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博多炉端魚男 FISHMAN図解

博多駅からバスで15分ほど、最寄り駅は薬院。静かな通りの突き当たりに、温かな灯をともした飲食店「博多炉端魚男 FISHMAN」があります。FISHMANは2009年にスタートして今年(2020年)で11年。エスプーマを使った豆腐料理や、液体窒素で冷やしたトマト、目の前で焼き上げる卵焼きなど、味も美味しく見た目も楽しい工夫を凝らした料理が魅力です。料理だけでなく、ポールダンスや競りやベリーダンスなど一癖変わったイベントも人気で、週末にもなると満席は当たり前というほどの盛況ぶり。そんな多くのお客さんに愛されてきたFISHAMANですが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、大きな転換期を迎えています。

出会いは一件のメールから

ある日、メッセンジャーに一件の問合せがありました。株式会社M&Co.の代表取締役 森智範さんから「博多にある自分の店の絵を描いてくれませんか?」という内容。

代々木上原にあるレストラン「sio」図解をみて、ぜひうちのレストランもこんな風に描いて欲しいとのことでした。(sioを描いた経緯はこちらより。 https://www.zenrosai.coop/e-tasukeai/imadekiru/columns/column30/)

森さんが営むお店は福岡にある博多炉端魚男 FISHMAN。ですが、森さん自身はFISHMAN以外にも全国の飲食店やレストランのコンサルタントもされているそうです。森さんはフレンチ料理から料理人の道を歩み始め、レストラン「パロマグリル」を開いた後、その隣の敷地で2009年からFISHMANを運営し始めました。個性的で美味しいお料理や、飲食店の枠を超えたイベント。FISHMANの革新的な取り組みは多くのメディアにも取り上げられ、連日予約でいっぱい週末は常に満席というほど人気店になりました。しかしながら新型コロナウイルスの影響を受けて状況は一変。人を呼びたくても呼べず、集まることも難しい状況下で、以前のようにイベントを行うことはできなくなりました。しかし、森さんはこのピンチで立ち止まらず、FISHMANを新しい目線で捉え直そうと動き出しました。

体温を感じられる場所へ

森さんにとって、コロナ前のFISHMANは決していい状況ではありませんでした。コンサルタントとして全国を飛び回っていた森さんは、自分のベースであるFISHMANを後回しにすることが多かったそうです。博多にいる時間が少なかったというのも一つの要因ですが、何より「FISHMANにファンがいない」という感覚がネックになっていました。いつも賑わっているけど、毎日くるような常連さんはいない。ユニークなイベントで人は来るけど、打ち上げ花火のようにパッと消費される感覚がある。やがて森さんは、FISHMANに対して、賑わいはありつつも虚無感や寂しさを感じるようになりました。

そんな折に発生したのが新型コロナウイルスの感染拡大。以前は全国を飛び回っていましたが、出張が難しくなり『後回しにしていた』FISHMANと向き合わざるを得ない状況になりました。今こそ、FISHMANと正直に向き合う機会になるかもしれない。そう思った森さんは、緊急事態宣言の期間を充電期間と捉え、現場を見直し2020年6月にFISHMANをリニューアルオープンさせました。

これからのFISHMANについて「インフラになりたい」と森さんはいいます。例えば、フードロスに寄与するような社会的に価値のある存在、そして常連さんがいるような居心地のよい場所になりたい。ただ食べるだけではなくて、心を満たす場所でもありたいと話していました。これからは体温を感じさせるお店作りに励んでいきたい。だからこそ温かみを感じさせる絵を私にお願いしたいと思ったそうです。そのお話を聞いて、深く共感するものがありました。小杉湯がただお風呂に入るだけでなく、様々な人にとっての居場所となって欲しいと思い、小杉湯の番頭して日々店作りに励んでいるので、同じ思いを持って歩みだそうとしている人を、絵で応援したいと純粋に思ったのです。

FISHMAN取材へ

8月末、FISHMANへ伺いました。実測調査を行い、写真撮影をし、森さんとスタッフさんにインタビュー、お店の雰囲気を体験し、実際にお店の食事を味わう。お店の雰囲気をしっかりと味わうため、今回は調査に2日もうけました。実測調査とインタビューの後、森さんは店内のこだわりを紹介してくれました。

例えば、奥のカウンターの椅子。こちらは日田の材木屋さんで売っていた電柱の木を使っているそうです!なるほど、だからこその味のある木目感…

ライトへのこだわりも。店内を煌びやかに彩るライトはピート・ヘイン・イークによるもの。スクラップ材木や工場廃棄物などの素材を利用して、リサイクルやサスティナブルなど、環境を意識したものづくりをしているアーティストさんです。使用感があるからこその味のある佇まいが素敵です。

また、食器についても。様々な作家さんの食器を厳選して使われているそうです。様々なスタイルが入り混じってますが、どれも上品に統一されています。他にも、店内に飾られているオブジェなどこだわりは沢山。お店に訪れた時は、ぜひキョロキョロしながら店内を見回って欲しいです。

FISHMANをつくる方々の想い

森さんの話を伺い、お客さんの目線よりさらに踏み込んでFISHMANを理解して図解を描きたいと思いました。そこで、調査に際してFISHMANスタッフ3人の方へのインタビューの時間をいただきました。

行武(ゆきたけ)さん

行武さんはFISHMANのお母さんのような存在で、FISHMAN全体をみています。FISHMANの前身、パロマグリルから関わっており12年間森さんと働いています。以前はホテルの飲食に関わっていたそうですが、そこでは同じ野菜が年中テーブルに並んでいました。行武さんは『田舎育ち』だそうで、旬の野菜を旬に食べることが自然だったため、いつも同じ野菜があることに違和感を覚えていました。その違和感をずっと抱えていたため、5~6年前にFISHMANで旬の野菜を食べることにこだわり、農家さんから直接野菜を買い取るようになりました。自分の思いを重ねながら関わり続けていたFISHMAN。コロナの変化について伺ってみると、コロナ以前は忙しくて個々のお客さんと繋がれないことが多々あったので、コロナをきっかけにFISHMANのお客さんと向き合い、旬の野菜についてもさらに色々なことをやっていきたいと話していました。

りこさん

現在、FISHMANは二人の店長で支えられています。店長のおひとり、りこさんに話を伺ってみました。りこさんは元々、FISHMANのアルバイト。8月中旬に突然店長となったことで、正直プレッシャーも感じていると話していました。彼女のFISHMANの好きなところはお客さんと沢山お話ができること。テーブルで、今日のオススメなどをお客さんに伝える瞬間が好きとのことです。そんな賑やかなFISHMANが好きだったので、コロナ後の変化は少し寂しさも感じているそうです。お客さんが少しでも楽しんでもらえるように、何か新しい形でイベントをやれたらいいなと、今後について思いを語ってくれました。

ほのかさん

W店長のもう一人、ほのかさん。彼女は3年前にFISHMANにバイトに入り、りこさんと8月中旬に店長になりました。FISHMANの好きなところは自由度が高いところ。型が決まっていないので、自由に話せること、お客さんと会話する中でお客さんがノってきた時に手応えを感じるそうです。コロナ以前は週末は常に満席だったので、コロナの影響でお客さんが減ったことについては純粋に不安を感じています。だからこそ、今後はお客さんが楽しくいられる、そして自分たちも楽しく働ける環境を作りたいとのことでした。

FISHMANの味

インタビュー、調査を終えて、お待ちかねFISHMANの食事をいただきます。2日続けて様々なお料理を食べさせていただきました。

まずいただいたのが、名物・階段刺身盛り合わせ。今や東京のお店でも見かける個性的な盛り方ですが、元祖はこのFISHMAN。

ひとつひとつ既に味付けがされています。口に入れるととろけるよう…。ネタの新鮮さもさることながら、ネタに対する味付け方が抜群で、圧倒いう間に食べてしまいます。下から順に食べていくのも楽しさの一つ。

さて、これは何の料理でしょう?

こちらは液体窒素を使った-196°のフルーツトマトです。もうもうと湧き上がる上がった煙に何が出てくるのかな?とワクワクする時間も楽しい。味はもちろん絶品。実の奥までしっかり冷えていて、暑い夜にぴったりの甘さと冷たさでした。

他にも、まるでケーキのようなポテトサラダや、

唇と舌??のような雲丹の炙り肉焼き「ベロチュー」、

かわいらしい手まり寿司など、見た目も味も楽しいお食事がいっぱい。東京にあったら毎週通うのに…と惜しみつつ、二夜にわたってお腹いっぱいになるまで食事を楽しみました。取材にご協力くださったみなさま、ありがとうございました。

FISHMAN図解制作過程

FISHMANでの調査データをもとに、東京に戻って図解の作業を始めます。

① 下書き

最初は下書き。森さんからいただいたFISHMANの平面図と、現地で測った細かな寸法、それとキッチン裏まで撮影した数百枚の写真を元にFISHMANの空間を描いていきます。

図解は主に建築図法「アイソメトリック」という描き方を利用しています。ちょと角度をつけた平面図に高さをつけて、斜め俯瞰図的に描く方法です。今回も平面図のデータを元に、カウンターがよく見える角度で、定規と三角スケールを駆使して描いていきます。

アナログで描きこむのはここまで。FISHMANは椅子が多いので、デジタルで複製して描いていきます。また、人も細かい上に修正が多いのでこちらもデジタルで描き込むことにしました。

ipadでの作業動画がこちら。修正しつつ描き加えます。

完成です

② ペン入れ

トレース台の上に下書きと水彩紙を重ね、水彩紙に耐水ペンでトレスしていきます。下書き段階ではざっくりとしか描いていなかった人の表情などを、この段階で細かく細かく描いていきます。

完成です

③ 着彩

最後は着彩の作業。トレスした水彩紙に、透明水彩絵具を重ねていきます。FISHMANで撮影した写真をみながら実際の色味に合わせられるように工夫を凝らします。

完成です

④ 文字入れ

最後に、スキャンした原画の上に、ipadで文字を書き加えていきます。はじめにイラストレーターで簡単に文字をのせ、森さんに確認いただきます。

そして完成したのがこちらのFISHMAN図解です。

取材から1ヶ月半。大分お時間をいただいてしまいましたが、細部までしっかり描き込んだ作品に仕上げられたと思います。今回、図解を描く上で「体温を感じられる温かなお店」の雰囲気を届けられることを目指しました。コロナ渦を経て、森さんだけでなくFISHMANのスタッフさん含め全ての方の状況が一変しました。これからに向けてFISHMANは再スタートを切りましたが、皆さんのお話を伺うと皆さんおぼろげな不安を抱えているように感じられました。それはスタッフさんだけでなく、FISHMANを訪れる方も皆同じことを感じていらっしゃると思います。そんな不安な気持ちが蔓延しているからこそ、優しく温かな居心地の良い空間を描いてみました。今、額屋さんに額装をお願いしているので、来月の頭ごろにはFISHMANのお店に飾られると思います。この図解が少しでも、これからのFISHMANの背中を押すことができたなら幸いです。

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