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拾遺詩編

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2015年7月の記事一覧

初夏にむかう地図

時間が波であるように
あの孤島までの距離が海だった
船には速度を与え
その船からは速度を奪った
距離を与え 海を奪った
海を与えて距離を奪った
島々を抱く波の指先が
波を抱きかえす島々のその反応に触れていた

負の花を育ててきた
だれよりも多く立ち止まり
いかなる抱擁もしんじなかった
けむたいけむたい波しぶきにむかって
けむたいなけむたいなと思いつづけた

それからも負の花を育てた
なにも痛くない

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窓という窓を曇らせて

どうかそれぞれの扉から旅立ち
ぼくの雪を降らせ
ぼくの雪を融かしてほしい
水蒸気となって浮遊するあなたのために
どうか水晶の静寂を揺るがし
窓という窓を曇らせてほしい

それぞれの言葉がすれ違う午前二時に
どうか明滅する信号機よりも彼方から
あなたの季節を届けてほしい
受け取り主のない配達物よりも彼方へと
あなたの翼は放物線を描いて去っていくだろう
真冬の真横から射す陽光のように
なにひとつ温めな

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