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ゲームエンジンはクリエイティブの裏役であり、最大の受益者にはなれない(UnityとUEを事例に)

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  • (2023/03/07) Unityのビジネスモデルとレベニューシェアモデルについて追記しました。


Unityの2022年Q4の売上は、約4.5億ドル(前年比43%増)でかなり好調です。Unityの主なビジネスは、モバイルゲームを中心としたゲームエンジンとオペレーション支援ソリューションの提供です。2022年のモバイルゲーム市場は1360億ドルで、2030年まで年間成長率は10%台を維持すると予測されています。
Unityのライバルといえば、Epic GameのUnreal Engine(UE)ですが、UnityはUEと比べるとはるかに軽く扱いが簡単で低価格なので、モバイルゲーム開発市場でのシェアは50%を超えています(Newzoo)。モバイルゲームトップ1000のうち、71%はUnityで開発されているらしいです(Unity)。ちなみに、UEはとにかくフォトリアルで高品質な制作ができるので、AAAゲームやXRゲームなどでより強い存在感を持っています。

Unityの収益は、大きく分けて「Operate Solution」「Create Solution」「Strategic Partnership and other」とカテゴライズされています。アプリケーションホスティングサービスやボイスチャットなどのゲーム運営を支援するクラウドサービスと、広告挿入によるマネタイズを支援するツールから成るOperate Solutionが最大の収益源で、全体の65%を占めます。前者は従量課金で、後者はレベニューシェアモデルとなっています。いわゆるゲームエンジンツールであるCreate Solutionは約30%で、サブスク課金です。

Business Quant

最大の収益源であるOperate Solutionですが、その中でもマネタイズツールの提供が収益の大半を占めるそうです(Business Quant)。2019年末で、ゲーム内広告は全世界におけるスマートフォンゲームの収益全体の17%を占めており、その規模は約170億ドルです(GameBusiness.jp)。Unityのスマホゲームにおけるシェアは約7割なので、そこから計算すると、レベニューシェアの割合はおおよそ5%程度であることが予想されます。AppleとGoogleが、アプリマーケットで手数料として30%とっていることを考えると、ここはもう少しレベニューシェア率を上げる余地があるでしょう。
Create Solutionは、自動車や建築など、ゲーム以外の領域への展開により収益拡大を模索しています。例えば、メルセデスベンツはUnity Industrial Collection を使い、計器クラスターやメディア、同乗者向けのディスプレイなど、デジタルコックピット全体の UI/UX を開発しています(Unity)。
モバイルゲーム業界全体の成長、最大の収益源であるマネタイズソリューションのレベニューシェア率の向上可能性、ゲーム以外の領域へのゲームエンジンの展開など、Unityはまだまだ成長の余地があります。

UEも、Epic Gamesにとって非常に重要な戦略投資領域です。1億ドル規模のクリエイタープログラムであるMegaGrantや、UE4を使ったゲームタイトルへの資金援助など、クリエイター集客に力を入れていたり、Rad Game ToolsやSketchFabの買収などUEの機能強化に繋がる買収も多数行っています。それでも、UE自体が創出している売上は2019年で約1億ドル程。一方、フォートナイトは同年に37億ドル売り上げています(The Verge)。
最も、Epic GamesにとってUEはフライホイール戦略の中心に位置するコンポーネントであり、エコシステムにある周辺事業を強化するためのコアです。UEで儲けることは必然ではなく、あくまで開発者を惹きつけるためのエンジンであれば良いと戦略的に位置付けているのは一瞥に付します。

Epic Games Primer (Pt I): Epic's Flywheel & Unreal Engine

ここまで見てきたように、Unityは成長を続けるモバイルゲーム市場での圧倒的なポジションを持ち、UEはFortniteやEpic Game Storeを抱えるEpic Gamesエコシステムとの強力なシナジーを持っています。それでも、市場全体のサイズに対してゲームエンジンが稼げる収益は限定的で、最大の受益者はクリエイティブを生み出すコンテンツホルダーであることがわかります。

ちなみに、プレミアムコンテンツの制作ツールビジネスが最大の受益者になれないのは、ゲーム以外の業界でも同様です。例えば、Industrial Light Magicが提供していたVFXは、1900年代後半の映画クリエイティブを支えた大きな技術的革新でした。ILMの出自であるルーカスフィルムやピクサーのタイトルだけでなく、NBCUのジュラシックパークが大成功した要因の一つもILMのVFX技術ですが、その利益のほとんどはNBCUとスピルバーグにもっていかれてしまいました。
アニメ業界も同様です。アニメ業界は国内外で成長し続けている一方、制作会社の売上や労働環境は一向に改善しません。それは、制作会社が製作委員会の下請けとしてアニメ制作を受託しており、作品に対する権利を一切有していないからです。ハリウッドスタジオのように、リスクを背負って映像化の権利を100%保持する形になるようビジネスモデルを変革しないと、アニメ制作会社が儲かる構造にはならないでしょう。その意味で、MAPPAがチェンソーマンのアニメを100%出資したことは、日本のアニメ業界にとってエポックメイキングな意思決定だと思います。

プレミアムコンテンツマーケットにおいて、最大の受益者となるのはクリエイティブであり、作品を作る事業体です。ゲームエンジンやVFX技術プロバイダー、受託者であるアニメスタジオなどは全てクリエイティブの下支えであり、受益できる利益は全体のほんの一部であることを解説しました。

なお、本記事のテーマは、あくまでプロが制作する高品質な「プレミアム」コンテンツに限定される話であることを再度強調します。いわゆるクリエイターエコノミーに分類されるコンテンツ制作に関してはこの限りではなく、これについては別途分析したいと思っています。

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