動きになりそう

中でも優先順位が高い課題は「①鍵盤の重さ」と「②指の筋力のばらつき」で、これらは早めにアプローチしておきたいと感じました。


②練習計画を立てる

現状が把握できたところで、目標に向けての計画をざっくり考えます。改めて記すと、私の最終目標は「亡き王女のためのパヴァーヌ」を弾けるようになることでした。そして、そのための課題として、まずは以下の5つを挙げました。

①鍵盤の重さに慣れること
②指の筋力のばらつきを解消すること
③ペダルを使えるようになること
④目線の置き方を確立させること
⑤複雑な運指もできるようになること

中でも最優先は①と②です。これら2つに関しては、インターネットで色々調べているうちに、『ハノン』という本にたどり着きました。
これはピアノの練習をする上でかなりメジャーな楽譜らしく、曲を弾きながら指のトレーニングを行うことができます。

ちなみにハノンは単調すぎて飽きることでも有名だそうです。ただ、自分は普段から泥臭い作業を大量にやっているので、退屈であるだけなら大丈夫だろうと判断しました。ということで、5つの課題のうち「①鍵盤の重さに慣れること」と、「②指の筋力のばらつきを解消すること」に関しては、ハノンなる練習を続けていけば、いずれ自然と解決できそうです。

続いて、「③ペダルを使えるようになること」「④目線の置き方を確立させること」「⑤複雑な運指もできるようになること」について。
これらに関しては、「亡き王女のパヴァーヌ」に取り組む前に、一旦もっと簡単な曲を練習して慣れていくことにしました。

曲を選ぶにあたって重視したのは、音階のレンジがほどほどに広いこと、現状の実力よりやや上の難易度であること、そしてYoutubeに演奏動画が上がっていることです。演奏動画があると楽譜のリズムが理解しやすいし、ペダルを踏むタイミングを真似することができるからです。
つまるところ、ピアノで使われる技法は、弾きたい曲を練習しながら帰納的に学ぶことにしたわけです。

「亡き王女のためのパヴァーヌ」を練習する前に選んだ曲は、初日に練習した「蛍の光」をさらに難しくした楽譜でした。

https://youtu.be/iKsuUgF8wXM

演奏動画の足の動きを見ればペダルのタイミングが分かります。(緑の帯で少し隠れていますが……)
当然ながらこの時点で難易度を適切に見極められるはずがないので、想定よりも遥かに難しい楽譜でした。「上級って書いてあるけど、楽譜すかすかだし大丈夫っしょ!」などと見込んで大変な目に遭いました。

練習計画についてまとめ
・手を動かして課題を得たあとにインターネットで調べながら計画を立てた
・ハノンを練習して鍵盤の重さに慣れたり指の筋力を整えたりすることにした
・いきなり「亡き王女のためのパヴァーヌ」には挑まず、まずはもっと簡単な曲にチャレンジすることにした
・独学なので、Youtubeにお手本がある楽譜を選んだ
・技法そのものを練習するというより、曲を練習しながら技法を習得することにした


③ 練習環境を整える

計画を立てながら、並行して練習環境を整えて行きます。練習環境は一気に整えるよりも、必要に応じて徐々に整えるほうが挫折率を低く保てる気がする近年。

最初はレンタルピアノスタジオでアップライトピアノを借りて練習することにしていましたが、最終的にはこの計画は途中で少し変更となりました。
なぜなら、レンタル中にハノンを練習して曲を演奏して新しく運指も覚えて……とやっていると、時間が圧倒的に足りないからです。レンタル時間を増やすためにはお金がかかります。そうなると練習中ずっとお金のことがチラついて最悪な感じになっていたので、家でも練習できるように環境を整えました。

家での環境については、ありがたいことに友人が鍵盤キーボードを譲ってくれました。(作業通話でピアノの練習を始めた旨を話したら、そういう流れになりました。今でも感謝の気持ちでいっぱいです。)

最終的には家の鍵盤キーボードと、レンタルピアノスタジオのアップライトピアノを使い分ける形に落ち着きました。

練習環境の使い分け
家の鍵盤キーボード:主に”曲の練習”をする (特に運指)
アップライトピアノ:主に”楽器の練習”をする (鍵盤・ペダル・表現技法など)



練習内容

全体的な流れ

家での鍵盤キーボードを用いた練習と、レンタルスタジオでのアップライトピアノを用いた練習について、それぞれの全体的な流れを記します。

家の鍵盤キーボードでの運指練習
① 楽譜にドレミを書き込む
② 1音ずつなぞって弾いてみる (演奏動画の指番号も参考にする)
③ 1小節分つなげて弾いてみる
④ 次の1小節も同様に練習する
⑤ 区切りがいいところまでいけたら頑張って一連をつなげて弾いてみる
 (最初は詰まっても全然いい)
⑥ 慣れてきたらプロの演奏の音源と合わせて弾いてみる
 (最初はついていけなくても全然いい)
⑦音源と同じリズム・スピードで弾けるまで繰り返し練習する
 (苦手なところがあれば音源なしで重点的に練習し直す)
⑧楽譜をまったく見なくても弾けるようにする

レンタルピアノでの練習
①メトロノームアプリを使いながらハノンを20番まで練習する
②家で練習したところを、アップライトピアノでも弾いてみる
③Youtube動画のペダルのタイミングを真似しながら弾いてみる
③ペダルに慣れたらスマホで録音しながら弾いてみる
④録音を聴いて、リズムやメロディラインに違和感があれば、その部分を練習
⑤再度スマホで録音しながら弾く。違和感がなくなるまで修正を繰り返す
 (時間がかかりそうだったら途中でやめて後日に回してもいい)
⑥レンタル時間の終了5分前になったら弾けるところまでなるべく途切れさせずに弾く。もちろん録音する
--------
⑦レンタルが終わったら、電車の中で、プロの演奏と自分の録音を聴き比べ、気になるところをメモしておく (次回の課題)

要するに、弾けるようになるまでトライアンドエラーをゴリ押ししまくっただけです。個人的ポイントは、全然弾けなくて もどかしい気持ちになっても、途中で練習を投げ出さないことでした。ピアノは、一定期間を苦しめば、ある日いきなり成長できることが多い気がします。
しかし、「練習方法は、たくさん練習しただけです」で完結させると味気ないので、 次の章から練習内容を細かく掘り下げてみようと思います。


練習内容①:楽譜の読解について

曲を弾くためには楽譜の読解が第一です。先述の通り、私はピアノ以外での音楽経験があったため、ト音記号とヘ音記号の音階の読み方や、スラーやスタッカートなど、初歩的な楽譜は読解できました。
ただし、音階はドレミを直接譜面に書き込まないと演奏できないし、中級者レベル以上の知識はまったくもって不完全でした。たとえば過去の合奏では「ここのリズムはよく分からないけど周りに合わせて雰囲気で演奏しとこう」みたいなノリで済ませていたことも多く、3連符などは理解していませんでした。

つまり自力ですべて読解できるレベルには至っていなかったので、音源とアプリに大きく頼りました。アプリについては「楽譜スキャナー」という、写真やpdfで読み込んだ楽譜を自動で演奏してくれるアプリ(有料)を選びました。

ただし、このアプリはたまに変な認識をしてしまう難点があります。たとえば、音階が一部だけト音記号からヘ音記号になったとき、ヘ音記号を音符だと誤認して変な演奏を再現してしまうなどのミスがあります。とはいえ、デメリットを考慮してもこのアプリにはとても助けられました。

(譜読みがまったくできない方は、アプリを使うだけでなく別途勉強することを強くオススメしたいです。先述の通りアプリの認識は完璧ではないため、その部分は自分で頑張って補完する必要があります。)


練習内容②:運指について

運指を練習するときは、Youtubeの演奏動画をよく参考にしていました。
「亡き王女のためのパヴァーヌ」は以下の動画を参考にして練習しました。他の方の演奏と比較すると楽譜にとても忠実で、ゆっくり演奏していることもあり、非常に理解しやすかったです。鍵盤の上にあるカラオケみたいなバーも、いい仕事をしています。


練習内容③:リズムについて

ピアノには指揮者がおらず、メトロノームをかけることもできません。1音1音に集中力を払う裏側で、抽象的に全体のリズムを見据え続けることが要求されます。

すなわち、ピアノ演奏でのリズムの取り方は個々人のセンスに委ねられており、演者によって演奏スピードの緩急が違うことが当たり前になってきます。どうも「自然に聞こえるリズム」は存在しても「正解のリズム」は存在しないようです。そのため私は、さまざまな人の演奏を研究して、好みの部分があれば取り入れていきました。音源と一緒に合わせて弾くことで、自然なリズム感を磨くようにも心がけました。

一方で、音源に合わせずに演奏したとき リズムに違和感がないかどうかを把握するのは難しいです。そのため私は、演奏するときは必ず録音するようにしていました。録音を後から聞いてみると演奏中には気づかなかったさまざまな課題に気づけるため、とてもよかったです。


練習内容④:目線について

私以外にも多くの人が迷うであろう、「目線をどこにやればいいか問題」についてです。調べてみた限りだと、鍵盤はほとんど見ずに楽譜だけ見る人もいれば、鍵盤だけ見て楽譜をほとんど見ない人もいるようです。プロはそもそも演奏時に楽譜を置いていません。レッスン講師の主張もばらばらで、これといった正解がないように見受けられました。

ということで、結局は自分に合うスタイルを確立するのが一番なのだと思います。現状の私がたどり着いたスタイルは以下の通りです。

・楽譜:ほとんど見なくていいように暗譜する
・右手:あまり見なくていいように体に覚え込ませる
・左手:ミスしやすいのでなるべく鍵盤を見るようにする

最初はタッチタイピングと同じノリで楽譜だけ見るように努めていたのですが、そうすると左手でミスを連発してしまうため、左手に視線を向けることが多くなりました。(ピアノはタイピングのように手の位置を固定することが難しいので、鍵盤を見ずに弾くのは難易度が高いですね……。)

といっても、左手だけガン見していたら右手の音を間違えたり譜面が頭から飛んだりすることもしばしばありました。最終的には、視点を一点だけに定めるというより、「空間的に注意を分散させつつ、左手の動きへの注意力に重きを置く」みたいなイメージでやりました。


練習内容⑤:楽譜をよく読む

ある程度弾けるようになって余裕が生まれたら、楽譜を隅々までちゃんと読んで記号などをチェックします。(これは最初からやるべきかもしれませんが、私の場合、最初は運指で精一杯です……。)

書いてみると当然のことですが、楽譜通りに弾くと、楽譜通りに弾かないよりも美しく弾くことができます。ただし楽譜通りに弾くというのはとても努力がいることだと思っていて、脳が勝手にいらない記号を補完したり、細かい記号を無視して弾いたりしてしまいがちです。それを一つずつ改善していきます。

ピアノの楽譜は特有の記法があったり、作曲者が母国語で指示を書いていたりするので徹底的に調べました。インターネットはたいへん優秀で、Ped(ペダルを踏む)という記号を「Leo 楽譜 意味」と調べても、アルペジオという記号を「楽譜 にょろにょろ」と調べても、ちゃんと答えが出てきました。

「亡き王女のためのパヴァーヌ」60小節目より、Leoと読んでしまったPedと にょろにょろ(アルペジオ)

また、楽譜の記号を無視したら音色がどう変わってしまうのかを細かく検証していました。私はプログラミング言語を勉強するときも、初期ではまずコードを写経して、1行コメントアウトしたら結果がどうなるかを予想・検証するなどしながら勉強するのですが、それと似たノリです。これを音楽用語を使って述べるなら、「アーティキュレーションを考えること」だと言えそうです。


練習内容⑥:メロディラインの意識について

私がピアノで特に難しいと感じるのは、メロディラインをきちんと目立たせることです。たとえば「亡き王女のためのパヴァーヌ」のこの部分

13小節-15小節目より

ピンクで塗られた音を目立たせる必要があるのですが、右手の指を4本使いながら1音だけ目立たせるのはなかなか難しいです。

あとはこの部分も

60小節-61小節目より

右手を忙しなく動かす必要がありながらも、実はメロディに相当するのはピンクの部分だけなので、それ以外の音はあまり目立たせてはいけません。この加減もたいへん難しいです。

メロディラインは今でもうまく鳴らないことが多々あり、あまりいい解決案を書くことはできないのですが、「亡き王女のパヴァーヌ」の場合はメロディの音を右手の薬指か小指で担当するようにしています。あとは、体全体や手首の動きを工夫して、手の重心が右手の小指側にいくようにしています。この辺りは、意識して練習あるのみかもしれません。


練習内容⑦:表現力について

曲を完成させるためには、練習の終盤で表現力を詰めていくことが必須です。
ピアノでは、楽譜で指示されているアーティキュレーションをベースにしつつ、演者が独自のアーティキュレーション / アレンジをつけ加えることが多いように思います。そのため、たとえ同じ楽譜を使っていても、演者によって曲の表情は異なってきます。たとえば、同じ「亡き王女のためのパヴァーヌ」でも、サンソン・フランソワ氏とフジコ・ヘミング氏と辻井伸行氏の演奏はまったくの別物のように感じられます。

では、自分なりの表現を確立するにはどうすればいいでしょうか。個人的には、いろんな人の演奏を聴きながら参考にするのは一つの手だと思います。
また、曲や作曲者について研究することも有効だと思いました。たとえば私は「亡き王女のためのパヴァーヌ」について以下のことを調べました。

(a) タイトルの意味
作曲者ラヴェルは、亡き王女(une infante défunte)というタイトルは韻を踏めることが由来のひとつだと述べている。フランス語では,infanteは大人の王女というより幼い王女のニュアンスがある。パヴァーヌは貴族が舞踏室へ入場する
ときのダンスを意味する。

(b) テンポの変化
初期はテンポ54とゆったりめの曲だった。しかし作曲者が第一次世界大戦や母の死を経験したのちは、テンポが70くらいまで上がっている。私が聴いていたレコードの演奏も後者で、かなり速い。 (しかしたいていのピアニストは前者のテンポ54くらいの楽譜でゆったり弾いている印象がある。)

(c) 長調と単調
音楽には長調と短調という区分があり、簡単にいえば長調は明るい雰囲気をもたらし、短調は暗い雰囲気をもたらす。「亡き王女のためのパヴァーヌ」はタイトルのわりには長調がベースになっていて、長調と短調が混ざっている形式。これには「教会旋法」の影響。

(d) 作曲者ラヴェルのコメント
ラヴェルは当時、この曲について自分で酷評していた。(当時、音楽家の間での評判がそこまでよくなかったことを考慮したコメントかもしれない?) しかし、ラヴェルが記憶障害になったのちは、この曲を聴いて「美しい」と評した逸話がある。

以上のことを考えると、「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、重々しいネガティブな感情を込めるべきではないと判断しました。どちらかといえば、小さい女の子があどけなさを残しつつ優雅に踊ろうとしている、みたいな、少し軽快さのある雰囲気を目指すようにしました。
また、この曲は同じようなフレーズが繰り返されるのですが、ちゃんと微妙に違いがあります。その違いが何を意味するのか自分なりに考えるようにしました。

表現力を詰める前は、頭の中で楽譜を思い浮かべたり、「あ、ここ間違えやすいところだから気をつけなくちゃ」などと思ったりして弾いていた節がありました。
しかし表現力を詰めていくと、脳がしだいに言語・楽譜・技法などの枠組みを超越して無の境地みたいなものに至ることがある気がします。この現象はピアノに限ったものではありませんが(書道とかでもよく経験します)、やはり楽しいものですね。


おまけ: ジムに行って体を整える

ピアノは指がすべてだと思っていたのですが、練習していくうちに肩や手首や体幹なども非常に大事であることに気づきました。
しかし、自分は普段から長時間のデスクワークをしていて、あちこちの関節がバキバキなのがスタンダードでした。これじゃあ演奏にマイナスだと想い、2回目の給付金をパーソナルジムに遣うことにしました。

当然ながら無人ジムの方が安くつくのですが、自分に必要なことを調べてトレーニング内容を調べて計画を組む……という一連にかかる精神コストがつらかったのと、間違った動きでトレーニングをしていても自分では気づけない懸念があったので、思い切って投資しました。

そもそも体にさまざまな問題を抱えていたので、実際はピアノ以外の文脈でもメニューを組んでもらいました。ピアノに関しては、肩甲骨の可動域を(正常になるまで)広げることと、前鋸筋のトレーニングがとりわけ有効だった気がします。ほかにも自覚できていないだけで効果的だったメニューがあると思います。ジムのおかげでピアノがとても弾きやすくなりましたし、猫背も治ったので超おすすめです。



メンタル的な話

私が普段利用しているレンタルスタジオは、いくつかの部屋があります。しかし、通路に音が漏れるし、ドアの窓から部屋の中を見ることができてしまいます。通路で聞こえる他の人の演奏は、プロみたいにとても上手です。

その一方で、日頃からひどいハノンを響かせている自分は後ろ指をさされてるような感覚になって、練習せずに帰りたくなるときが度々ありました。部屋の中を冷やかしで見られるんじゃないかと思ったり、上手くなったと喜んでいた自信が勝手に根こそぎ折られる気分になったり。
たとえるなら、太鼓の達人で前の人がめちゃくちゃ上手いと、列から離れたくなるようなのと似た(?)気持ちでした。

自分の技術が恥ずかしくて、いっそピアノをやめたくなることは多々ありましたが、それでもちゃんと練習に打ち込んでよかったと今では思います。自分より上を見て落ち込むのは、成長を自覚しはじめた初心者には特にありがちだから仕方ないと割り切りました。
こういうふうに、自分が感じる焦りや不安を、客観的な現象として定義するのはとても効果があるので、今後も活用したいです。

ちなみに、今回は私が架空の嫌な人をぼんやり想定して怯えていただけですが、実際に嫌な人に遭遇してしまったら自然災害だと思うようにしています。



ピアノを練習してよかったと感じたこと

私はまだまだ実力的には不十分ですが、それでも「分野外の人間」ではなく「分野の半人前」になれたことには、とても大きな意味があると思います。

たとえば私は、ピアノを練習することで、華々しい活躍をしているピアニストに対して「なんかすごそう」ではなく「めちゃくちゃすごい!」というふうに、実感を伴った敬意を抱けるようになりました。そのレベルに至るまでにどれだけの努力をし、どれだけの苦労をしてきたのだろうと、少しでも想像を馳せられるようになったのが嬉しいです。

そして、これは決して「ピアノを練習すれば、ピアノを極めている人に心から敬意が払えるようになる」という一対一の関係では終わらないと思います。「何かを極めようと努力すれば、世の中のすべての分野の人々が培ってきた技術や苦労に対する想像力が補強される」という、一対多の関係になるのだと感じています。

昔、フランス文学者の内田樹先生が少し似たことをおっしゃっていたのを思い出したので引用してみます。

経験的に言って、一人の「まっとうな学者」を育てるためには、五十人の「できれば学者になりたかった中途半端な知識人」が必要である。非人情な言い方に聞こえるだろうが、ほんとうだから仕方がない。一人の「まともな玄人」を育てるためには、その数十倍の「半玄人」が必要である。別に、競争的環境に放り込んで「弱肉強食」で勝ち残らせたら質のよい個体が生き残るというような冷酷な話をしているわけではない。「自分はついにその専門家になることはできなかったが、その知識や技芸がどれほど習得に困難なものであり、どれほどの価値があるものかを身を以て知っている人々」が集団的に存在していることが一人の専門家を生かし、その専門知を深め、広め、次世代に繋げるためにはどうしても不可欠なのだということを申し上げているのである。

http://blog.tatsuru.com/2014/09/03_1111.html

「分野外の人間」から「分野の半人前」になることで、界隈の裾野に少しでも貢献できていたら嬉しいです。



今後について

ひとまず目標だった「亡き王女のためのパヴァーヌ」を投稿することができましたが、まだまだ演奏に拙いところがたくさんあるので、練習を重ねてもっともっと上手になりたいです。
また、最近は「ノクターン Op.9 No.2」という曲も素敵だと思えるようになり、新しく練習を始めています。
ということで、今後も練習を地道に続けて、たまにインターネットにアップしていけたらなと思います。社会人になったら自分でピアノを買ったりレッスンに通ったりできるようになりたいです。

それではまた。

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