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Robloxが抱える構造的ジレンマ - 成長の陰にある根本的課題

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・Revenue: $2.2 billion, up 16% year-on-year
・Bookings: $2.9 billion, up 5% year-on-year
・Net loss: $934 million (compared to a $504 million loss in the previous year)

GameIndustry.Biz

日本では知名度があまり高くないRobloxですが、グローバルで見ると、MAUは2億人を超え、高いユーザーエンゲージメントと成長率を誇っている、一大UGCプラットフォームです。Robloxでは、ユーザーはゲームを作成、共有したり、他のユーザーが作成したゲームをプレイすることができます。ゲーム版Youtubeみたいなものですね。2021年に世界で二番目にダウンロードされたモバイルアプリで、950万人を超える開発者を擁するため、2023年以降も安定的に成長することが見込まれています。しかも、ユーザーの80%は16歳以下が占める、若者向けのゲーミングプラットフォームとなっています。今後消費の中心となる若者がたくさんいる場所となれば、様々な事業者が集まってきます。Forever21やNIKE、Vansなどのアパレル企業や、日本だとサンリオや志摩スペイン村(!)なども独自ワールドを作っています。ちなみに、ユーザーは自身で作成したゲームやアイテムをRoblox上で販売することができ、ゲーム内通貨であるRobuxを稼ぐことができます。Robuxは、一定の条件の下で現金に換金することもでき、これまでに300億円以上が開発者に還元されています。

このように、Robloxはクリエイターエコノミーの要素も取り入れつつ、マルチプレイヤーゲームというネットワーク効果をベースに、若い世代を中心にグローバル全体で力強い成長を続けています。メタバースという言葉が流行って久しいですが、メタバースはゲーム領域から発展するという通説において、最も有力なプラットフォームはRobloxと言われるほど、将来性を期待されている企業でもあります。

Seeking Alpha

しかし、良い面だけでなく、Robloxが抱えている課題にも目を向けるべきです。しかもそれらの課題は、Robloxというプラットフォームの成り立ちと密接に関係している構造的課題・ジレンマですので、そう簡単には突破できないものです。

一つ目に、ユーザーの年齢層の問題です。前述のように、Robloxユーザーの約8割は16歳以下で、47%は13歳以下と言われています(Backlinko)。これが、様々な大企業を呼び込む宣伝材料になっているのは間違いないですが、Roblox自身の収益拡大の足を引っ張る枷にもなっているのです。
Robloxの収益源は、大きく分けて二つあります。一つは、Booking Valueといわれるもので、これはゲーム内部通貨であるRobuxの販売益を指します。2021年通期の売上2184億円に対し、1818億円をこのBooking Valueが占めています。もう一つは、広告収益です。主に、大企業が宣伝目的で作成するワールドの構築支援や宣伝収益を指します。これが、356億円を占めています(TradingView)。つまり、収益の約83%はRobuxの販売から得ているのですが、これがまさしくRobloxの成長を妨げている最大要因でもあるのです。つまり、そもそもメインの顧客層の経済力が著しく低いだけでなく、アイテムを買うのにも、基本的に親の同意が必要になってくるわけです(正確には、アイテムを買うためのゲーム内通貨であるRobuxを買うのに親のクレカが必要)。
現在の所、Robloxの収益は順調に成長していますが、ネットワークの成長が頭打ちになると、多くのネットワークはARPUを上げる方向へ注力し始めます。ひと昔前の事例ですが、元々はオークションサイトだったeBayは、メルカリのような固定価格による売買機能を導入したり、PayPalを買収してサービスに組み込むことで、支払いプロセスをスムーズにすることで成長曲線を維持しました。最近だと、パスワードシェアに課金しようとしているNetflixの動きも、ARPUを高めようとする施策と捉えることができます。
Robloxは多くのユーザーを惹きつけていますが、競合も多い領域です。直接的な競合はMinecraftですが、YoutubeやTikTokなど、可処分所得の奪い合いという観点では無数の競合が存在します。そのような中、遠くない将来ユーザー数は頭打ちになるでしょう。その際、メインユーザーが若い故、ARPUを高める戦略も簡単にはワークしないことが予想されます。第二の収益ポイントである広告ビジネスに注力するのか、はたまた別の収益ポイントを模索するのか。ここは注目すべきポイントと考えています。

Backlinko

第二の構造的課題は、Robloxへの批判のタネにもなっている、ユーザーへの低い還元率です。クリエイターへの還元は、なんとユーザーが売り上げた額の75%はRobloxが徴収しています。悪名高いAppleやGoogleのストア手数料でさえ30%なので、75%がいかに高額であるかよくわかります。
75%の内訳は以下のようになっています。

Roblox

一つずつ見ていきましょう。23.3%を占めるApp Store Feesは、Apple StoreやGoogle Playに支払う手数料です。この手数料は、Epic GamesがAppleを訴訟した件や、EUの反トラスト当局による独占禁止法調査に見られるように、かなり物議をかもしています。Epicによる訴訟は雲行きが怪しいですが、EUの方は一定の効果があるかもしれないですね。もしサイドローディングが導入されれば、アプリの入手経路次第でこの手数料を合法的に回避できる可能性もあります(X-Tech)。いずれにせよ、現状、Robloxでコントロールできる変数ではありません。
次に、Platform Hosting  and supportですが、これはサーバー費用やモデレーションコストなど、ライブサービスの運営費です。成長を続ける以上、もちろんコストも増えていくので大幅な削減は難しいでしょう。Robloxの場合、若いユーザーが多いので、成長すればするほどコンテンツモデレーションなどネットワークの治安を維持するコストは右肩上がりに上昇していくはずです。
そして、Platform Investmentです。これは、Roblox Studioの追加機能やモデレーションAI、モーションキャプチャなど、プラットフォームの新機能に使う投資を意味しています。売上の15.7%を当てていますが、これは他社に比べ非常に高い割合です。これは、Robloxがユーザー数の拡大を重要指標としている証拠です。開発環境が改善されれば、より多くの開発者が集まり、良いゲームが増え、ユーザー数が増えるというフライホイールを回す事ができます。ここは、唯一Robloxがコントロールできる変数かもしれません。

このように、支出の内訳を一つずつ吟味すると、25%以上の金額を開発者に還元することは中々難しいことがわかります。解決策の一つとして、Apple税が適用されない広告の導入などは一つの解決策でしょう。ユーザーが、自身の作ったゲーム内に広告枠を設置でき、収益を一部獲得できる仕組みです。Youtubeの収益化機能と同じ発想ですね(GameIndustry.Biz)。

最後に、「遊ばれるゲームの偏り」です。Robloxは基本的にマルチプレイヤーゲームなので、「ゲーム開発者とユーザー」というプラットフォーム全体を構成するTwo Side Platformと、「特定のゲーム内部における、ユーザー間のネットワーク」というOne Side Platformが共存しています。後者において、ネットワーク効果が強ければ強いほど、ユーザーは特定のゲームに集中してしまいます。2018年のデータですが、約400万人の開発者が4000万以上のゲームを制作していますが、そのうち100万回以上起動されたのは1500タイトルで、わずか0.004%です(Greylock)。2020年時点で、最も人気があるタイトルの一つであるAdopt Meは、DAUの3分の1を占めているそうです(Seeking Alpha)。
これでは、ゲームを開発するモチベーションも中々沸かないですよね。しかも、やっかいなことに、Robloxの収益源であるアイテムやアバターの売買には、ネットワークが強く寄与しています。学校の友達やオンラインの友達と交流する場であるからこそ、アバターが装備している服や小物などに課金したくなるわけですよね。ディスカバリー機能の調整などで各ゲームへトラフィックを分散させることは可能ですが、やればやるほどネットワーク効果が弱まり、それが収益を減少させるというシナリオもありそうです。

Seeking Alpha

さらに、ユーザーがゲーム内通貨であるRobuxを換金するには、最低でも10万Robux必要です。これは、おおよそ11万円に相当します。Second Lifeでは10ドル相当の通貨を持っていれば換金できたので、およそ100倍です(Wired)。

このように、Robloxは様々な構造的を抱えています。特に2つ目と3つ目の課題は子供を搾取しているとも言われる所以であり、ElectronicsHubが行った調査によると、Robloxは世界21か国で最も嫌われているゲームアプリとのことです(Gigazine)。

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