見出し画像

アナザーエナジー展

1.さいしょに。コロナ禍でご無沙汰だった森美術館

六本木ヒルズ森タワーの森美術館。久しぶりに行きました。
そしたら、入口のところの内装が変わっててびっくり。券売機を置いたりして、シネコンみたいになっていました。これもコロナ影響なのでしょうか。

前回行ったのが2019年の塩田千春さん『魂がふるえる』だったので、コロナ禍によりご無沙汰だったのだなぁ、と、改めてこの2年を振り返りました。

『アナザーエナジー展』も、本来は昨年2021年の秋に会期終了予定でしたが、延期して1月16日までとなっています。
私事ですが昨年夏から秋にかけては病気の治療のため美術展に行く余裕がなかったので、最後にギリギリ見に行けて、私にとってはラッキーな会期延長となりました。

2.アナザーエナジー展とは

『アナザーエナジー展』とは、70代以上の女性アーティスト16名の活動と代表的な作品を展示し、彼女たちのエネルギーは何なのかということを問う企画です。

年齢は71歳から105歳まで、全員がアーティストとして50年以上のキャリアだそうです。

私自身女性であり、また今49歳という年齢で、彼女たちに比べたらひよっこみたいなものですから、これから先の人生の指針を求め、この企画に興味を惹かれました。

展覧会のURL:
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/anotherenergy/index.html

《16人の作家》
エテル・アドナン  ベイルート
フィリダ・バーロウ イギリス
アンナ・ボギギアン カイロ
ミリアム・カーン  スイス
リリ・デュジュリー ベルギー
アンナ・ベラ・ガイゲル リオデジャネイロ
ベアトリス・ゴンザレス コロンビア
カルメン・ヘレラ  ハバナ
キム・スンギ  韓国
スザンヌ・レイシー アメリカ
三島喜美代 日本
宮本和子 日本
センガ・ネングディ アメリカ
ヌヌンWS インドネシア
アルピタ・シン インド
ロビン・ホワイト ニュージーランド

3.森美術館ならではの展示、ロビン・ホワイト&ルハ・フィフィタ
『大通り沿いで目にしたもの』

森美術館は比較的新しく、そして現代アートに特化した美術館であるため、構造が大きく作られています。
それを活かし巨大なインスタレーションも大胆に展示してくれるので、私は大好きな美術館です。

夜22時と遅くまでやっているので仕事の帰りに立ち寄りやすいですし、また、正月も休まずやっているのも、好きなところです。
多忙でも、美術と触れ合えるのですから。

今回の『アナザーエナジー展』における森美術館ならではの展示と言えば、
この作品など。

画像1


ロビン・ホワイト&ルハ・フィフィタ
《大通り沿いで目にしたもの》

巨大な作品ですね。

これは織物ではなくて和紙のような紙なんですよ。
どのようにつなげているのか技術的なところはわからないんですけど、だからこそすごく謎めいていて神秘的に感じました。エジプトのパピルスのように、いにしえの秘密を隠していて、まだ解明できていないもののように。


4.森美術館ならではの展示 三島喜美代 『作品A-21』

さて、こちらの三島喜美代さんの作品も大きさを活かした展示となっています。

こちらの作品はセラミックでできているので割れるものなのですが、
作品を活かすために柵などを設けずに展示していました。

画像2

三島喜美代 
《作品A-21》

悪気はなくても、他の作品に気を取られて歩いていると踏んずけてもおかしくないでしょう?

なので、このエリアには学芸員さんがたくさん配置されていました。

「足元にお気をつけください」、などの声掛けを絶えずしていて、大変だなと思いましたが、やっぱりこのように展示されていると、すごく良いんですよね。

作家が意図したものなのかは私にはわかりませんが、
大振りに作られることでこの光景にズームインするような、自分が小さくなってよりこの物体に近しくなっているような感覚を持ちます。
そして、私が感じるのは、『ゴミ』や『無駄』ではなく、もっと生き生きしたもの、これだけで動きだしそうな活気です。
セラミックという素材の端正さがそう感じさせるのでしょうか。
背面(正面があるのかどうなのか、少なくともこの写真を正面とすると奥から見て背面ととらえています)に回ると鉄さびの穴から中の新聞紙が見えて、またそれがぞわぞわわくわくするかんじなんですよね。

これを感じさせてくれる展示は、森美術館さんさすがだなと思いますし、
展示品を守っている方たちに感謝しています。

三島喜美代さんご自身はこの作品を『情報の化石』と評しているとのことなので、私の感覚とはまた違う意図があるのでしょうね。化石は生き生きしてはいないイメージですからね。いろいろお話をうかがえれば楽しいでしょう。過去の記事などまた探して読んでみようと思います。新たな発見があるでしょう。

同じ写真の右奥に山積みにされている古紙の作品、こちらも三島喜美代さんの作品です。これは巨大でした。
今回の作品一覧のPDFを見ると、サイズは227×490×390とのことなんですが、実際はもっともっと大きく感じました。高さがあるからだろうなあ。

話が脱線しますが、作品一覧に『本作品展示には森美術館ベストフレンズに多大なるご支援をいただきました。』と書かれていました。
……どういうことでしょう?
森美術館ベストフレンズに支援されていますという文言、過去の展覧会でも割とあるようなんですが、森美術館のメンバーシップにはそういうポジションはないようですし……
疑問のまま書き散らして、ごめんなさい…。

でも少なくとも、初見でパッと浮かんだ、『巨大作品を小分けにしてえっさえっさベストフレンズがバケツリレーで運んでくれている』という映像は、たぶんそれはないだろうと思います。

こちらの作品は作家所蔵ってことなんですけど、どこに保管されているのでしょう、現代作家は巨大な倉庫が必要ですね。


この古紙の山の裏側にも、三島喜美代さんの作品があります。
鉄網のごみ箱の中に空き缶がたくさん入っている、という作品です。

そこで、

『あっ直島でこういうの見たよね!』

と思い、調べたらやはり、直島にあるのも三島喜美代さんの作品でした。
直島のアート作品の中でもずいぶん辺鄙なところにあるんですよ。あの辺徒歩で動くの大変でしたけど、こうして作家さんに再会できたのですから、あの時見ておいてよかったなと思います。

こちらに詳しい記事が載っていますので、ご覧ください。三島喜美代さんご自身が作品の隣に立っている写真があり、その大きさにあらためて驚きます。→ https://benesse-artsite.jp/story/20210621-1679.html

こうして疑問や感想が次々に湧いてくるということは、私はこの作家さんが大好き、ということですね。

『アナザーエナジー展』に公開されているインタビュー映像を見ても、とにかく楽しそうな方なんです。

5.引き込まれる絵 ミリアム・カーン『美しいブルー』

『アナザーエナジー展』のポスターの作品の作者、ミリアム・カーンの作品はどれも素敵でした。
中でも、こちら。

画像3

ミリアム・カーン 『美しいブルー』

何とも美しく、気持ちよさそうにも見える。それでいて、不穏ではないですか?息ができない。
そこが美しさの本質である、ただ美的なだけでは済まされない畏れのようなもの、に通じる気がします。

ミリアム・カーンさんの作品にはもっとあからさまに不穏な暴力を描いているものも多かったです。
そして人物の姿勢がすごく悪い。人間の肉体を美しく見せるための姿勢ではなく、歪み、縮こまった姿勢が特徴的です。この姿勢でその人の心情や境遇を表しているのでしょうか。

それでいて、たぐいまれな美しい色彩。この色は、何でしょう。

ミリアム・カーンさんは『アナザーエナジー展』の作家さんの中で最年少の70代ですから、今後も新たな作品を生み出していくでしょうし、また新たな作品の中で、この謎が少しずつ解けていくのを楽しみにしています。

余談となりますが、私は彼女が描く女性に共感を覚えました。ミリアム・カーンさんは男性・女性に限らず性器をはっきりと描きます。
男性器って美術においてけっこう描かれていますが、女性器はめずらしいですよね。

扇情的でもなく、グロテスクでもなく、神聖でもなく、シンボリックでもない。じつにしっくりくる女性器なんですよ。

かといって、さりげなく描いているわけではなくて、ジェンダーがテーマになっているのは明らかなんですけれど。

なぜしっくりくるんだろう?
別に女性器描いてくれーって思ってるわけでもないんですけどね、表現されるとなぜか私についているのとは他のものになってしまうし、さりげなく存在できない!というもどかしさ、腹立ちが常にありましたので、そこから解放されました。これは観に行った収穫大きいですよ。

6.面白くてずっと見れる スザンヌ・レイシー『玄関と通りのあいだ』

また、映像作品だったので写真を撮っていないのですが、
スザンヌ・レイシー『玄関と通りのあいだ』も面白く、20分の作品をずっと見ました。

これはストリートで実施したフェミニズムのイベントの模様を編集し、三面の大きなスクリーンに投影している作品です。
ニューヨークを舞台にしたドラマなどで目にする、通りに面して立ち並ぶアパートメントの小上がりになっている作り、あのポーチにそれぞれテーマごと(なのかな)にチームが場所を設けて、女性の貧困、人身売買、LGBTQ、などについて議論を行っていました。

私はどんな考えなのかによらず対話することが好きですし、こういった膝を詰めて議論をする場がで人がざわめいているのってなぜか安心して、ずっと見てられるんですよね。私は『インタビューのほらあな』というサイトに友人、知人と対話した内容を載せる、ということをしていまして、何のために?という狙いがなく、ただやりたくてやっているんですけど、たぶんそれと同じ気持ちで、この作品を見ました。

これがアートなのか?

というと、アートの定義は私には難しいのですが。

7.さいごに 生きにくい現代にアナザーエナジーを貫くインタビュー

『アナザーエナジー展』を貫いているのは、この16人のベテランで長寿のアーティストへのインタビューです。

皆さんに同じことを聞いていて、その映像が各作家のエリアで流されています。これがなかなか見ごたえがありました。むしろ、このインタビューこそがこの展覧会の意味なのだろうと感じます。
これが無かったら、ただご長寿のグループ展ですからね。そして現在生きていて70歳以上で女性であるということしか、共通点はないのですから。

インタビューのURL:https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/anotherenergy/02/index.html

アートとは?モチベーションは?未来をどうとらえる?若い人へのメッセージは?
といった問いです。どなたの答えもすごく興味深かったです。

アートって、実用ではないですよね。
でも、私の人生には必要なものというか、私に生死を考える精神というものがあるかぎり、無くてはならないものだと思います。

でも、いま、この現代において、そういった哲学をはっきりと心に持つことの困難さを感じてもいます。

また、いま、私は病を抱えて生き方に悩みを持ってもいます。

そんな自分が、インタビューから熱く感じたことは、
16人の女性がそれらの問いに対して(質問されるよりもずっと以前から)真摯に、ひたむきに向かい合って今まで生きてきた、ということです。

哲学をはっきりと心に持つことが困難な時代に。

彼女たちの答えに共通していたのは、
その人自身であること、全力で自分であり続けること、そして作り続けること。

ああやはり、そのようにして生きていくのだな、と腑に落ちるところがありました。

不思議ですね、人生の大先輩に、自分の後半生の生き方の知恵を習おうと思ったのに、どの人もとても若く、みずみずしく思われました。私よりも、ずっと。


会期終了間際に行ったため、今頃記事にしても、
読まれて行ってみようって方は少ないかもしれませんが、Webで作品を見られますし、今後別の展覧会で作品が出品されることもあると思いますので、ぜひ興味を持った方はチェックしてみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?