見出し画像

京大は簡単になったのか - 合格最低点の変化から統計分析してみた

「京大のレベルは90年代と比べて下がっている」
「昔は京大理学部は東大より名門だった」

…等々、耳にすることが増えてきている訳ですが
これはほんまなのかと。

90年代のデータを漁ろうとしても、簡単に見つかるのは2000年以降のデータばかりでよくわからず、謎は深まるばかり。

そこで京大の資料を片っ端から遡り、1987年の合格最低点まで収集することに成功しました。いそいそと半日以上かけて手入力したのはここだけの話。

今回はこのデータを用いてこの疑問について検証していきたいと思います。

ここ30年で得点の変更等も合ったことを鑑み、比較に用いたデータは
「合格者最高得点率」「合格者最低得点率」の2つとしています。

競争時代: 1987-1999年 / 現代: 2015-2024年と定義して、それぞれの平均値を計算したものが以下です。
※医学部は医学科のみ考慮 / 総人は文理合算

競争時代: 1987-1999年 / 現代: 2015-2024年
競争時代から見た現代の得点率

うーん…。
問題のレベルが変化している以上単純比較はできないのでしょうが、合格最低点に関してはあまり変わっていない印象。

1990年代は特に数学の難易度が高かったことで有名なので、それを鑑みると合格に必要な学力が低下していると言えなくもないのでしょうが…。
言うほど変わってないような気もします。

実データを見ていると散らばりも大きい気がしてきたので、分散も見てみます。

データの散らばりは大きい

単位が%であることを考えるとかなり散らばりが大きいように見えます。

とりあえずこれらのデータを用いて統計的に検定してみます。
※細かい分析に興味がない方、結果だけ知りたい方は飛ばし読みで総括まで飛んでいただいて大丈夫です!


この場合に適した検定を選択するために、考慮すべき状況を整理すると以下のようになります。

  1. 教育制度や試験内容の変化:

    • 競争時代と現代の試験内容や評価基準が異なる可能性がある。例えば、競争時代には試験が非常に難しく、得点率の分散が大きかったかもしれない。一方、現代では試験が均一化され、得点率の分散が小さくなる可能性がある。

  2. 受験者層の変化:

    • 競争時代と現代で受験者の層が異なることが考えられる。競争時代には非常に優秀な学生が多く受験していたため、得点率の分散が小さく、平均得点率が高かったかもしれない。一方、現代ではより多様な層の学生が受験するようになり、分散が大きくなる可能性がある。

  3. 教育の質の変化:

    • 時代によって教育の質が変化することがあります。例えば、現代の教育はより個別化され、学生一人ひとりに合わせた指導が行われることが増えています。これにより、得点率の分散が大きくなる場合がある。

以上を考慮し、「Welchのt検定」の適用を行うことにします。

Welchのt検定は、2つの独立したサンプルの平均値を比較するための方法で、以下のような特徴があります:

  • 分散が等しくない場合でも適用可能: Welchのt検定は、2つのサンプルが等分散であるという仮定を必要としないため、分散が異なる場合でも適用可能です。

  • 異なるサイズのサンプルにも適用可能: サンプルサイズが異なる場合でも適用できます。

これにより、競争時代と現代の得点率の分散が異なる場合でも、適切な統計検定を行うことができます。

ここでは
帰無仮説:競争時代と現代の得点率の平均に有意な差はない。

対立仮説:競争時代と現代の得点率の平均に有意な差がある。
とし、

・p値 < 0.05の場合、帰無仮説を棄却し、競争時代と現代の得点率に有意な差があると判断します。

・p値 >= 0.05の場合、帰無仮説を棄却できず、競争時代と現代の得点率に有意な差がないと判断します。

結果は以下の通りです。

有意な差が見られた学部:

  • 工学部: 最高得点率(p値=0.01)、最低得点率(p値=0.05)

  • 農学部: 最高得点率(p値=0.02)、最低得点率(p値=0.04)

  • 教育学部: 最高得点率(p値=0.01)、最低得点率(p値=0.02)

  • 文学部: 最高得点率(p値=0.05)

これらの学部では、競争時代と現代の得点率の平均に有意な差があると判断できます。

有意な差が見られなかった学部:

  • 理学部、医学部、経済学部、法学部、薬学部、総合人間学部では、得点率の平均に有意な差がないと判断できます。

次に、競争時代と現代の得点率の分散が等しいと仮定して、等分散を仮定したt検定(Student's t-test)を実施してみます。

Student's t-test

この結果からも、工学部、農学部、教育学部、文学部で競争時代と現代の得点率に有意な差があることがわかります。特に、農学部と教育学部では有意な差が確認されています。

総括

競争時代(1980年代後半〜1990年代)と現代(2015年以降)の大学受験生の得点率を分析し、Welchのt検定を適用して統計的に学力の変化を検定しました。その結果、以下のことがわかりました:

  1. 学力低下が有意な学部:

    • 工学部農学部教育学部文学部では、競争時代と現代の得点率に有意な差が見られ、学力低下が統計的に有意であることが確認されました。

  2. 学力低下が有意でない学部:

    • 理学部医学部経済学部法学部薬学部総合人間学部では、得点率の平均に有意な差が見られず、学力の低下が統計的に有意でないことが確認されました。

ひとこと

正直なところ現役京大生としては有意な結果が出てほしくはなかったのですが、やはり多少の変化はあるようですね。
東京への一極集中、医学科人気等の煽りを受けているというのはある程度真実なのかもしれません。
最も意外だった点は理学部であまり変化がなかったことです。

配点や問題の難易度変化等、もう少し考慮すべき部分もあるかと思われますので、ご意見があればお気軽にコメントお待ちしております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?